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これで最後ですから、どうぞ、もう少しお付き合いくださいね。
頑なに義母が仏壇を開ける事を嫌う理由が分かったのです。 案外簡単に箪笥のお払いをしようと言って下さったのもそのせいかも。
私が骨折で入院している間にも度々夜中に呼び出されて主人は実家にいっていたようです。 仏間から誰かがやって来る夢を見て目を覚ますと体が動かない。 やっとの思いで動いた体で主人に電話をしてとにかく来てくれ、と言う様な事が。 それを聞いた時に以前からもそういう事はあったのでは?と思いました。 言ってくれたらこんな事にはならなかったかも。 いいえ、今となっては分かりませんね。 主人の家の仏壇は、月に一度お坊さんがお経を上げに来る時以外は閉めっきり。 私が供養のつもりで毎日お線香を上げていたら 「仏壇がすすけるから、止めてちょうだい。」 と言われ、困惑していたのです。 確かめてくれとお願いした友達とは連絡が取れなくなるし、共通の友人に連絡を付けてもらおうとしたら渋い顔で「あんたの話をすると、電話つながらなくなるのよ。ごめんね。」 と言われてしまうし。聞けば入院していると言う。心配だ。あんな事お願いしなければ良かった。彼女の携帯にはいつかけても「ププププ、ツーツーツー」。着信拒否でもされているのだろうか。そう考えると悲しくなった。友人にも見放され、気配は消えないし、仏壇にお線香を上げる事も義母に快く思われないで、打つ手がなくなった私はとうとう、主人に家を出たいと申し入れると、重大に受け取ってくれた主人は義母と話し合ったのでしょう。 箪笥を、御祓いすると言い出したのです。 中に入っていた物を全て義母が出し、お払いが済むまで私はさわらないように言われ毎月来ているお坊さんが来てくれる事になりました。 仏壇と、床の間以外に何もない仏間にお坊さんの座る座布団を挟んで立つ箪笥。 何故だか圧迫されそうで広いはずの座敷がとても狭く感じました。 いつもより長い読経の間、ぴしぴしきしきし鳴る仏間が怖くて私は台所でじっとしていましたが、いつものお経ではないのでお茶を出すタイミングが分からず、義母に尋ねようと台所を出、動けなくなりました。 玄関に、女の人が立って手前の部屋の奥、読経の続く仏間を睨んでいるのです。 いえ、正しくありませんね。 ざんばらに髪が覆って目も鼻も見えぬ顔は俯いているのに吹き出す様な怒りを込めた気を放っていて「睨んでいる」と形容してしまったに過ぎません。 真っ黒な、鉛筆で荒々しく書き殴った様なその姿は焼き付いて離れません。 縁側の廊下から義母が「お茶出して」とやって来なかったら、正気で居られたか分かりません。目を離すと、彼女はいなくなっていました。 読経が済んだ、と仏間から普通の様子で出てきたお坊さんを見て私は絶望しました。 この禍々しさが分からないなんて! 逆効果だった。彼女を怒らせてしまった、と。 お坊さんを見送る為に外へ出ると頭がくらくらし、立っていられなくなり 「お義母さん、私、気持ちが悪いんですけど…」 と声をかけると鼻血が流れ出た。 「ほんなら、ご住職、ありがとう」 挨拶もそぞろに私をその場に座らせて義母が家の中へ入って行く。 白昼夢を、見た。 水の中から船の舳先へ足をかけ、のぞき込む着物の中年男性。 離れた同じ船の中程で怯えた様子でこちらを見る若い女。 ゆらゆらと、視界を水が遮る様に揺れる。 聞いた所によると先妻は、社員旅行で行った川遊びで船から転落して事故死していた。 当時その従業員で愛人だった義母は義父と同じ船に乗っていた。 奥さんは…別の船に乗っていた。 だから、それは事故だったのだろう。しかし…。 冷たいタオルを当てられて顔を上げると「しっかりせい」とお義母さん。 「大丈夫です。」 と立ち上がると義母なりに何かを感じたのか、箪笥を燃やすと言い出した。 ぼんやりと、義母の言うままに箪笥を庭に運ぶと義母が一つ引き出しを抜いた。 ぎしっ。 はっとした。あの音はこの音か? ごんごん、ばきっ。 引き出しを打ち壊しながら無言で火にくべていく。引き出しの抜かれた箪笥を倒すと一番最初に引き抜いた引き出しの奥に金色の帯が見えた。 さっと無言で取ると火にくべてしまう。義母の物は移動済みだ。 嫌な想像を打ち消し打ち消し、やっと義母を手伝い手を出す。 あの、引き出しの奥から、ぎしっ、と出てこちらを伺う様が浮かんでゾっとする。 二つめの箪笥を打ち壊す義母の姿を見ていたら、急に罪悪感がこみ上げてきた。 愛人の目の前で死に、自分の子供達は家から追い出され、今唯一この家に自分が住んでいたという証の箪笥まで打ち壊され燃やされ…。 申し訳ない事をしていると言う気持ちがこみ上げて、燃える火に心から手を合わせた。
なのに。 気配は消えなかったのだ。 堪らず私は今度こそ本当に主人の家から逃げ出した。 引っ越しを手伝いに来てくれた友人が言いにくそうに 「ごめんね、みっちゃんとさぁ、連絡取ってって言ってたじゃん?意地悪してたんじゃなくて…あんたとあの子の話したり、あの子とあんたの話すると…電話口で誰か、はぁはぁ言うんだよね。怖くって。」 「いいの、いいの。この後、彼女も来てくれる事になってるし、連絡付いたんだし。一緒にお払いに行くことになってるし。」 笑って見せる。やはり、終わっていないのか。 足下を見つめ、俯く私に主人の怒鳴り声が聞こえた。 「危ない!」 振り返ると、軽トラックの荷台でバランスを崩した嫁入り道具の長箪笥が私に覆い被さる様に迫っていた。
●この作品は、「他の作品を前提とせず、それ単体で独立して読むことが出来ること」という超-1開催ルールに抵触しています。
このため、超-1応募作としては扱えないことになりますが、このまま体験談を埋没させることは忍びなく、伝えるべきは伝え世に残すという超-1/実話怪談の持つ使命を鑑みることになりました。 そこで、応募者の方に内容/意思確認を行った上で、コメント講評/トラックバック講評のいずれも適用されない、「参考出品」という扱いで公開させていただくこととなりました。
今作に限ってご感想・評点をいただくことはできませんが、参考出品ということでご覧ください。 この作品についての感想/講評/トラックバックは、講評期間締切後に解放します。
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by (参考出品) ¦ 17:13, Thursday, Apr 03, 2008 ¦ 固定リンク
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