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新居に引っ越してからここ数日、東さんの周辺はおかしな空気に包まれていた。 会社からの帰り道、背後にねっとりとした視線を感じる。 恐る恐る振り返ると、背後の電信柱の陰に、赤いワンピースを着た女が立ち、彼をじっと見つめている。 その姿はうっすらと透けている。 東さんは無視して家路を急ぐが、体中にまとわりつく視線は一向に離れない。
どうにかボロアパートに帰り着いたものの、そこも安らげる場所ではなかった。 ドアを開けるとカビの臭いが鼻をつく。部屋の明かりをつけると、何かが暗がりに隠れる気配がする。 窓の外を見ると、先刻の女が街灯の下に立ち、彼の部屋を見上げている。 今度は透けていない。 東さんはその女に見覚えはなかった。
東さんにつきまとうのはその女だけではなかった。 陽炎のような姿の中年女性や、煤けた男、時には大小様々の目玉が窓から覗いてくることがあった。
そんな事が何日も続き、東さんはすっかり憔悴していた。
困った東さんは、ネットで知り合った黒田さんに相談した。 黒田さんはネットゲーム廃人だが、陰陽道を修めたその道のプロでもあった。 東さんのアパートを訪ねた黒田さんは、その場所自体に異質なものを感じた。 彼の場合、異形の姿をビジュアルとしてではなく、ガイガーカウンターのようにエネルギーの強弱・敵味方として捕らえる。 部屋全体が彼のセンサーを刺激していた。 その気配を根絶するため、室内を祝詞などで浄化し、異形の侵入を許さない結界を施した。 また、東さんにも誓詞を記したお守りを渡し、外から変なものを拾ってこないようにした。 そのおかげで、東さんの周辺から人ならざるモノの姿は消えた。 ただ、時折、あの粘着質の視線を感じることがあり、不安が完全に消えることはなかった。
東さんは仕事の合間に、ネット仲間とチャットで会話することが多かった。 メンバーは日によって様々だった。 その日のメンバーは東さん、黒田さん、そして片瀬さんという女性の三人だった。 「黒田さん、こないだはありがとうございました」 「いえいえ。その後どうですか?」 「だいぶ楽になりました。ただ、時々視線を感じることがあるんですよ」 「あー、いるね」
そう言ったのは黒田さんではなく片瀬さんだった。 片瀬さんは黒田さんのような専門家ではないが、見える人だ。 だがその見え方が半端ではない。遠方に住んでいる彼女は、そこから都心のチャット仲間の周囲にいるモノが見えるのだ。
「え、俺のそばにいる?」 「ううん、アパートのまわり。黒田さんが結界張ったでしょ。その外周に張り付いてる」 「マジで?」 「えっとね、アパートの階段の所に、赤いワンピースの女が膝抱えて座ってる」 間違いない、生き霊を飛ばすストーカー女だ。 東さんと黒田さんは、片瀬さんにその女の事を一度も話していない。 「あ、そういえば結界は部屋だけだった。それにしても片瀬さんすごいな」 「ちょ、二人ともなんとかしてくれよ」 「そうは言っても、僕は見える範囲しか結界作れないし、全体と正確な居場所が把握できればなんとかなるだろうけど・・・。 お、ちょっと待てよ。東、おまえの正確な住所教えろ」 「え?」 東さんは訳がわからないまま、正確な住所を入力した。 「よし。片瀬さん、アパートのどの辺に何が見えるか教えて。そいつらのいる範囲をまとめて結界張るから」 「いいけど、どういうこと?」 「いま、グーグルマップの航空写真開いた。東の家、はっきり見えるぞ」
そこからは奇妙なやりとりが続いた。 「玄関出てすぐ右の電信柱の下、おっさん」 「はいよ。どう?」 「おー、消えてく消えてく。次、隣の家の黒い屋根瓦の上、お婆さん」 「これかな。どう?」 「ずれてるんじゃないかな。右隣、ちっこい家だよ」 「あー、この斜め下の家か。どう?」 「オッケー。あとは、裏の駐車場。さっきのワンピース女がいる。強いよこれ。多分生き霊でしょ」 「そいつか。これでどう?」 「やっぱしぶといなー。お、薄くなってきた。いいかも・・・あ」 「どうした?」 「うわ、目玉だけ残ってる。やっぱ執念深いなあ。お、消えてきた・・・うん、消えた。これで問題なし」 「本当かよ?」
東さんは半信半疑だったが、アパートに帰ると明らかに空気が違う。 あの不快な視線を感じないだけでなく、掛けてあった蚊帳を外したかのように、周辺の何かがクリアに感じる。 その日から、東さんが悩まされることはなくなった。
だいぶ体調も戻り、生活のリズムを取り戻した東さんは、心機一転、引っ越しをすることにした。 その場所はもちろん、黒田さんのリサーチでお墨付きの場所だ。 とんとん拍子に話が決まり、引っ越し当日。 助っ人に来ていた黒田さんが荷物を運んでいると、彼の前に大家がやってきた。 「あんた東さんの知り合い?」 「はい。手伝いに来ました」 「頼むから静かにやってくれよ。ゴミを置いていくなよ。収集所にも出さないでくれ。もうこの町の人間じゃないんだから。 それと、部屋は綺麗に元通りにしていけよ。汚れている分は請求するから」 一気にまくし立てられて、黒田さんはカチンと来た。 何だこいつ? 何で東じゃなく俺に? 何だ偉そうに? 言われるまでもなく静かに綺麗にしてるだろうが!
腹が立った黒田さんは、荷物をすべて新居に移したあと、すべてを元に戻した。
「元々東のためにやったことだし、その後のことなんか知らないよ。 あそこは場所だけじゃなく、大家も含めて人が荒んでるから、そういうのが集まってくるんだよ。 東はとばっちりというか、災難だったというか」 「あとから来た人は平気なんですか?」 「まあ、あれだけ濃い気配があれば、普通の人は住もうとは思わないよ。それでも住む人は、あそこに住むべく呼ばれた人だ」 そう話す黒田さんの口調は、若干冷たかった。今でもあの大家に腹を立てているのだろう。 その様子に、私はふと、ある疑問を抱いた。 「もしかして、元に戻すだけじゃなく、何かオマケしたんじゃないですか?」 「そんなことないよ」 黒田さんは笑って答えたが、その笑顔には、いたずら小僧特有のきらめきがあった。
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■講評
「黒田さんはネットゲーム廃人」という紹介が後の展開に活かされていて、話としてはなかなか面白かったです。
ただ、現実的な話として考えた場合、ネットを介して遠隔で「消す」事ができるのなら、「困った東さんは、ネットで知り合った黒田さんに相談した」あとに自宅まで来てもらわなくても、東さんから提供される情報を電話とネットで中継しながら全て遠隔で出来たのではないかという疑問もあります。話の中盤で片瀬さんが加わってからの、黒田さんの遠隔による消し方があまりにも唐突すぎるので、黒田さんが自宅まで来ないと出来ない事と、遠隔でも出来る事をそれぞれ説明しておかないと、話は面白くてもどこか創作っぽく見えてしまうのではと思います。
文章−1:希少度1 |
名前: chidori ¦ 15:51, Monday, Mar 31, 2008 ×
文:+2 怖:+2
なんて頼もしい。 ともすれば作り話と思われそうな話ですが、実際ありそうだな と思えるような筆力と、なんだろう……真実身があります。 こんな友だち欲しい。 |
名前: 晴 ¦ 16:13, Monday, Mar 31, 2008 ×
途中までは面白く読んでいたのだが…。 後半の引っ越し以降、黒田さんがその場所を元に戻したまではまあ良いとして、おまけを付けた云々は読んでいてあまり気持ちの良いものではなかった。 仮にも陰陽師が、いくら腹が立ったからといってそこまでやって良いのかな、と。 まあ、個人的な意見だが。
希少性(1) 文章(0) |
名前: ねこや堂 ¦ 21:18, Monday, Mar 31, 2008 ×
文章 2 なかなか読ませる。 稀少度 2 前回よりも腕が上がったんですね。
あまりに整いすぎていてフィクションのようだった。 腕のいい陰陽師(霊能者等)はこういうものなのか。 「黒田」さんの登場のさせ方も上手いと思う。 赤いワンピースの女が生き霊で「東」さんについているのだったら、またついて来ているのでは? ともかく面白かった。
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名前: くりちゃん ¦ 07:21, Tuesday, Apr 01, 2008 ×
話自体は面白いのだが、ケータイ小説を読んでいるようでリアリティに欠ける。肝心な部分が会話主体で進められて、具体的な描写がないせいだろうか。「結界を張る」とは具体的にどのような行為をおこなうのか、を書いてほしかった。
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名前: ナルミ ¦ 01:09, Wednesday, Apr 02, 2008 ×
ネタ+2 時代が変われば陰陽師も変わる、というか変わりすぎでしょ。 ただ、吹っ切れていないせいか、文章がやや長く、焦点がぼやけている感じがしました。 |
名前: ねこ ¦ 20:21, Wednesday, Apr 02, 2008 ×
濃いなぁ…お腹一杯(笑)。 いたずらの程度にもよるけど、力のある人が 腹立ち紛れに何かするのは如何なものかとは思います。 ま、力のある人がスバラシイ人格者とは限らないのが現実ですが。 黒田さん、カッコイイと思っていたので ちょっと残念。 |
名前: ちゅん ¦ 19:29, Thursday, Apr 03, 2008 ×
そのゲームの廃人が、どんな方法で結界を張るのか、さっぱり判らない。どうも地図にマウスでクリックして、線を引いているような印象なんですけど?アナログな私では何だかふざけている気がします。 2点減点します。 よく見える人も、現場へ行かないで、なぜ見える?グーグルの映像で見えるのか?文章は面白く創作なら抜群の面白さですが、実話怪談では、どうかと・・・。 取材不足という気がしますので、さらに1点減点します。 |
名前: くすだまん ¦ 13:36, Saturday, Apr 05, 2008 ×
| 普通の陰陽師の話の方ですよね。前回と変わらず微妙な力の発揮をしています。プロとしてでないのであればこういうのはありかな、って。ああすいません、お願いですから私には変な力を飛ばさないで下さいね。 |
名前: 茶毛 ¦ 22:32, Sunday, Apr 06, 2008 ×
あああ。前回は「ゲーム大好き」としか書かれていなかった黒田さん、ついに「ネトゲ廃人」と書かれてしまったwというか黒田さんが出てくるとは思わなかったですwww +1
黒田さんと広瀬さんのコンビネーションすごいですね。グーグルマップもこんな使い方をされるとは夢にも思っていないでしょう。 ゲームよろしくザコキャラから消していくので笑いました。 +2
引越しのエピソードなしで終わらせた方が良かったかも。後味が少し変わりました。 -1 |
名前: 眠 ¦ 21:36, Wednesday, Apr 09, 2008 ×
グーグルマップで結界を張るとは……おそるべし陰陽師。 なかなか面白いのですが、なんというか霊に対する畏敬の念が感じられないのがちょっと残念でした。 なんだかゾンビ戦をやっているみたい。ネットゲーム廃人だからかな。
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名前: じぇいむ ¦ 15:31, Friday, Apr 11, 2008 ×
黒田さんシリーズいいですねぇ。 前作もですが、この話も非常に興味深い内容で素直に作品の価値を認めるしかないです。 まさかグーグルマップの航空写真を使って除霊をするとは。 黒田さんの能力は凄いと思いますが、ほんの少し胡散臭い所に逆に魅力を感じてしまいます。 この人から取材してみたいなぁ。 知り合えた作者様は幸せ者ですね。 このシリーズは個人的にツボです。 |
名前: へみ ¦ 16:50, Sunday, Apr 13, 2008 ×
グーグルマップで結界を張るとか今時な感じはおもしろかったです。 ただ焦点が絞りきれていないような感じもした。
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名前: 黒ムク ¦ 14:28, Monday, Apr 14, 2008 ×
凄いなぁ。 怪談にもこんな話が出てくる様になるとは。 面白すぎてホンマかい、とは思いますが。
にしても黒田さん。 オマケしましたよね?
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名前: MM88 ¦ 17:56, Monday, Apr 14, 2008 ×
チャットしながらネット上でグーグルマップを使って除霊というのは前代未聞で吃驚しました。 この辺りとか映像化したら面白そうですね。黒田さんも素晴らしいですが、片瀬さんという女性も凄いです。千里眼をもっているのでしょうか。大変おもしろかったです。 |
名前: じゅりんだ ¦ 18:08, Tuesday, Apr 15, 2008 ×
| グーグルマップで結界はるなんてこと 出来るんですねぇ。ビックリです。 |
名前: SPダイスケ ¦ 23:01, Friday, Apr 18, 2008 ×
グーグルマップでも出来るなんて、便利な時代ですねぇ。 その能力はすごいとは思うのですが、オマケの部分がやっぱり嫌ですね…。
文章:1 内容:1
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名前: PM ¦ 19:04, Sunday, Apr 20, 2008 ×
実話怪談としての文章・・・-1 希少度・・・1
なんだか漫画みたいな話で、入り込めませんでした。 特に三人でネットを介して結界を張るところなどは、台詞の応酬が効果的でそれなりに盛り上がってはいるのですが、私には付いていけません。 どうにもやり過ぎのようで、私の目には作り話のように写ってしまうのです。 あくまで実話ということを前提にして読んでいるのですが、それでもこんなことが出来るのかという疑いが頭をもたげてしまいます。
あまりに度を越した怪異などを実話怪談として作品にする場合、読み手に実話であると感じさせるのが難しいという場合もあります。 そういうネタの作品化に挑戦するのは大きなリスクが伴います。 私はこの作品を実話怪談として楽しむことが出来ませんでした。 |
名前: 鹿太郎 ¦ 00:01, Sunday, Apr 27, 2008 ×
| イマドキらしいグーグルマップ遠隔操作で悪霊をデリートしていくところなど、小気味よく非常に面白かったです。というより面白すぎて小話のように読んでしまいました。ネトゲ廃人兼陰陽師黒田氏はキャラ立ちすぎです(笑)。 |
名前: ひ ¦ 15:38, Monday, Apr 28, 2008 ×
| 私は、見える人目線のこういった話は、ちょっとだめでした。グーグルマップを使って結界を張る辺りは、二人についていけませんでしたし……申し訳ないです。 |
名前: こうたろう ¦ 22:22, Monday, Apr 28, 2008 ×
「理」の陰陽師の方ですか。なんかこの人は好きになれないな。子供が拳銃を持ってるようなもので、いくら陰陽道を修めてもそこに倫理観が伴ってなければ意味が無いような。 話自体は現代的な小道具を使って除霊するという奇抜で面白い物でしたが。
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名前: 久遠 平太郎 ¦ 19:38, Tuesday, Apr 29, 2008 ×
すごい! 最強タッグですね。 航空写真で除霊とは、斬新過ぎる。 黒田さん、名前のみならず腹も黒いですね。 おまけは良くないが、人間味があって好きですね。 清明というより芦屋道満といった感じ。 |
名前: 昼間寝子 ¦ 16:12, Wednesday, Apr 30, 2008 ×
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