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今からもう60年以上も昔の話。 植村さんには達夫というお兄さんがいた。 達夫兄さんは子供の頃から何かと問題を起こす人で、両親をよく困らせていた。 兄さんは中学校を卒業するとすぐに働きだしたが、ある日街をぶらついているとよからぬ者に声をかけられ、金を用意したら商売をさせてやる、と言われた。 兄さんは何かとうるさい両親と一緒にいるのが嫌で、家を出たがっていたので、渡りに舟とばかりに家の金を持ち出して家出してしまった。 その金はこの先何かあった時に、と母親がこつこつと自宅預金していたものだった。 兄さんはこれで自分も一人前に商売が出来ると相手に金を渡したが、そこは大人の悪人、何のかのと言ってうまく金だけ巻き上げて姿をくらましてしまい、兄さんは帰りのバス代もなく街に放り出されてしまった。 騙されたとわかった兄さんは、一晩歩きづめでやっとの事自分の村に戻った。 しかしもう家には帰れない。 母親は金を持ち出した事にもう気が付いているだろう。 帰ったら今度こそ父親に半殺しにされる。 仕方なく兄さんは村の山寺の縁の下にしばらく隠れ住む事にした。
寺の縁の下に住み出してしばらくした頃。 夜中にふと目を覚ますと、寺の前庭に誰かがいた。 縁の下からうかがっていると、それは小学校低学年くらいの歳の、おかっぱ頭で赤い着物姿の、素足に赤い鼻緒の草履をはいた女の子だった。 女の子は月明りの下でてんてんと毬をついたり、前庭の花をさわったりと一人で遊んでいる様だった。 この寺の子か、と兄さんは思った。 それにしてもこんな夜中に子供が一人で遊んでるなんて。 そして気付いた。 そういや、この寺の住職の子は男の子ばかり三人のはずだったが… 以来、女の子の姿は時々夜中に見かける時があった。 女の子も縁の下の兄さんに気付いている様で、時々縁の下のそばまでやって来て、じいっと兄さんの方を見ている時があった。 それに兄さんは、変な子だ、もしかしたら人間じゃないのかもしれん、と無視していつも寝たふりをしていた。
ある夜、兄さんは喉が渇いて目が覚めた。
もう一ヶ月ほど縁の下で生活をしていて、ろくなものを食べていない。山の木の実、草の実や、よその畑の作物や軒下にあったものを盗んで食べていた。 水筒代わりにしていた竹筒の水はみな飲んでしまっていた。兄さんはヨロヨロと立ち上がり、山寺の裏の谷川へと降りて行った。 暗い中、熊笹をかきわけて崖といってもいい様な山道を下っていると、腹が減っているのとまだ寝ぼけていたのもあり、足を滑らした。 兄さんはあちこちをしたたか打ち付け擦り剥いて、谷川まで転げ落ちた。 ひたひたと冷たい谷川に浸かり、しばらく呆然としていたが、身体があちこち痛んでうまく動かない事に気付くと、ようやく自分が助けを呼ばないといけない状態になっている事に気が付いた。 しかしそこはふだんは誰も来ない山寺の裏の谷川の底。 泣いてもわめいても誰にも気付いてもらえそうになかった。 こんなとこでこのまま死ぬんだ、と兄さんは思った。 そう思ったら痛いわ冷たいわひもじいわ情けないわで涙が出てきた。しかしもう遅い… 兄さんは子供の様に鼻をすすって泣いた。 と、そのそばで。 じゃり、と 土を踏む音が聞こえた。 兄さんが顔をあげると。 谷川に半分浸かって川岸にすがっている兄さんのそばに、赤い鼻緒の草履を履いた小さな素足があった。 暗がりの中、あの女の子らしき影が見えた。 「た、たすけ…」 兄さんが覚えているのはそこまでだった。
次に目を開けた時は。 兄さんの周りには沢山の人たちがいて、兄さんは誰かにおぶわれ、崖を登ってゆく途中だった。 「達夫!」 目を開けた兄さんのそばには母親がいた。 「しっかりせんか!このバカたれ!」 母親は兄さんの頭をはたいた。
兄さんの怪我は打撲等だけで大した事はなく、しばらく自宅療養すれば済む程度のものだった。 後で聞けば、兄さんが寺の縁の下に住み着いているのは村の皆が知っていたらしかった。 兄さんの両親も。 兄さんの母親はまた何か迷惑をかける前に迎えに行こうとしたが、父親は 「あのバカたれが音を上げて自分で帰ってくるまで放っておけ」 と言ったので迎えに行かなかったという。
兄さんは歩ける様になってから、両親に連れられて、谷川から引き上げてくれた人たちや寺の住職にお詫びとお礼を言いに行った。
兄さんたちが寺をたずねると、出て来たのは住職だけだった。住職さんとこのお嬢ちゃんにも礼を、兄さんがと言うと、住職はそれはいいと言った。 いやそういうわけには、住職さんに知らせてくれたのはあのお嬢ちゃんでしょうと兄さんが言うと 「あれはうちの子じゃない」 と住職は言った。住職の言葉に、兄さんがじゃああの子は、と言うと 「あれはな。うちの子じゃのおて、おんぼ様じゃ」 と住職は言った。 ”おんぼ様”というのはその土地での”お坊様”の意味だったので、兄さんも両親もわけがわからないでいたが、住職はそれ以上何も言わず、親や皆に迷惑をかけるのもたいがいにせえ、と言って寺の奥に入ってしまった。
達夫兄さんは十年程前に亡くなった。 谷川の底で危うく死ぬところだった事にも懲りず、結局兄さんは一生何のかのと皆に迷惑をかけっぱなしだった。 寺の赤い着物の女の子を見たのは達夫兄さんだけだったという。
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■講評
文章 1 読みやすい。 稀少度 1 不思議です。
「おんぼ様」の正体が何なのか分からずじまいなのが残念。悪いモノではなさそう。 「おんぼ様」に助けられる(?)ところまでは詳しく書かれているのに、終わりがダダーっと終わってしまったような印象がある。
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名前: くりちゃん ¦ 14:40, Saturday, Mar 29, 2008 ×
いい話だと思います。 「寺の赤い着物の女の子を見たのは達夫兄さんだけだったという」は、住職はその存在は人から聞かされたりして知ってはいるものの、姿を実際に見たことがない、という事ではないかな・・・と思って読みました。
文章0:希少度1 |
名前: chidori ¦ 16:27, Saturday, Mar 29, 2008 ×
読みやすく、話がわかりやすい。 何か懐かしさを感じるいい話です。 |
名前: 撃墜王の孤独 ¦ 22:15, Saturday, Mar 29, 2008 ×
話自体は良いと思うのだが、まとまりきれておらず長い。 前半部はもっと短くまとめ、怪異に絞った方が良い。 必要ない記述も多かったように思う。 植村さんのお兄さんの話だが、植村さん自体は話に全く関わって来ないので、「植村さんの兄」ではなく「達夫さん」で良かったのではないか。 生涯にわたって迷惑を掛けていたかなど本筋に関係ないので省いて良いと思う。
希少性(1) 文章(-1) |
名前: ねこや堂 ¦ 22:25, Saturday, Mar 29, 2008 ×
怪異自体はたいしたことないのだが、話は面白かった。
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名前: ナルミ ¦ 01:00, Sunday, Mar 30, 2008 ×
ネタ+3 おんぼ様は、達夫さんを助けてくれたのか、それとも、助けが入ったのは偶然で、その時もこれまでと同じように「観察されていた」だけだったのか。 こういう古き良き時代の怪談は好きです。怪談を読む楽しみの一つです。 |
名前: ねこ ¦ 20:40, Sunday, Mar 30, 2008 ×
文:+1 怖:+2
女の子なのに「おんぼ様」 そこに一体何があるのでしょうね。 それにしても、せっかく助けてもらったというのに その後も変わらなかったなんて、剛毅な(笑) |
名前: 晴 ¦ 13:05, Monday, Mar 31, 2008 ×
憎めないお兄様におんぼ様も思わず 「しゃーね〜な〜」と助けてくださったのでしょうか(笑)。 雰囲気の好きな話です。どうしても話の雰囲気で点数を付けてしまう(^^;) |
名前: ちゅん ¦ 14:40, Thursday, Apr 03, 2008 ×
| おんぼ様、その土地土地に根付いた神様的存在。いいですねぇ。個人的に好きです。 |
名前: 茶毛 ¦ 14:11, Sunday, Apr 06, 2008 ×
父にも母にも「バカたれ」と言われる達夫さん…ああ耳が痛い。 親のお金を持ち出すのはロクデナシだけど、すんなり騙されたりもしていて根っからの悪人ではないらしい。こういう人ってどこか憎めなくて、周りがヤキモキするんですよねえ。純粋(?)な人にしか見えないのかな、おんぼ様。なんとも不思議な存在です。住職が見たことあるのかないのかも気になるところ。 +2
住職と話すくだりでもたつきが感じられましたが、おんぼ様との遭遇や達夫さんの気持ちはとても丁寧に描かれていて良かったです。 最後までどうしようもない人だったんだな〜とわかるラストも好き。おんぼ様が放っておけなかったのも頷ける。 +1 |
名前: 眠 ¦ 14:45, Tuesday, Apr 08, 2008 ×
怪異:+2 文章:+0
おんぼ様。その正体は? 気になるところですね。座敷童子的な存在なのでしょうか? 話はもう少し短くした方がよかったかも。
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名前: MM88 ¦ 14:49, Wednesday, Apr 09, 2008 ×
60年前の話が残っていただけでも希少性はありますね。 達夫兄さんみたいな人は、以前はよくいたんじゃないでしょうか。 迷惑なんだけど、フーテンの寅さんみたいにどこか憎めないんですよね。 希少度 2 文章 0
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名前: じぇいむ ¦ 14:56, Thursday, Apr 10, 2008 ×
文が拙い。1点減点します。 実話というより高学年を対象にした児童文学みたい。 ありきたりな座敷童の話かと思いましたが「おんぼ様」という呼称で救われた印象があります。 ただし、せめて何処の県か記載がないと、せっかく題名になっている「おんぼ様」の意味が薄らぐような気がしました。 2点減点します。 |
名前: くすだまん ¦ 18:18, Saturday, Apr 12, 2008 ×
60年も前の話を文章にするのは難しかったでしょう。 しかし話の展開として、やや分かりにくく感じてしまう部分もありました。 谷川に落ちておんぼ様を見て気を失った後、次に目が覚めたのはおぶられている部分ですが、どうやって発見されたのかは気になる所です。 家族が縁の下にいる事に気付いていたとあるので、家族が発見してくれたのかな。 もしかしたらその発見にもおんぼ様が関わっているのかなとか考えてしまいました。 |
名前: へみ ¦ 19:24, Saturday, Apr 12, 2008 ×
お兄さんは結局人に迷惑をかけっぱなしの人生だったんですね。こういう方っていますよね。 女の子を見たのが達夫兄さんだけで「おんぼ様」という意味もよくわからず、すべてにおいて謎ですね。
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名前: じゅりんだ ¦ 22:49, Sunday, Apr 13, 2008 ×
| もう少し話しをまとめて書いた方が読みやすかったかと思います。 |
名前: SPダイスケ ¦ 21:32, Friday, Apr 18, 2008 ×
ちょっとまとまりに欠ける部分がありましたが、面白かったと思います。 誰にも見られないまま、今も“おんぼ様”はその寺にいるんでしょうかねぇ?
文章:0 内容:2
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名前: PM ¦ 22:15, Saturday, Apr 19, 2008 ×
文章・・・0 希少度・・・1
文章は解りやすく書けてはいるのですが、何か物足りない。パンチが足りないというか、どの表現も流れてしまってこちらに訴えるものがないように思いました。
それに加えて、谷川に落ちた達夫さんがどうやって発見されたのかという部分が明示されていなかったり、舞台となった地域が明確でなかったり(はっきりとした地名を明かさないまでも、大体どの辺りの出来事なのかは書くべきだと思います)で、肝心な部分の抜けが更に物足りなさを助長しているように感じられます。
話自体には興味深い部分もあっただけに残念です。 |
名前: 鹿太郎 ¦ 00:01, Sunday, Apr 20, 2008 ×
名前: ひ ¦ 14:38, Thursday, Apr 24, 2008 ×
”おんぼ様”の説明がもう少しあったら高得点をつけられる話に化けるきがします。 個人的にはこういう話は好きなので、余計にもったいない気がしてしまいまして。 |
名前: 黒ムク ¦ 16:35, Thursday, Apr 24, 2008 ×
文章は分かりやすいのですが、どこか物足りないような印象を受けてしまいます。 やはりおんぼ様の説明がほしかったところです。 やはり、この土地の神様のようなものなのでしょうか。 |
名前: こうたろう ¦ 15:59, Sunday, Apr 27, 2008 ×
| おんぼ様は御墓さまと書くのかな。話の核であるおんぼ様の正体が明かされないため、精彩を欠いてしまったのは残念。でも、怪異にまつわる人間は上手く描かれていたと思います。こういった話は個人的には好きなので。 |
名前: 久遠 平太郎 ¦ 10:59, Tuesday, Apr 29, 2008 ×
おんぼ様が何者なのかがやはり気になるところ。 文は味があってとてもいいです。 何のかの、っていう表現好きですね。 |
名前: 昼間寝子 ¦ 11:47, Wednesday, Apr 30, 2008 ×
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