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私の勝手
 江藤君は何故か、大学生時代に集中して怪異に遭遇しているそうだ。
 昼食の馳走の礼にと、いくつか話を聞かせてもらう事が出来た。
「じゃあ、軽く絡まれたっていうか…まあ、そんな話をひとつ」
 江藤君は食後のお茶を啜りながら、静かに話し始めた。


 大学二年目の夏。
 長い夏休みの影響で江藤君の昼夜は一転しており、真夜中に食事を取る事が多かった。
 その日も夜食を買うため、いつもの最寄のコンビニに向かおうとしたのだが、そういえば最近、逆方向に新しいコンビニが出来たという事を思い出し、気分を変えてそちらに向かうことにした。
 原付バイクに跨り、出発したのは午前二時過ぎくらいだっただろうか。

 江藤君が一人暮らしをするアパートの周辺は、寺や神社が多く、細い路地が入り組んでいる。
 コンビニのある大通りへ出るためにはこの路地を通らなければならないのだが、幅は車一台がギリギリ通る事が出来る程度の細さだ。
 加えて真夜中ともなると、周囲の民家からの明かりも少なくなり、街灯下がほのかに明るい程度である。
 一年以上、この路地を走っているが、未だに夜中の運転は普段より気を引き締めなければならなかった。

 慎重に路地を走りぬけ、目的のコンビニにたどり着いた。
 買い物を済ませてジェットタイプのヘルメットをかぶり、バイクで帰路につく。
 そういえば、この辺りは昼間でもあまり来た事がない。真夜中だけど、どうせ暇なのだから軽く散策してみるのもいいだろう。
 なんとなく気まぐれに、行きとはちょっと違う道で帰る事にした。
 大通りを少し進んだところで、先ほど通ってきた道の二つ手前の路地に曲がる。 
 ここも道幅は先ほどと同じくらいの狭さである。走り慣れない道だ。
 慎重を期すため、バイクを時速10km程度まで減速させた。

 ほとんど暗くて見えないのだが、初めて通る周囲の景色を楽しみながらバイクを進めていると、200m程直線が続く場所に来た。
 交差する道もない、右手に民家の塀や垣根が並び、左手には林が続く。妙に閉鎖的な感じのする路地だ。
 民家からの明かりはない。街灯は路地の右側に並ぶ電柱に添えられているが、この電柱の間隔が広く、街灯もあまり新しいものではないのか、その下もうっすらと明るい程度だった。

 江藤君がひとつの街灯の明かりの下に入りかけた時、二つ向こうにある街灯下に何かが見えた。
 目を凝らすと、どうやら普通の自転車である事が分かった。所謂ママチャリというやつだ。それがこちらにゆっくりと向かって来ている。
 前カゴには買い物帰りなのか、何か黒っぽいものが入っている。自転車に跨る人影も、暗くてよく見えないのだが、ヒラヒラとしたワンピースらしき服装の影と、その身体の細さから、女性らしい事も分かった。
 江藤君のいる街灯下から、一つ先の街灯を挟み、さらにその先の街灯下に女性の乗る自転車、という位置関係だ。40m程距離はあるが、すぐにすれ違う事になるだろう。
 こちらは原付バイクにしては大型な方で、走行するのにこの路地の三分の一程の幅を占めている。十分注意しなければならない。
 江藤君はさらに、ほとんど対向する自転車の速度に合わせるくらいまで減速し、すれ違いに備えた。

(…あれ?)
 江藤君がそれに気付いたのは、自転車を視認して数秒後。対向する自転車が街灯の明かりの下から抜ける直前だった。
 自転車のペダルが回っていない。…というより、運転する女性が足を動かそうとすらしていないように見えた。
 自転車が暗闇に紛れてしまった。次の街灯に来るまで、もう一度それを確かめる事は出来ない。
(ちょっとだけ坂になってんのかな…?)
 どう見ても平坦に感じる路地に疑問を感じながら、江藤君も自分のいる街灯の明かりの下から抜けた。

 ガラガラガラガラ…
 双方が暗闇に紛れてしばらくすると、江藤君の前方から妙な音が聞こえてきた。
 錆び付いた金属同士が連続で当たるような音。向かってくる自転車から発せられたものだろうか?
(ん、自転車ってそんな音出たか…?)
 …何かがおかしい。
(そもそもこんな真夜中に、ライトも点けずにこんな暗い道を走るか…?)
 それに気付くと、急に何か背筋に冷たいものが走った。

 5m程前方に、次の街灯の明かりが見えるところまで来た。
 江藤君のバイクは、小走り程度まで徐行している。…という事は、先ほど二つ先の街灯下にいた自転車も、そろそろ同じ明かりの下に差し掛かる事になる。
 ガラガラガラガラ…
 音が近付くのに併せて、目の前に見える街灯の明かりの下に、ぼうっと自転車の影が浮かび上がる。
 加えて、江藤君のバイクのヘッドライトの範囲に入り始めた事で、その全容が徐々に照らされ始めた。

 まず、自転車の足元が見えた。
 先ほど回っていなかったペダルが漕がれている。
 …が、そのすぐ後ろにチェーンがだらりと垂れているのが見える。外れているのだろう。
 先ほどからずっと聞こえていたガラガラという音は、どうもチェーンが外れた状態でペダルを漕いだ時に出る、あのギアが空回りする音だったようだ。
 一瞬、音の正体が分かりホッとした江藤君だが、すぐに異変に気付いた。
(…いや、待て待て待て待て。じゃあ、なんで走ってんだ?) 
 
 前カゴに目をやる。
 なんだかごちゃごちゃしている。買い物袋というわけではなさそうだ。黒くてよく分からない。
 そこに入っている何かから、ボタボタと液体が零れ落ちていた。
 あまり見ない方が良い気がして、すぐに視線を上げた。
 自転車を運転する女性が目に入る。
 顔が見えない。
 …いや、相手はもう街灯の明かりの下。バイクのヘッドライトも浴びている。暗闇のせいではない。
 首そのものがなかった。
(出たっ!!)
 咄嗟にそう思い、悲鳴を上げようとしたのだが声が出ない。ただ口をパクパクさせて首の無い女性を見つめていた。

 そうこうしている内に、ゆっくりと進んでいた江藤君のバイクが同じ街灯の明かりに差し掛かり、気付けばいよいよすれ違うという距離になっていた。

 この距離になると、前カゴの中のものが分かる。見たくもないのについ見てしまった。
(…っ!!)
 首だ。
 血まみれの女の首。
 自転車の前方を向いてカゴに収まっている。
 前髪が顔にベタベタとへばりついているのだが、隙間から目と口が閉じられているのが分かる。 
 形はしっかりとしていて崩れた様子はないが、見るからに死人の顔だ。
 黒く長い後ろ髪はバサバサに乱れ、前カゴを蓋するかのように広がり絡み付いている。
 先ほど、ボタボタと零れ落ちていたものは血なのだろう。

 驚きの連続に江藤君はどうしていいのか分からず、自転車の前カゴから目を逸らせないままバイクを進めていた。
 そのすれ違い様。
 前カゴに入った女の首が、突然カッと目を見開いたかと思うと、横目で見ていた江藤君をギロリと睨んだ。
「別にいいでしょ…」
 ヘルメット下の耳元に、ささやくような、でも頭に深く響くような、女の低い呟きが聞こえた。
 江藤君は咄嗟に視線を前に向けるとアクセルをしぼり、振り向くことも出来ずにそのまま逃げ出した。


「その後は特に…なにもなかったですねぇ…」
 この道は以後使う事はなかったし、当然ながら怖いので調べるようなこともしなかったらしい。
 結局なんだったのか分からず仕舞いだった、という事だそうだ。






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■講評

文:+2 怖:+2

しっかりとした描写に引きこまれっぱなしでした。

それにしても、「別にいいでしょ」とは……。

ああいうものも人に見られたくないとかって思うのか。

名前: 晴 ¦ 18:15, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


これはまた・・・。
江藤君の、全然「軽く」ない体験談ですね。
面白かったです。

文章1:希少度1

名前: chidori ¦ 18:16, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


文章 2
目をそらさせない。
稀少度 2
「軽い」どころじゃないと思うけど。

前カゴ怪談かと思っていたら、それよりも数段上だった。  
子細に描きながら盛り上げていく様が上手いと思う。                            

名前: くりちゃん ¦ 19:46, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


 似たような体験をしている知人を知っていますが、彼の場合、泣き叫び、そんな具体的に覚えていません。今度の場合、体験者が細部まで記憶している非常に稀なケースですね。

 ちゃんと調査したのはわかりますが記載が多すぎます。
 もう少しまとめた方が良くなるような気がしました。1点減点します。

名前: くすだまん ¦ 20:05, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


ネタ+2
自転車女のインパクトはかなり強烈です。
その一言の奇妙さもいいです。
それだけに、底へたどり着くまでの文章が長くまどろっこしく感じました。

名前: ねこ ¦ 20:55, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


描写が詳細でわかりやすいのだが、怪異に行き着くまでが長い。
普通なら途中でめげる長さだが、筆力で一気に読ませている。
大変楽しませて頂いた。
ただ、省いても差し支えない描写もあるので、やはりもう少し短くしても良いかも知れない。

希少性(1) 文章(1)

名前: ねこや堂 ¦ 22:20, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


怖い。そして面白い。タイトルも気が利いている。
ただ、怪異にたどり着くまでがやや冗長に感じたので、もう少し短くしてもよかったと思う。

名前: ナルミ ¦ 01:35, Thursday, Apr 03, 2008 ×


霊体験のピークって、ありますよね。
それはさておき。
江藤君!!こういうのを待ってたんだよ!!
お友達になろう!
オバさん、飯作ってやるから!
「別にいいでしょ」
ってナニが?!
いや〜、ありがとうございます。
満足、満足。

名前: ちゅん ¦ 20:52, Thursday, Apr 03, 2008 ×


またまた軽くなく長い文章でした。やはりここまでの長文は必要ないと思います。長すぎた文章のせいで途中経過とオチが読めてしまい「ああ、やっぱりか」という感想になってしまいました。

名前: 茶毛 ¦ 23:22, Sunday, Apr 06, 2008 ×


長いですね・・・
怪異に行き着くまでが長いので疲れました。
「別にいいでしょ…」なんていうなら出ないでくれ・・・と思いましたよ。
だって怖いもの・・・・

名前: 黒ムク ¦ 15:03, Wednesday, Apr 09, 2008 ×


魚定食の江藤君ですね。著者さん、たくさんおごってあげてくださいw

はい、「私の勝手」、ごもっともです。
首をカゴに乗せて運んでもいいと思います、重いですから。
壊れたチャリに乗っていてもいいと思います、動いてますし。
でも、会いたくないです!! +4

前作もそうでしたが、道路状況はここまで詳しく書かなくても。怪異は要点をバッチリおさえていてわかりやすいので、説明が短めでも伝わると思います。 -1

名前: 眠 ¦ 01:05, Thursday, Apr 10, 2008 ×


詳しい状況説明は良いのですが、ちょっと長すぎて読むのに疲れてしまったかなあと…。
平山さんのような怪談ですね。グロイ描写もばっちりあってよいかなと思いましたが、生首が前かごにあるというのはスタンダードな表現ですね。その幽霊は見せたかったのでしょうか。怖いはずなのに結構ギャグっぽい状況だと思うんですけれどね。

名前: じゅりんだ ¦ 01:02, Wednesday, Apr 16, 2008 ×


怖くて気味が悪い話だがありきたり。
文章も長すぎ、ひっぱりすぎだと思う。
文字に埋もれて怪異が薄まってしまった様な。

名前: MM88 ¦ 11:18, Thursday, Apr 17, 2008 ×


怖いとは思うのですが、自転車を確認してからすれ違うまでの描写が長すぎるように感じました。
これではほとんどの読者が、カゴに入っているのは生首だと教えられる前に分かってしまう様な。
それでももちろん怖いのは変わりませんが。
「軽い話」という始め方も一度ならいいですが、毎回だと逆に嫌味っぽく聞こえてしまう気がします。

名前: へみ ¦ 11:33, Thursday, Apr 17, 2008 ×


怖いとは思いますが、ちょっと長いきがしました。
もう少し詰める事ができた内容ではないかと思います。

名前: SPダイスケ ¦ 23:17, Saturday, Apr 19, 2008 ×


割とさくさく読めますが、やはり長さが気になりますね。
前置きはもう少し思い切って絞り込んでも良いかもしれません。
いや、怪異自体はとても怖かったと思います。
出るのは別に良いんですけど、もう少し綺麗な姿で出て欲しいですよねー。

文章:1 内容:2

名前: PM ¦ 21:07, Monday, Apr 21, 2008 ×


 ちょっと長いですかね。
 でも怖さは伝わってきました。
 「別にいいでしょ…」
 いえ、よくないです。コワいんで。

名前: こうたろう ¦ 17:51, Tuesday, Apr 22, 2008 ×


文章力があるので、冗長とまでは感じなかったが、途中からカゴの中身が何であるのか感付いてしまった。
その点でインパクトは薄れてしまったが、何しろこれだけ書ききったところは凄い。
希少度 1 文章 2

名前: じぇいむ ¦ 17:31, Wednesday, Apr 23, 2008 ×


文章・・・1
希少度・・・0

首なし幽霊とはなんだか懐かしい響きです。
大体そのパターンの幽霊は、昔なら自分の首を脇に抱えて登場したものです。
現在では自転車の前かごに乗せて現れるんですね。

減速しながら走るバイクが40M前方から向かってくる自転車とすれ違うまでのほんの数秒の間に、バイクに乗った体験者が自転車について気付いたこと、思ったことが事細かに書かれています。
こういった、体験者が恐怖を感じるに至った過程を描写すると、読み手側もそれを追体験することができ、体験者と一緒に恐怖することができるといった効果が出るでしょう。
この作品でも作者はそれを狙ったのだと思いますが、些か細かく書きすぎだと感じました。
もっと体験者がその時に思ったことや感じたことを厳選し、文章量を減らさないと、読む側はものすごく長い時間が流れているように錯覚してしまいます。そうなると話のニュアンスが変わってしまい、書く側の意図が誤って伝わりかねません。
文章力はあるので、読む側がどう感じるかを考えて書くようにすればもっと良い作品が書けると思います。

名前: 鹿太郎 ¦ 02:19, Monday, Apr 28, 2008 ×


非常に詳細な描写で状況は伝わってきたのですが、描写を追うのに忙殺されて肝心の怪異に集中できませんでした。読み手も情景をある程度までは補完しながら読むので、もう少し描写は削っても良かったかも知れません。
怪異自体は首無し幽霊の一パターンとして楽しみました。

名前: 久遠 平太郎 ¦ 21:47, Tuesday, Apr 29, 2008 ×


似たような話はありますが、これほど詳細かつリアルなものは知りません。読んでるだけの自分も目撃したような恐怖をおぼえました。

名前: ひ ¦ 11:05, Wednesday, Apr 30, 2008 ×


首がかごに、は予想できましたが、それでも十分怖い。
描写がリアルで怖さが目の前に浮かんでくるようでした。
やや説明が過ぎる部分もあるものの、読みやすくて長さを感じませんでした。
「別にいいでしょ」 も良かった。
江藤君の話、また期待してます。

名前: 昼間寝子 ¦ 17:26, Wednesday, Apr 30, 2008 ×



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