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寺町の穴
 私の家の近所にある、いわゆる「寺町」であった話。
 言うまでもなく、道路を挟むのは数多の寺院の門と、墓場を隠す塀。
 そこで時刻は深夜二時、田代と金沢の二人は少し酔いを醒ますために夜の散歩を寺町の歩道で楽しんでいた。
 歩く先は突き当たりにある市立の共同墓地。
 この時間、誰もそんな所には用はないので、車一台走ることのない道だ。
 ゆっくりと、とりとめのない話をしながら歩く二人。
 彼らは人気のない場所がとにかく好きなのだ。
 
 おや、と田代は足を止めた。金沢は黙って友人の様子を伺う。
 歩道沿いの塀に中腰になり顔を近づける田代。
「この塀、いい感じに覗き穴あいてるわ」
 しばらく、じいと塀の向こう側の景色を覗き続ける田代。別にそれほど高い塀でもないので、二人の身長なら背伸びでもすると容易に墓所は見えそうだが、戯れとしては穴から見たほうが楽しいだろう。
「うーん、雰囲気あってなかなか怖い」
 そういい、塀から離れてニタニタと笑う田代。金沢にも穴を覗いて欲しいだろうことが雰囲気からわかる。
 どれ、と金沢も穴を覗いてみた。
 
 楕円に狭まれた視界のど真ん中に一つ墓があった。
 月と星の明かりのせいだろうか、周囲の景色はこの上ない漆黒に包まれており、その墓だけが青く浮かんでいる。
「確かに雰囲気あるねえ」覗いたまま金沢は田代に洩らした。
 ひゅうと冷たい風が吹き、金沢は背筋がゾクリとした。春とはいえ、この地方の夜はまだうっすら寒い。
 少し、穴から目を離しジャンパーのジッパを止め、もう一度覗く。

 すると、真っ暗だった。
 何かがあちらを塞いでいるような按配だ。
 ん、と思い、目を凝らした。
 穴の向こうの障害物は少しづつ遠ざかっていき、それが何なのか次第にわかった。
 まず、一つの目、次に鼻ともう一つの目、口が確認され、結局は女の顔になる。
 青白い顔で両の目は思い切り見開かれていた。
 後ろ歩きしているのか、最終的には全身が確認できた。
 白装束を着た黒髪の女性が楕円の真ん中に。
 さきほどまであった青い墓はそこにはなかった。

「うっ」と反射的に壁から離れた。
「な、雰囲気あるべ」と田代が共感を求めてくる。
雰囲気どころのものじゃないだろう、と金沢は思った。

帰り道、金沢が田代に何が見えたのか聞いたところ、点在するいくつかの墓、ただそれらだけが見えていたとのことだった。





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■講評

文:+2 怖:+2

とても雰囲気がよく伝わってきます。
穴、あったらついつい覗いちゃいますよね。
人間の心情として。
そして、別々の物を見てる。
というのはようありますが、穴を挟んで睨みあっていた。
というのが怖い。

名前: 晴 ¦ 15:05, Monday, Mar 24, 2008 ×


穴を覗いた時点で大体予想がついてしまった。
でも目が合ったら気持ち悪いよな。

希少性(1) 文章(0)

名前: ねこや堂 ¦ 21:38, Monday, Mar 24, 2008 ×


文章 2
どんでん返しがいい。
稀少度 2
これは怖い。

お昼にまた来てみたら、穴などなかったという事もあり得そう。
向こうからものぞくというのは聞いたこともあるが、それがだんだん全身像を表すというのは初めて。


名前: くりちゃん ¦ 22:28, Monday, Mar 24, 2008 ×


なかなか面白かったです。
いい酔い覚ましになりましたね(笑)

名前: 黒ムク ¦ 22:40, Monday, Mar 24, 2008 ×


ネタ+1
覗く人は覗かれる、という、古来の怪談の黄金パターンですね。
白装束というのがいわゆる死出の旅路に着る死に装束なんでしょうか。
最初の墓石はいったい何だったのかも気になります。

名前: ねこ ¦ 00:15, Tuesday, Mar 25, 2008 ×


なかなか面白い話。「女」の行動も意味不明なところがよかった。

名前: ナルミ ¦ 00:20, Tuesday, Mar 25, 2008 ×


「そこで時刻は深夜二時、田代と金沢の二人は少し酔いを醒ますために夜の散歩を寺町の歩道で楽しんでいた」とあるので、酔いのせいで穴からの映像が見えているという風にも受け取れて、またその酔い方によっては2人の見え方にも違いがあるのではないかと思える点が、怪異としては少し弱い気がしました。
話としては面白かったのですが・・・。

文章0:希少度0

名前: chidori ¦ 22:46, Tuesday, Mar 25, 2008 ×


文章・・・1
希少度・・・1

気持ち悪い体験です。
しかし呑気な二人の様子に愛嬌があり、その辺りの不釣合いさが面白いと感じました。
金沢さんの方はちょっとビビッてますが、意図的かどうかは別としてそれをあまり感じさせない文章が、却って作品を面白いものにしています。

名前: 鹿太郎 ¦ 02:35, Wednesday, Apr 02, 2008 ×


怖いと素直に言えない金沢さんのかわいらしさと見たモノの強烈さのギャップが可笑しい。

名前: ちゅん ¦ 13:07, Wednesday, Apr 02, 2008 ×


こっ、怖えええ。
ちっさい穴とか細い隙間とか怖えええ。
向こうは墓ですなんて言われたら絶対覗かない。イヤだあああ。

名前: 眠 ¦ 22:19, Thursday, Apr 03, 2008 ×


 単純に覗いている相手が幽霊とは限らない訳で・・・。
 採点およびコメントは控えます。

名前: くすだまん ¦ 14:06, Saturday, Apr 05, 2008 ×


覗きはいけませんよ、覗きは。おまわりさんに言いつけますよ。という事で話を戻します。
違う物が見えると言うオチは途中で想像できましたが、お二人の呑気な感じが微妙な空気を持った作品に仕上げたように思います。

名前: 茶毛 ¦ 22:18, Saturday, Apr 05, 2008 ×


相手も覗いていたのでしょうか?
それとも体(霊体)の一部が穴を塞いでいただけかな?
下がっていく相手の体は目から確認できたようですので覗いていたのかもですね。
至近距離で思いっきり目が合った事が確認できれば面白かったのに。
って覗いてる本人にとっては怖いだけですけどね。

名前: へみ ¦ 06:50, Sunday, Apr 06, 2008 ×


女の顔をわりと冷静に観察している文章の直後に、「反射的に壁から離れた」とすると、本当によく見たんだろうかと思ってしまいます。
穴を覗く話で向こうからも覗いているのは、怪談というよりお話の常道なのですが、それでもなお何か面白みを感じさせるものがありました。


名前: じぇいむ ¦ 20:00, Tuesday, Apr 08, 2008 ×


珍しいものをご覧になられたと思います。酔っていたから穴を覗く勇気もでたんでしょうかね。
夜の幻想的な雰囲気は伝わりました。

名前: じゅりんだ ¦ 14:26, Thursday, Apr 10, 2008 ×


むこうものぞいていたんですね。
しかし塀のむこうの女性は霊だったのかどうかはわかりません。
霊であれ普通の人間であれ、むこうもびっくりはしていたでしょうが。

名前: MM88 ¦ 15:38, Sunday, Apr 13, 2008 ×


ちょっと酔ってたってのが幻覚かどうかで気になりますが、面白い話だとは思います。
その穴、まだありますかねぇ…?
是非、酔ってない時にもっかい覗いてみて欲しいです。

文章:1 内容:1

名前: PM ¦ 21:06, Thursday, Apr 17, 2008 ×


お互いに覗き合っていたわけですね。
想像すると怖いです・・・

名前: SPダイスケ ¦ 10:37, Friday, Apr 18, 2008 ×


向こうも覗いていたわけですね。なかなか怖いです。冒頭の「私の家の近所にある」はいらないのではないでしょうか。「私」が出てこないのですから。

名前: ひ ¦ 17:55, Monday, Apr 21, 2008 ×


 正面を向いたまま後ろに下がっていく様子がとてつもなく怖かったです。
 よくもまぁ、最後まで覗けたものです。

名前: こうたろう ¦ 13:10, Sunday, Apr 27, 2008 ×


すいません、往年のドリフのコントを思い出して怖い話なのに笑ってしまいました。
霊が穴を覗いている図をイメージするとシュール過ぎて(笑
現象は珍しいし、大変面白い話だと思います。いや、まいったなぁ。

名前: 久遠 平太郎 ¦ 19:16, Sunday, Apr 27, 2008 ×


向こうも覗いていた、というのは定番ですが、場所が場所だけに怖さも倍増、女の顔が見えるときの描写も良かったです。
二人のキャラも話に良い味付けをしていますね。

名前: 昼間寝子 ¦ 05:12, Wednesday, Apr 30, 2008 ×



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