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プレゼント
主婦の美鈴さんが独身時代に会社の面接に行った時の話。
事務員の募集広告を見て尋ねたそこは、会社と言っても小規模で、1階に事務室があり2階3階が自宅になっているという造りだった。
社長と名乗る30過ぎの男性に、すぐに行きますのでお待ちくださいと2階の応接室に通された。
仕事が立て込んでいるらしい。社長は申し訳なさそうに頭を下げて仕事場に戻って行った。
「すみません。少々お待ちくださいね。」
社長の母親と思われる初老の女性がお茶を持ってきてくれた。

一人ソファーに座り少し俯き加減でいた美鈴さんの目線が何かを捉えた。
となりの部屋へ続く襖が少し開いており、その襖の陰から覗くものがいる。
美鈴さんがそちらを見ると、それはスッと隠れた。
目線を逸らすと、再びゆっくりと覗いてきた。
美鈴さんは脅かさないように、そっとそちらを見た。
「幼稚園くらいの男の子が覗いていました。」
子供が好きな美鈴さんは男の子が恥ずかしがっているのだと思い、優しく微笑み掛けてみた。
初めは恥ずかしそうにしていた男の子もだんだん慣れてきたらしい、向こうも美鈴さんに微笑み返した。
「可愛い子でした。素直そうで、大きな瞳が印象的だったな。」
美鈴さんはこんなに可愛い子がいる職場なら楽しくなりそうだなと思った。

男の子は美鈴さんの近くまで歩いて来て、言った。
「おねーちゃん、これあげる。」
小さい両手で美鈴さんの手をしっかり握り、何かを掌の上に置いた。
それは小さな青い折鶴だった。
「ありがとう。」
美鈴さんがお礼を言うと、男の子は嬉しそうに笑った。
「ぼく、いくつ?」
美鈴さんがそう聞くと、男の子は何も言わずに少しだけ寂しそうな顔を浮かべ、襖の奥へ行ってしまった。

「いやぁ、お待たせして申し訳ありません。」
額の汗を拭いながら社長が来た。
「いえいえ。ずいぶん可愛いお子様がいらっしゃるのですね。」
美鈴さんの言葉を聞いた社長の表情が変わった。
「うちには子供は居ませんけど・・・。」
「え? たった今男の子にこれをもらったんですが。」
美鈴さんが折鶴を見せると、社長は驚いた表情をして、
「よろしければ、こちらに来て頂けますか。」と静かに言った。

社長に通された部屋には仏壇があった。
遺影には、まさに先程見た男の子が笑顔を浮かべている。
美鈴さんは余りの事に言葉を失った。
「3年前に病死した息子です。ご迷惑をお掛けしました。」
社長はそう言うと、頭を下げた。
仏壇の横には、美鈴さんがもらった折鶴と同じ大きさの鶴で作った千羽鶴があった。

その後の面接はごく簡単なものだった。
「もしもあなたがよろしければ、是非うちで働いてください。」
社長は最後にそう言って、面接は終わった。
「でもそこで働く事は出来なかった。子供は好きだけど・・・さすがにね。」
美鈴さんは余計な事を言わずに、ただ「すいません」と謝り、働く事を辞退した。
社長もそれ以上は何も言わなかった。

「もらった折鶴は、家に帰ってから引き出しに入れておいたの。いくらなんでも返したり、捨てたりするのは可哀想でしょ。せっかく私にくれたんだから。」
しかし月日の経過と共に、美鈴さんは何処の引き出しに入れたのか忘れてしまった。
その後美鈴さんはもらった折鶴を見る事はなかった。





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■講評

文章 1
読みやすい。
稀少度 1
怖くはないがじーんと来ます。

怖くはありませんでしたが、可哀想な話でした。千羽鶴があるからには幼くして闘病生活を送ったようで、お子さんを亡くした社長氏も悲しい上にこうして現世に子供が帰ってきたりするようではあきらめがつかないだろう、と思う。
しかしそれとこれとは別、やはり無関係な「美鈴」さんには怖い話であって、「折り鶴」は結局無くしてしまったところに、現実を感じる。


名前: くりちゃん ¦ 16:02, Sunday, Mar 30, 2008 ×


せつないけれど怖い話。
結局そこでは働かなかった、折り鶴はいつのまにかなくしてしまった、というところもリアリティがあって、さらにせつなくなる。

名前: ナルミ ¦ 21:28, Sunday, Mar 30, 2008 ×


ネタ+3
切ない話です。きっと自分を見る事が出来る人が来て、うれしかったんだと思います。
そのまま就職すればよかったのに、と思ってしまうのは、零(レイ)能力者ゆえでしょうね。
素直そうな子なので、もう一度同じお母さんの元に産まれ直してくるといいな。

名前: ねこ ¦ 21:54, Sunday, Mar 30, 2008 ×


切なさが出ていて、良い作品だと思います。
科白がテレビドラマのように整いすぎた感じがしますが、これは書き手の方の作風なのでしょうね。

文章1:希少度1

名前: chidori ¦ 00:01, Monday, Mar 31, 2008 ×


子供に気に入られたんだろうなぁ。
来て欲しくて出て来たのかも知れないと思うのは浅はかだろうか。

希少性(1) 文章(0)

名前: ねこや堂 ¦ 02:20, Monday, Mar 31, 2008 ×


文:+2 怖:+2

美鈴さんなら気づいてくれる。遊んでくれる。
そんな風に感じます。
縁だと思って働いてみればよかったのに、
と人事ながら思ったりして。

名前: 晴 ¦ 12:35, Monday, Mar 31, 2008 ×


 肝心の折り鶴が確認できないと怪異かどうか?
 残念ですがコメントできません。
 0点です。

名前: くすだまん ¦ 20:52, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


親より早く死ぬのは最大の親不孝、と言いますし、成仏出来なかったのか、まだ時間がかかるのか。
社長さんには切ない事でしょう。
そこでは働かなかった、折り鶴をなくしてしまった、にそういうものだろうと無情を感じます。

名前: ちゅん ¦ 15:28, Thursday, Apr 03, 2008 ×


ちょっぴりせつないハートフル怪談ですね。個人的には働いて欲しかったかな、と。そして成仏させてあげれたら一番だったんですが。まぁでも、自分も間違いなく無くしています、折鶴。

名前: 茶毛 ¦ 15:12, Sunday, Apr 06, 2008 ×


社長さんは美鈴さんを雇うことでまた息子が現れてくれたら…と思うだろうし、美鈴さんにしてみれば、いくら可愛らしい子供でも職場で霊と遭遇するのはちょっと…と思うだろうし。どちらの気持ちもわかるので複雑ですね。 +1

折り鶴はなくしてしまったのか消えてしまったのか、余韻が残る終わり方も良かったです。 +1

名前: 眠 ¦ 20:55, Wednesday, Apr 09, 2008 ×


「小さい両手で美鈴さんの手をしっかり握り、何かを掌の上に置いた。」のところがいいですね。
しっかり現実感を持って現れてきた様子が分かります。
希少度 1 文章 1

名前: じぇいむ ¦ 14:50, Friday, Apr 11, 2008 ×


いい話ですね。
怖いというより切なくなってしまいます。
社長と美鈴さんの言動も自然で、読んでいて話に入り込みやすかったです。
優しい美鈴さんでも、さすがに働く事はできませんよね。

名前: へみ ¦ 15:52, Sunday, Apr 13, 2008 ×


仏間に通されたらそこには先程見た人物の写真が、という話はよくあるが。
子供の無邪気さが哀しい話。
知らない人だけど遊んでくれそう、とやって来たのだろうか。

名前: MM88 ¦ 22:48, Monday, Apr 14, 2008 ×


いいお話ですね。美鈴さん、その男の子に気に入られたんでしょうね。
働いてみたら良いような気もしますが、そうしたらそうしたで纏わりつかれて鬱陶しい事にもなりかねないですね。男の子はきっと淋しいんでしょうね。

名前: じゅりんだ ¦ 17:49, Tuesday, Apr 15, 2008 ×


悪い感じはしなかったので、是非そこで働いてほしかったなーと思いました。
しんみりといいお話です。

名前: 黒ムク ¦ 18:34, Thursday, Apr 17, 2008 ×


いいお話だとは思いましたが、怪異としては少々弱いかと・・・

名前: SPダイスケ ¦ 21:53, Friday, Apr 18, 2008 ×


なんだかシンミリしますね。
もしそこで働いてたら、何か特別手当が出たのかもしれませんね。
あ、スミマセン。不謹慎ですね…。

文章:1 内容:1

名前: PM ¦ 10:45, Sunday, Apr 20, 2008 ×


文章・・・2
希少度・・・1

そこに居るはずのない人を見るだけではなく、物をもらい、それは厳然とそこに存在するという事実。
こういう話ってたまに聞きますが、その度に不思議だなぁと思います。

そのような体験がうまく文章にまとめられています。
必要最小限の文章量で、起こったこととそれを体験した人がどう感じたかが過不足なく表現されており、良質な作品に仕上がっていると感じました。

名前: 鹿太郎 ¦ 23:07, Saturday, Apr 26, 2008 ×


幽霊から幻ではない実物の折り鶴をもらうなんて(社長さんも見ているので)、よほど好かれたのでしょうね。

名前: ひ ¦ 15:02, Monday, Apr 28, 2008 ×


 いいお話だと思います。
 自分の年齢を話さないでいってしまったところがまた切ない。きっと、分かっているんでしょうね。

名前: こうたろう ¦ 22:04, Monday, Apr 28, 2008 ×


しんみりさせる良い話ですね。怪異の派手さはないものの、こういった話も好きです。
ラストの折鶴が消えてしまったことが象徴的で余韻のある読後感を残しました。

名前: 久遠 平太郎 ¦ 19:18, Tuesday, Apr 29, 2008 ×


男の子の無邪気さが、どこか切ない。
働かなくて良かったのかも知れませんね。
却って男の子が成仏しにくくなってしまったかも知れない。

名前: 昼間寝子 ¦ 15:34, Wednesday, Apr 30, 2008 ×



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