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2006年4月29日(土)

吼える

「機械曲げが悪いッて云ッてるんじゃないスけどね。やっぱり男なら、手曲げだろうと」

 何を曲げるのかよくわからないが、どうやらパーツの話らしい。 
 鳥羽くんは、古びたパイプを撫で回し、恍惚とした表情を浮かべている。
 硬派の走り屋にして、旧車マニア。
 その風貌は、遅れてきたカミナリ族とでも云おうか。

「これはね、ゴッドハンドが曲げたマフラーなんス。当時物。あの本田宗一郎も頭を下げた伝説の男は、そもそも」

 勿論、私は怪異体験の採話の為に彼のガレージを訪れたのであって、「ヨシムラ」の歴史について教示を乞うた訳ではない。
 彼は単車の話になると、持論展開にブレーキが効かない性質だった。
 否、ハナからブレーキなどついていないのかもしれない。
 一時間半に及ぶ難解な講釈の末、どうやら大型二輪免許取得と無謀運転が、「男」の条件であるとの結論に達したようだ。
 私は、魂の無い人形のようにガクガク頷き、なるほどよくわかった、もう充分に理解した、それでは現代日本において希少な絶滅危惧種「男」の後継者たる鳥羽くんが重ねてきた幾多の戦歴の中で、最も不可解な出来事と云うのを聞かせてはもらえまいか、と力説した。

「ええ。て云うか今日はその話を聞きに来たんじゃなかッたんスか?先輩、暇なんスか?今日」

 ハハハ。
 なるほど。
 では、その古パイプに穴を開けて、吹奏楽を奏でてみると云うのはどうだ。



 つい半年ほど前の話。
 鳥羽くんは組み上げたばかりの単車に跨り、複雑な峠道が乱高下する県道を攻めていた。
 午前一時か、二時か。正確な時刻は覚えていないと云う。
 「時間なんて気にしたら負け」だからである。
 身を斬るような夜気の中、時を忘れて走る。
 オークションで購入した、三十年前の希少な部品の搭載テストを兼ねていた。
 調子は、上々のようだった。
 
「アルミファンネルなんスけどね。こう、口が開いてるでしょ。ファンネルの放熱量ッて云うのは、素材の」

 小一時間に及ぶ晦渋至極な理論説明の末、とにかく良いものであるとの事。
 ライダースジャケットの下にじっとりと汗が滲みはじめた頃、彼は休憩を取ろうと、丘の上にある駐車場に入った。
 がらんと静まり返った暗い空き地。
 十台程並んだ自動販売機の明かりが、目を眩ませる。
 休日前ともなれば地元の走り屋達がたむろする社交場だったが、その夜は平日と云うこともあり、彼の他に人影は無かった。
 ヘルメットを脱ぐ。息が白い。
 鳥羽くんは単車を降りた。
 エンジンは切らない。
 力強いアイドリング音を愉しむ為である。

 自販機で飲み物を購入していると、背後で突如、「ヨシムラ」の咆哮が響いた。 
 驚いて振り返る。
 愛車の傍らに、男が居た。
 何度もスロットルを回す。
 エンジンが悲鳴を上げる。
 愛情の欠片も無い、素人のふかし方だったと云う。

「何やッてんだオラァアアア!!」

 鳥羽くんは怒号を上げながら走った。
 男がゆっくり、こちらを向く。
 脱色した髪。
 真っ白な顔。
 血の通った人間の顔色ではない。
 所々に赤黒い染みのついた、派手なシャツ。
 自販機の蛍光灯に照らし出されたその姿は、半身が、単車と重なっていた。

「ええ、わかりましたよ。そのぐらいわかりますよ、俺も。人間じゃないスね。重なッてんスから」

 そして、そんな事は鳥羽くんにとって、関係の無い事だった。
 彼は全速力で間合いに入るなり、その色の悪い顔面を渾身の力で殴りつけた。
 ゴツン、と手応え。
 生きている人間と変わり無い、確かなヒット感。
 殴る。殴る。
 完全に、頭に血がのぼっていた。
 男が、後へ下がる。
 俺のZ2から離れろ。
 殴る。殴る。殴る。
 離れろ。
 殴る。殴る。殴る。
 離れろ。


 気が付くと、男の姿は無かった。
 静寂の中、心細げに響くアイドリング音が、胸を締め付けた。
 鳥羽くんは怒りに身を震わせながら、愛車のエンジンを撫でたと云う。
 


 二週間ほど後、彼はその不愉快な体験を、知人の走り屋達に話した。
 男の着ていたシャツの柄に、心当たりのある者がいた。

「そいつのツレだッたらしいス。四ツ輪の方なんスけど、走り屋で」

 一年以上前に、峠から転落して亡くなった人物ではないかと云う。
 件の社交場では、この一件が「Z2の鳥羽」に纏わる新たな伝説となったそうである。
 そして、そんな事は鳥羽くんにとって、どうでも良い事だった。

「すみません先輩。さッきから気になッてたんスけど。先輩が座ッてるの、メグロ純正のエンジンなんス」

 ややイラついた様子で、彼は煙草を揉み消した。
 私は、慌てて謝罪し、席を立った。


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[講評]吼える by 極私的【超−1】講評 at 2006年4月30日 7:52

LRg

久遠平太郎 2006年6月3日 21:23

評価±0。
オチの体だけ見てた人と頭だけ見てた人がいるというのが面白かっただけに、怪異の部分の描写があっさりしすぎていたのが残念です。

柏木 麻宏 2006年6月3日 17:42

−1
怖さが伝わってきませんでした。余りインパクトもないかと。

ぼっこし屋 2006年6月3日 2:37

そういう見え方もあるのか、と感心した一方、最後の二行に関しては、わざわざ言及しなくとも、読み手には十分伝わっている事柄なので野暮ったく感じました。
±0

mariman 2006年6月2日 21:37

http://plaza.rakuten.co.jp/mariman1234567/3189

sora 2006年6月2日 12:19

文章;■■□□□
怪異;■■■□□
恐怖;■■□□□
評価;■■□□□→±0
体験者や著者による解釈は省いたほうが良い。余計な解釈は興が殺がれる。

ミミちゃん 2006年6月2日 2:16

tb
http://chabin.blogtribe.org/entry-ffb1a6b909b10729f9bc55937eb318d2.html

brother 2006年5月30日 19:39

ソツがない作品だとは思いますが、なんかインパクトに欠ける気がします。
ボクが疲れてるのも関係してると思いますけど。^^;
今感じるのは、淡々としすぎているということと怪異の描写が弱いかなー、ということです。
±0ってところでしょうか。

吉田 2006年5月30日 13:59

得点なし
ふむ。別々に首と胴体を見るってのも面白いですな。そして2人ともが、見た瞬間には何も言わず黙っているって状況も、ある意味で怖い感じがします。
ネタが微妙に複雑なだけに、構成次第ではすごく面白い短編になったかもしれないですね。

有澤 凪 2006年5月30日 1:01

よくあるネタのうえ淡々と書かれすぎていると思います。−1

もり けんた 2006年5月29日 22:30

うー(--;)
なんてあっさりと起承転結〜。えー、そんなあ、それでおしまいですか?
彼女はブロッケン伯爵ごっこをしていたのですね。しかもむりやりオチまで〜(TT)話に緩急を設ける必要を感じました。
±0です。ちなみに美人でしたか?

林不二男 2006年5月29日 20:47

最後の二行いらないと思います。ネタ的には面白さも怖さも感じたのですが。
得点なし

TOMOKI 2006年5月29日 15:07

丁寧な文章には好感が持てますし、首と胴体を別々に見たという怪異も
いい(怖い)と思います。惜しむらくはやはり最後の2行の解釈で。
親切すぎてしまいましたね。ここで語らずとも、読者に任せてしまった
方が怖さが増したと思います。解釈が入らなければ好評にしていたの
ですが。0

ponken 2006年5月28日 19:42

なるほど、体のパーツを見た人がそれぞれ違うと言うのは、面白いですね。最後の説明は、親切すぎたと思います。+−0で。

藪蔵人 2006年5月28日 17:10

うーん、実際に体験したら滅茶滅茶怖いんでしょうけど。
首と体を別々に見た、なんて素敵な題材なんですけどねえ。
この作品からはその怖さが全くといっていいほど伝わってきませんでした。
やはり強調すべき点、削除すべき点等を明確にしたほうがよろしいのではないでしょうか。
評点: 0

てらまち 2006年5月28日 16:58

作者なりの結末の作り方があるのだろうが、やはりあくまでも読み手がどう感じるか、ということを思いながら書いたほうが良いと思う。作品は人が読むものであって、作者の自己満足であってはいけない。−1。

しまあに 2006年5月28日 13:37

首の無い女を見たヒト、首だけ見たヒト。
良いんじゃないでしょうか?
1

水町 2006年5月28日 1:59

恐怖が伝わりにくい。±0

風来月人 2006年5月27日 21:53

もう少し断ち切った終わり方の方が怖かったかな。惜しい。

±0です

ナルミ 2006年5月26日 1:41

これも、余計な解釈は興をそぐだけで逆効果である。
最後の2行がなければ+1だったのだが。
±0

くりちゃん 2006年5月25日 22:13

首しか見なかった人、胴体しか見なかった人がいて、首と胴体は持ち主が同じらしい、というのは面白く感じました。
ただ最後は
「…恐怖で怯える友人を嘲り笑う様な顔で見つめていたという。」
というところで終わりにした方が余韻があってよかったと思いました。

ネジ 2006年5月25日 22:01

あんまり怖くなかったです。
予想を一歩も越えなかったというか。±0

金縛郎 2006年5月25日 17:20

最後の二行で、ある意味ぶち壊しですね。クラシカルな
スタイルの怪談であれば、ここまで帰結させる必要が
あったのでしょうが、敢えてそうせずに読者側の想像に
委ねる方がよいのではないでしょうか。

±0。
O
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