2008年度ランキング 総評
2008年度超-1ランキングは、1位を該当者なしの空位としました。 超-1は、実話怪談著者を発掘する大会として位置づけられています。これは、例年通り変わりありません。 一方、これを集計して著者単位に振り分けてみたところで、今大会の別の顔が浮かび上がってきました。超-1は、実話怪談著者を発掘する大会ですが、そこで求められる著者には、2つの系統があります。 ひとつは、「単独で実話怪談本を1冊書けるほどの取材力と文章力の双方を併せ持つ著者」。 前者は、「超」怖い話 怪歴の久田樹生、「超」怖い話 怪記の松村進吉、恐怖箱シリーズで言えば雨宮淳司のような著者ということになります。 この「数」というのが重要で、前者「単独で一冊書ける著者」には、数をこなす実力があるかどうかが求められることになります。元々持ちネタがある、というだけではダメで、元々の持ちネタを使い切った後に、さらにおかわりを追加取材・蒐集できるかどうかが、「ピンで書ける著者」の資格の有無を問う基準となります。 もちろん、少数の渾身の一作に賭け、とっておきはチャンスが巡ってくるまで隠しておく、という方針の人もいたかもしれません。しかし、それでは「では、一冊お願いします」という話が実現したとき、本当に一冊任せることができるのかどうかという判断を事前に行うことができません。潜在力はあくまで潜在力、可能性は実現性であるとは判断できないわけです。 また、文章力はたった一本を研ぎ澄ますことでも磨かれるのかもしれませんが、より多く数をこなすことで磨かれるという側面もあります。本番で安定した成果を出せるのは、繰り返し練習した成果であり、練習量の少ない選手が本番でだけよい成果を残せるというのは、稀有な例でしかありません。 その意味で言えば、今回は数をこなせる著者はあまり多いとは言えませんでした。探す能力/怪異と出会う才能というのは、半ば運でもあるわけですが、努力で出会いを増やしている人もいますので、常に運だけの問題とは言えません。 寡作な著者の作品は品質が高かったため、怪コレに収録する分には適していた一方、そうした品質の高い著者は「量産力」が未知数のままでした。 なお、今回は超-1/2006、2007で上位を獲得してきたランカーの一部が恐怖箱シリーズ立ち上げに抜擢され、その作業時期と超-1/2008の開催時期が重なったこともあって、大幅な顔ぶれの入れ替わりが見られました。 また、「ネタには恵まれないが、自分ならこのネタをこう書くだろう」という、著者のための自主トレの機会としても用意されているリライトについては、今年は過去3年間でもっとも活発に行われたように思います。 また、相互講評の漏れでコンプリートを逃した「山際みさき」と「黒ムク」は非常に惜しいところでした。応募総数が多くなるほど、上位を狙っている人が辛くなるという形で奇妙なバランスが取られているのが超-1の厳しい所ではありますが、今回はそれが裏目に出てしまった感はあります。 3位、4位の両名は前回に続き、携帯電話からの応募であったという点も注目に値するかもしれません。パソコン/携帯などの執筆環境の相違は、怪談の出来に左右されないということの証左と言えましょう。 総合すれば、全体としてのレベルが下がったわけではないけれども(総数も質も)、単独で一冊書けるだけの著者を見出せた、と断言するには至らなかった。これが、本年度大会の1位を空位とした結論となります。 欲を言えば超-1/2006で選抜された松村進吉・久田樹生を越えるか並ぶ程度の文章力と取材力の双方を兼ね備えた人材。或いは、恐怖箱
蛇苺/老鴉瓜に抜擢された上位ランカーに並ぶ人材。 四年目となりますが、来年は確実にあります。
(文中敬称略) |
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