| VK | TOP | HP |


2006年4月24日(月)

ええかげんにしいや

 これは、さなえちゃんが小学四年生の頃のお話です。
 ある朝、さなえちゃんはいつものように、お友達のはるかちゃんをむかえに行きました。
 小学校へ一緒に登校するのが、日課だったからです。

「おはようございます。はるかちゃんは起きてますか」

 さなえちゃんは、礼儀正しく挨拶をしました。
 はるかちゃんのお母さんは、

「おはよう、さなえちゃん。はるか、さなえちゃんがむかえに来てくれたわよ」

 と言って、台所へ入って行きました。
 しばらくすると、はるかちゃんが、まだ口をもぐもぐさせながら出て来ました。
 少しきげんが悪そうです。きっと、いつものように、寝坊をしたのでしょう。
 さなえちゃんが「やれやれ、困ったさんだなぁ」と思っていると、はるかちゃんは「おはよう」の挨拶もなしに、ひどくビックリした様子で、さなえちゃんを見つめました。

「ちょっと、さなえちゃん、その顔どないしたんや」
「えっ?」
「どないしょ、えらいこっちゃ」

 さなえちゃんはおどろいて、自分の顔をさわりました。
 お顔はきれいに洗ってきたし、おさげもちゃんとむすべています。
 へんだな、何かの冗談なのかなと、さなえちゃんは首をかしげました。

「そうか。ごめん、何でもないねや。学校、行こうか」

 はるかちゃんはランドセルを背負うと、「いってきます」の挨拶もなしに、家を飛びだしました。
 「ああ、いつものくせかな」とさなえちゃんは納得して、後を追いかけました。



 はるかちゃんはときどき、奇妙な事を言うくせがある女の子でした。
 小学校に入ってすぐの頃は、毎日奇妙な事を言っていました。でも、最近はあまり言いません。
 男の子たちに泣かされたり、さなえちゃん以外の女の子たちから、仲間外れにされたりするからです。
 友達を仲間外れにするのは、とてもよくない事です。
 さなえちゃんは、そんな事をしてはいけないと、いつもおもっていました。



 とても、気持ちの良い朝でした。
 スズメ達も、元気よくさえずっています。
 ふたりは仲良く並んで、小学校へ出発しました。
 はるかちゃんの家を出発して、まもなくの事です。
 急に、はるかちゃんがさなえちゃんの手を引っ張りました。
 さなえちゃんはびっくりして、「どうしたの?」とたずねました。
 でも、はるかちゃんは「何でもない」としか答えてくれません。
 しばらく歩くと、また手を引っ張ります。

「はるかちゃん、痛い」
「ごめんな、かんにんな」

 はるかちゃんは、あやまりました。

「どうしたの?」
「何でもないねん。かんにんしてな」

 さなえちゃんは、はるかちゃんがあやまってくれたので、嫌な気持ちにはなりませんでしたが、不安に思いました。
 どうしたんだろう。今日のはるかちゃんは、とてもきげんが悪そう。
 また学校で、ヘンな事を言わなければいいんだけど。
 さなえちゃんは、心配しました。

 学校が見えてきた頃、はるかちゃんがまた、さなえちゃんの手を握りました。
 でも今度は、引っ張らずに、そのままさなえちゃんの足元をにらみつけます。

「何を考えてんねや、ええかげんにしいや!」

 突然、はるかちゃんが大声を出しました。
 さなえちゃんはビックリして、少し飛び上がりました。

「おっさん、頭おかしいんとちゃうか。変態。●●●。いてもたろか、●●」

 さなえちゃんは泣きそうになりました。
 今日のはるかちゃん、こわい。
 どうして、そんなひどい事を言うの?
 一体、だれに言っているの?


 ごぼり。
 足元から、水音。
 突如湧き上がる腐乱臭。嘔吐感が襲う。
 さなえの、真下。
 影の中に、薄ら笑いを浮かべる男がいた。
 腫れぼったい目には血が滲んでいる。
 前歯のない口から、泡立つ吐瀉物が溢れていた。
 強い目眩。恐怖。胃液が逆流する。
 さなえが、下を向いた。
 だめ。見るな。見るな。
 瞬時に、顔色が変わった。
 全身を岩のように硬直させ、悲鳴を上げる。

 ごぼり。ごぼり。ごぼり。
 男は、笑っていた。
 真っ黒な舌が、おぞましい液体の中で踊っている。
 居なくなれ。消えろ。消えろ。
 手が、伸びてくる。
 肘間接が幾つもあるかのような、いびつな動きで、手が伸びてくる。
 さなえの細い足に、割れた爪が触れようとしたその瞬間、

 
 はるかちゃんの真っ白な靴が、きたならしい顔をふみつけました。
 ずるり、と靴が滑りました。
 何度も、ふみつけます。
 何度も何度も、ふみつけます。
 いやな音が、静かな通学路にひびきました。

「しね!もっぺんしね!」

 気を失いそうになっているさなえちゃんの手を、強く引っ張って、はるかちゃんは走り出しました。
 そして、後をふり返ることなく、そのまま学校へ飛び込みました。

 

 その日さなえちゃんは、一時間目の途中に、お母さんがむかえに来て、早退してしまいました。
 とても、怖い思いをしたので、調子が悪くなってしまったのです。
 はるかちゃんは、自分の責任かもしれないと思って、悲しくなりました。
 さなえちゃんに気づかれずに、きもちの悪いものを追い払えていれば、そんな事にはならなかったかもしれないと思いました。
 でも、大声を出すしか、追い払いかたを知らなかったのです。
 とても、悔しい、やりきれない思いで、胸がいっぱいになりました。


 とても天気の良い日で、運動場からは元気の良いかけ声が聞こえていました。

 はるかちゃんは教科書でお顔をかくし、教室の隅で、静かに泣いていました。

LgbNobN

LgbNobNURL

http://www.chokowa.com/cho-1/entry2/tb.cgi/160
[講評]ええかげんにしいや by 極私的【超−1】講評 at 2006年4月25日 11:24

LRg

笹根 2006年6月3日 17:46

△職業意識(TB)
http://chokowa-party.cocolog-nifty.com/blog/2006/06/post_2a74.html

柏木 麻宏 2006年6月3日 17:27

怪異の割には全体的に長いですね。ありきたり感も拭えませんでした。只、雰囲気は好きなので+0でしょうか。

sora 2006年6月3日 12:51

文章;■■■□□
怪異;■■□□□
恐怖;■■□□□
評価;■■□□□→±0

ぼっこし屋 2006年6月3日 0:32

古典的ながらも、職業意識を持ち出して吉村さんのピンボケぶりを描いたのは面白いと思いました。
怪異だと分かったときの吉村さんの描写にもう一工夫あれば化けるのかもしれません。
良い素材があるのに生かしきれてないかな、と勿体無く思いました。
±0

mariman 2006年6月2日 21:25

http://plaza.rakuten.co.jp/mariman1234567/3156

久遠平太郎 2006年6月2日 21:01

評価±0。
う〜ん、悪くは無いのですが、ただ見たという話なだけに何かもう一工夫が欲しかったです。

西方寺 2006年6月2日 19:51

たくさんの怪談を読んでいるうち怖いという感覚がマヒしてきたのでしょうか。
あまり、怖くないです。−1

ミミちゃん 2006年5月31日 2:02

tb
http://chabin.blogtribe.org/entry-55974e9fd6aa80710fed2958209b5787.html

てらまち 2006年5月30日 20:23

事実なので仕方がないが、もうひとひねり欲しい。±0。

吉田 2006年5月29日 16:01

得点なし
怪異を見た後がちょい長いかな、とも思いました。「凄まじい悪寒に襲われた。」の後で、女が凄まじい感じで襲ってくるのか?と身構えてしまいました。
ま、確かに恐怖って感じるのにタイムラグがありそうですけどね。そこらへんはリアルといえばリアル。

有澤 凪 2006年5月28日 23:38

怪異に比べ全体的に長いような気がします。吉村さんの職業意識の高さには頭が下がりますが、読み物としては物足りなさが残ります。−1

藪蔵人 2006年5月28日 1:02

おもしろい視点で書かれているので、古典ネタでも構わないのですが、最後の段落は不要かなあ。
最後から二段目の段落もやや不要と思われます。
どこで語りをやめるか、って本当に難しいですけどね。
評点: 0

林不二男 2006年5月27日 22:04

実話に対しこんな事を言うのは何ですが、「職業意識」と言う題名から想像したオチがそのまま使われている事に物足りなさを感じてしまいました。 得点なし

brother 2006年5月25日 12:23

さすが看護婦。^^;
間の抜けたところで怖がりますな。らしいというかなんというか。^^;
吉村さんのズレっぷりに敬意を表します。

ただ、内容や流れなんかはどこかで読んだことがあるという印象が拭えないのが惜しい。
±0

もり けんた 2006年5月25日 10:50

うんしょ〜(゜゜)
この話はもったいない!後半に行間余韻をつけて欲しかったです。そうすれば怖さ倍増〜。このままだとオチバレでしたから。そういえば「忍びか?」とボケた方もいましたねー(^^)±0。

TOMOKI 2006年5月23日 14:58

良くも悪くも綺麗にまとまりすぎている印象なのですが、怪異を
目の当たりにした瞬間より、それが消えた後に恐怖を感じるという
吉村さんの視点によって少し味付けが変わり、楽しめました。+1

杜井 都衣 2006年5月23日 14:40

■:さすが看護婦さん!!
職業によって咄嗟の判断って違うんですねぇ。面白い!
幽霊だと気づいた後が、ちとしつこかったかなぁ。

ponken 2006年5月21日 21:46

古典的なお話ですね。+αがないと、超ー1では辛いと思います。+−0で。

金縛郎 2006年5月21日 3:26

ナルミ氏、ネジ氏と同意見。
怪異自体はありきたり。職業意識にフォーカスしたのは
面白かったんですが……。
±0。

ネジ 2006年5月20日 23:18

職業意識ってスゴイもんですね。しかしそれ以外は目を見張るほどのものは感じられず。±0

hydrogen 2006年5月20日 22:13

1

産女ですか。
古典的ではありますが、古き良きということでサービス。
吉村さんの反応までが古典的だったのはちょっとマイナスですが
救助に行くのはナイスだったので。

ナルミ 2006年5月20日 20:13

怪異自体はよくある話。
吉村さんの最初の反応に新味があると言えばあるが、+にするほどではないので±0。

風来月人 2006年5月20日 18:44

ありがちなので±0です。

くりちゃん 2006年5月20日 14:14

面白かったです。○
O
e