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愛妻家の増田さんは、都心に近い郊外の一戸建てに住んでいる。早くに他界してしまった両親の家を継ぎ、夫婦2人+ミニチュアダックス1匹で2階建てのこの家に住んでいるのだ。年齢こそまだ30そこそこだが、仕事も順調だし、奥さんは妊娠4ヶ月。男としての充実を噛みしめる日々だった。
ある日、隣家に接した古いブロック塀をコンクリートの板壁に換えることになった。親父の代の古いものだし、コケが生えてカビ臭い。崩れたら危ないし、何となく辺りまで暗い感じだったので、子供が生まれる前に綺麗にしておこうという寸法だ。
もちろん工事は業者任せである。心配しなくても良い、…はずだった。だが着工したその日に問題は起きた。夜、増田さんが帰宅すると、撤去されているはずの古いブロック塀が、半分ほど崩されたまま放置されていたのだ。
「どうしたんだ、何かあったのか?」 増田さんの疑問に、奥さんはベランダのゴミ袋を示した。中を見ると、人間のこぶしほどの塊がたくさん入っている。 何でも業者が解体を始めてまもなく、ブロック塀の下の方の穴に、これがギュウギュウに詰め込まれているのを発見したという。なるほどそう思ってみると、1個づつの大きさはちょうどブロック穴のサイズである。
それは油紙のダンゴだった。中身は塩。業者が開けてみたら、白い結晶が硬く詰まっていて、一瞬何かと思ったらしいが、結局只の塩だったという。しかし意味ありげなその「仕事」に業者は気味悪がり、「ちょっと旦那さんに聞いてみてください」と言い残してその日は引き揚げてしまったらしい。
「関係ないよ、捨てちゃえ!」迷信など信じない増田さんにとって、こんなことで工期を伸ばす奴らの方が信じられない。翌日、朝イチで業者に電話し、何が出てこようと関係ないから早く工事を終えてくれるよう念を押した。
やがて工事は無事終了。それみろ、やっぱり「変なオマジナイ」なんか関係ないのさ…。そう思ったのも束の間、増田家の空気はその日を境に少しづつ、ジワジワと歪んでいった。
新しく明るめな塀を建てたばかりなのに、なぜか家の中が薄暗い。陽も遮られていないのにひんやりする。風が入らなくなり、水回りがカビ臭くなった。 建物ばかりではない。明るかった奥さんはうつむき加減で独り言が増え、お洒落ではないが身奇麗にしていたのに、化粧っ気もなくノイローゼ気味になった。妊娠中には良くある事らしいと本人はごまかしたが、明らかに調子が悪そうだ。
やがてあれほどなついていたミニチュアダックスが凶暴化し、むやみやたらと呻ったり家具に噛み付き始めた。 煎餅を出すとものの10分もしない内に湿気てカビ臭くなり、冷蔵庫の中のものが腐り始めた。 ケーブルなのにテレビの映りが悪くなり、逆に防災袋のラジオがいきなり鳴り出した。何度止めても夜中に突然鳴り出すので、頭に来てとうとうぶっ壊してしまった。
増田さん自身も頭痛や腹痛に悩まされ、怒りっぽくなり仕事先でキレたり荒れたりした。
そしてついに奥さんが流産、実家へ帰ってしまった。 すると、誰も居ないはずの2階で歩き回る音が聞こえはじめ、夜中に窓を開け立てする音が響いた。また、地震でもないのに夜中にドンと音がして家が揺れた。
毛の抜けた愛犬はヨダレを垂らして家中を徘徊し、増田さん自身も皮膚病が感染したのかカサブタだらけになってしまった。
こうなると、迷信とばかりは言っていられない。時間的に考えたら、増田家が歪み始めたのは正にあの時、塩ダンゴを捨ててしまった時からなのだ。あの塀は増田さんが子供の頃にはもうあった。しかし事情を知っている…かも知れない父親はとっくに他界している。
困った増田さんは、すがる気持ちで近所の神社やお寺に聞いてみたが、「塩ダンゴのような話は知らない、聞いたことがない」と言われるばかりだった。
もはや「迷信嫌い」などと言っている余裕はない。しかし占い師や霊能者と呼ばれる人種が大嫌いな増田さんは、自分で何とかすることにした。 つまり、100均でパスタストッカーと塩を大量に買ってきて、塩を詰めた円柱をハニワのようにズラリと塀際に埋めてみたのだ。
彼自身、そんな素人のお遊びで何とかなるとは思っていなかったのだが、これがなんと効果覿面。嘘のように風が通り始め、家の中が明るくなった。2階を歩き回る音は消え、カビ臭さも一掃。犬はおとなしくなり、増田さんの皮膚病も蕁麻疹が引くように治ってしまった。そして何より、奥さんが戻ってきてくれた。
ただし、良い事ばかりではなかった。増田家が回復するにつれ、塀の向こうの隣家が狂い始めたというのだ。 「細かい事は言えませんけど、いろいろあって…。今は隣はコインパーキングになっています」増田さんは最後にボソッとそう付け加えた。

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■講評
文章 2 なかなか読ませる。 稀少度 2 解決方法が面白い。
何かを堰き止めていたんでしょうね。駄目元でもやってみてよかったです。 その後隣家に障りが出たとのことですが、ではブロック塀を直す前にはお隣はどういう状態だったんでしょうか。そこが気になった。 でもなんで途中に「リライトOK」の表示が? |
名前: くりちゃん ¦ 20:38, Thursday, Apr 03, 2008 ×
本当は、人が住んだりしてはいけない土地 だったのではないでしょうか。 お子様の命、という大きな代償も払われてしまっていますし。 人は、この世にある全ての物が自分の都合に 併せていいと思いすぎなのかも知れませんね。 あちらの世界にも、あちらの都合があるのかも知れません。 |
名前: ちゅん ¦ 13:47, Friday, Apr 04, 2008 ×
文:+2 怖:+2
一体全体何を清めて、もしくは封印していたのやら。 お隣に行ってしまったということでなんとも言えない気分になりますね。 |
名前: 晴 ¦ 14:04, Friday, Apr 04, 2008 ×
いやいや、怖いです。 知りたくても教えてくれる人は他界では。 解決したくてもどうにもなりませんし・・・
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名前: 黒ムク ¦ 15:48, Friday, Apr 04, 2008 ×
塩ダンゴが何か明かされないままというのが現実的で、気味が悪いですね。 それを「100均でパスタストッカーと塩を大量に買ってきて、塩を詰めた円柱をハニワのようにズラリと塀際に埋めてみた」という展開があまりにも日常的すぎて、怪異なのに笑えてしまいます。また、なぜここで「パスタストッカー」を「ハニワ」「円柱」と例えているのかを考えると、計算された表現としてさりげなく混ぜられた感があり、なかなか意味深いのではないかという気がします。
展開としてはお約束ではありながら、なかなか面白かったです。
文章1:希少度1 |
名前: chidori ¦ 16:05, Friday, Apr 04, 2008 ×
土地の障りだろうか。 一体何を封じてあったのか。 人が住んではいけない場所だったのかも。
希少性(1) 文章(1) |
名前: ねこや堂 ¦ 20:30, Friday, Apr 04, 2008 ×
ネタ+3 その塩の障壁、亡くなったご両親が張ったのか、それともそれ以前からなのか。 現象としては荒俣宏の「ワタシnoイエ」に近い、地味で薄気味悪い話です。 障壁復活で万々歳、といかず、隣家に障りが出るというのも嫌な話です。 |
名前: ねこ ¦ 14:52, Saturday, Apr 05, 2008 ×
面白い話で、一気に読ませる。 隣家がどうなったのかを詳しく書いていれば、もっとよかったのだが。 |
名前: ナルミ ¦ 22:31, Sunday, Apr 06, 2008 ×
| なかなか読ませる作品でした。ただそんな時は素直にプロに任せましょうよ。お子さんの件は残念でしたが、それ以上ひどくならなかったのがせめてもの救いだったと思います。ただ、隣の家では何が起きたんでしょうね。 |
名前: 茶毛 ¦ 00:55, Tuesday, Apr 08, 2008 ×
1点減点したのは、やはり撃退法らしい塩の効能の記載がほしいと思ったから、せめて民話の類でもいいから類似した例がいるようなないような。 でも読みやすく、なおかつ真実味があります。 |
名前: くすだまん ¦ 17:26, Wednesday, Apr 09, 2008 ×
塩を撒いたり盛ったりして清める、というのはよく見聞きする事だが、こういう"封じ込め"、"忌み除け"の話はあまり聞かない。 その土地/家系には何があったのか、あるのか。 真相を知りたいところだか、それこそ開けてはいけない扉、なのだろうか。
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名前: MM88 ¦ 17:56, Saturday, Apr 12, 2008 ×
元々は隣家がおかしかったのかな、と思ったんです。 そのとばっちりを食らわないように塩壁を築いたとして、取り払ったので増田さんちがおかしくなり、塩壁を再生したので隣家へ返せた…あれ?塩壁があったら隣家へ返せない? 返す返さないとか、怪異が荷物みたいな扱いになっちゃってますが^^;私のオツムでは辻褄を合わせられない、でもわからないからこそ面白い。心地よい矛盾です。
どよーんとしたお話が大好きです。読後のモヤモヤ感といい、絶妙な「どよーん具合」でした。 |
名前: 眠 ¦ 03:20, Tuesday, Apr 15, 2008 ×
塩壁が邪気を払ってくれたのでしょうか。お塩のパワーって凄いんですね。 その土地に何かあったのかもしれないですね。亡くなったお父様が詳細をご存知だったのでしょうね。 しかし、隣家に不幸が飛び火したのか、もともと悪い物をもっていたのか、すべては謎に包まれていますね。最後はハッピーエンドでよかったです。 |
名前: じゅりんだ ¦ 14:38, Thursday, Apr 17, 2008 ×
面白かったです。 なるほど確かに「塩壁」ですね。 文章も読みやすかったと思います。 作者様にも増田さんにも分からないのですから無理なのは分かりますが、原因が知りたくなりますね。 ここまできたら長文になっても全然構わないので、隣の家に起きた事も聞きだして書いて欲しかったです。
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名前: へみ ¦ 14:36, Saturday, Apr 19, 2008 ×
隣の家の話しも凄く気になります。 なかなか面白い話しで引き込まれました。 |
名前: SPダイスケ ¦ 23:14, Sunday, Apr 20, 2008 ×
隣家にも障りが出てしまったとなると、増田さんの家系ではなくこの場所自体に何かあるのでしょうかね。 でも、それにしてはお寺も神社も知らないみたいでしたが…… 事情を知るであろうお父様が他界してしまっていて残念です。 非常に読みやすく、引き込まれるお話でした。 |
名前: こうたろう ¦ 15:14, Tuesday, Apr 22, 2008 ×
起きた怪異のすさまじさに対し、なんというリーズナブルな解決策! しかし、隣家に影響が出たとなると…。 同じような事が起こったんですかねぇ…? 果たしてこの塩壁は、増田家に起こる怪を抑えるためのものなのか。 それとも隣家からの怪を防ぐためなのか。 実に興味深い話でした。
文章:1 内容:2
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名前: PM ¦ 21:58, Tuesday, Apr 22, 2008 ×
「塩モノ」(そんな言葉があるのかどうか知らないが)としては出色の怪談。 文章も良かったです。
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名前: じぇいむ ¦ 01:15, Tuesday, Apr 29, 2008 ×
最後まで意味不明なじわじわ感に酔い痴れました。 全てが意味不明のまま始まり、意味不明のまま終息する…。 とても好みなタイプの怪談で、自己基準では限りなく満点に近い気がしています。 面白かったです。こうした特異な怪談をこれかもどんどん拾い続けて行ってください。 |
名前: みくりや かつと ¦ 01:33, Wednesday, Apr 30, 2008 ×
文章・・・2 希少度・・・2
抑え気味で無表情な文章がとても効果的で楽しめました。 現象としても興味深く、しかも最後に怖いオチが付くところなど、ネタとしては最高でしょう。 そこに隠された秘密が知りたくなりました。 |
名前: 鹿太郎 ¦ 21:21, Wednesday, Apr 30, 2008 ×
| ブロック塀だった頃は隣家も大丈夫だったのですね。怪異の起こり方、収束の仕方がきっちりとしていて読みやすく、リズムもあって気持ちよい文章でした。 |
名前: ひ ¦ 21:25, Wednesday, Apr 30, 2008 ×
| 何かをその塩が封じていたんでしょうね。増田さんの家が回復したのに隣家に災いが行ったのは、やはりやり方が完璧でなかったためか。一件落着、ハッピーエンドでないところに後味の悪さとリアリティを感じました。 |
名前: 久遠 平太郎 ¦ 21:40, Wednesday, Apr 30, 2008 ×
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