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五人部屋
温子さんが、足の靭帯を痛めて入院した時の話。

怪我の理由は自転車で転んだという些細なもの。
しかし、左足首は見事に腫れ上がり、びっこを引き引き病院で診察してもらうと、
「ああ、ひと月は掛かるね、これ」
と言われ、ギプスで足首を固定されて、検査入院となった。
看護師に案内されて、病室を覗くと、そこは四人部屋。
やはり足を痛めている中年の女性が二人と、鎖骨を痛めているらしいおばあさんが一人。
彼女には、窓側の右奥側のベッドがあてがわれた。
慣れない杖を突いて、ふうふう言いながら同室の患者たちに挨拶を交わし、ベッドに辿り着いてそこに座り込んだ時、ふと、妙な視線を感じた。
(あれ?)
振り返ると、他の人たちは雑誌を読んでいたり、イヤホンを付けてテレビを見たりしている。誰もこっちを見てなどいない。
(変なの)
夕方になると、母親がやって来て、お前はまったくそそっかしいんだから、などと小言を呟きながら、同室の患者さんたちにお菓子などを配っていたが、その時にも、ねっとりとした視線をどこからか感じる。
だが、部屋を見回しても、他の人たちは母と楽しそうに談笑していた。
どうも、納得が行かない。
そして消灯時間。
大怪我と言っても足の先であるから、本人は至って元気だ。
家から持って来たマンガなどを読んでいたが、さすがに電気を消されれば起きているわけにもいかない。
本を放り出して、ごろんと横になった瞬間。
そこにいた。
白いネグリジェの髪の長い女が、天井に爪を立て、蜘蛛のように四肢を広げて病室の天井に貼り付いている。
両目を剥いた血だらけの顔が、凄まじい断末魔の表情を浮かべていた。
「ぎゃっ!」
意味の判らない悲鳴を上げて、ベッドから逃げようとした刹那。
足がギプスで固定されているのを忘れていた。
つんのめり、大きく半回転。
激しく転倒。
ベッドに手をぶつけて嫌な音。
どうしたの、と駆け寄るおばさんたち。
顔を上げて、頭上の血塗れ女と目が合った。
今度は気絶した。

それが原因で左肘も捻挫して、温子さんの入院は延びた。
だが、病室は代えて貰えなかった。
医師にも看護師にも、同室の患者達にも、その天井の女が見えなかったからだ。
「でも、初めはグロくて怖かったけど、慣れちゃいました」
電気が消えると現れる血まみれ女は、ただ天井にしがみ付いて怖い形相をしているだけで、そこからピクリとも動かなかったからである。
「特に幽霊が出るという噂の病院でもなかったんですけど、どういう理由であんなとこに貼り付いているんだか」
血だらけの『貞子』のような霊を毎晩眺めて眠りに入るという、ある意味貴重な経験を重ねながら、温子さんは一週間後、無事に退院した。

あの病室の五人目の患者が、いまだ天井にしがみ付いているままなのかどうかは不明だそうである。





11:54, Wednesday, Mar 19, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(24) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯

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■講評

題名もひねりがあって面白く、怪異も気味が悪いと思いました。

ただ、一週間も見えていて「慣れちゃいました」なのであれば、血塗れ女の容姿をもう少し詳しく描けたのではないかな、という気もしました。

最後の一文で「病室の五人目の患者」とここで特定しなくても、題名で既に「五人部屋」とあるので、最後の一文自体は無くてもいいと思います。

文章0:希少度1

名前: chidori ¦ 14:22, Wednesday, Mar 19, 2008 ×


すごいものを見ましたね、の一言でした。
最後の一文はありがちなので、もうひとひねりほしかったです。

名前: 黒ムク ¦ 15:04, Wednesday, Mar 19, 2008 ×


文章 1
読みやすい。
稀少度 2
私には可笑しかった…

天井の女がネグリジェを着ているというのに、「蜘蛛のように四肢を広げて病室の天井に貼り付いている」という文章は怖いところなんでしょうが、「裾がまくれてあられもない!丸見えじゃ?」と下世話なことを考え出したら、ダメになりました。
心霊小咄じゃない…ですよね?
最後の一文は「紋切り型」なので、ない方がよいと思います。
(誤字をしましたので直しました)

名前: くりちゃん ¦ 20:29, Wednesday, Mar 19, 2008 ×


あー、これは怖いかも。
気の毒としか言えんなこりゃ。

希少性(1) 文章(0)

名前: ねこや堂 ¦ 22:07, Wednesday, Mar 19, 2008 ×


目が合った、ということは、その女は背中を天井に向けて張り付いていたのだろうか。女の姿勢がわかりづらかった。また、ラストの一文は特に意味がないので不要だろう。
怪異自体はなかなか怖くていいと思った。

名前: ナルミ ¦ 01:51, Thursday, Mar 20, 2008 ×


文:+2 怖:+2

いやー!慣れないでくださいよ!

>蜘蛛のように四肢を広げて

ってものすごく嫌ですよ!!
5人部屋なんて暢気なタイトルつけてる場合じゃないですってば。
だって目があったということは、
(多分首をこちらに回転させてとかってことなのでしょうけど)
確実に自分に気がついてるのに。

よくご無事で。

名前: 晴 ¦ 12:46, Thursday, Mar 20, 2008 ×


ネタ+2 文章+1
題名と、文章序盤に出てくる「四人部屋」というフレーズをみた時の「あれ?」という違和感から始まる期待と、出てきた逆さ貞子のインパクト、という流れが巧妙。
しかも慣れるか? 慣れないと思うんだけどなあ普通。こういう剛胆な人の話はツボです。

名前: ねこ ¦ 14:52, Thursday, Mar 20, 2008 ×


文章・・・0
希少度・・・2

血塗れの女の状態が今ひとつ分かり難いのが残念です。
人が蜘蛛のように天井にへばりついているのなら、顔はなかなか見えないと思うんですけど。
あと、例として「貞子」というのが出てきますが、これもあまりいただけない。
あれは映画のヒットのお陰でキャラクターとして一人歩きしている部分もありますが、他の小説の力は借りずに自分の言葉で勝負して欲しいと思います。

名前: 鹿太郎 ¦ 19:13, Saturday, Mar 29, 2008 ×


現象自体はとても怪異なのですが、どうしてこのような怖いものを見ていて、どういう心境で慣れてしまうのかは、まったく理解できない範疇です。
この五番目の女がどうしてそこにしがみついているのかには、とても興味を魅かれますが…。
貞子女の描写は、もう少し判り易くしていてもよかったのではと思いました。
そして、体験者様を襲ったかさねがさねの災難には、心から同情いたしたいとも思いました。

名前: みくりや かつと ¦ 00:26, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


 女の人の方が肝が据わっているのだろうか?私だったら泣く!叫ぶ!血迷うの三拍子!

名前: くすだまん ¦ 12:38, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


>そこにいた。
って…どこに?;
消灯の時刻になったら各々カーテンを閉めるだろうし、やっぱり温子さんの真上ですよね。
真上の天井に貼りついてるのに目が合うって、どんだけ首捻って…キモッ。 +2

温子さんが慣れてしまったことと、「貞子」を出されたことで少し怖さが薄れてしまったので点数低めです。

名前: 眠 ¦ 22:52, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


怖いのに…怖いのに…可笑しい。がっくり。
これはこれでイイのかな。
剛胆な人の話、多くないですか?
「慣れちゃった」って、やっぱ、生きてる人間が一番怖い?

名前: ちゅん ¦ 10:18, Wednesday, Apr 02, 2008 ×


ねっとりとした視線は天井からだったんですね。
かなり恐ろしいものだと思うのですが、やっぱり慣れるものなんですね。
天井にしがみついている描写も分かりやすかったと思います。

名前: へみ ¦ 01:12, Friday, Apr 04, 2008 ×


怪異の異常性はわかるのだが慣れてしまった、の部分で冷めてしまったところはある。
慣れたのであれば何か色々と実験的な事もして欲しかった。

名前: 茶毛 ¦ 22:29, Friday, Apr 04, 2008 ×


天井に張り付いてネグリジェ姿だと、そのネグリジェは垂れ下がるのではないか。
すると顔の反対側に回り込むと、幽霊のパンツが見えるのではないか?
……どこの病院ですかそれ?(^_^;)
希少度 2 文章 0

名前: じぇいむ ¦ 23:25, Friday, Apr 04, 2008 ×


温子さん、散々でしたね。怪我はするわ入院先には幽霊はいるわ・・・。
怪我と幽霊の女とはどうやら関係はなさそうですね。
しかし、そのような恐ろしい体験になれてしまう温子さんは強いですね。
出だしからどのような展開になるのか期待していましたが、最後は単なる目撃談で終わってしまって普通だなと言う感じです。もうひと捻り何かあれば凄い怪談になったのでしょうが。

名前: じゅりんだ ¦ 23:37, Sunday, Apr 06, 2008 ×


な、慣れますか?

怪異はJホラー系列(?)の怖さなのですが。
体験者が
"慣れちゃいました"
それでおしまい、というのはどうも…


名前: MM88 ¦ 17:54, Friday, Apr 11, 2008 ×


あー、慣れちゃったんですねぇ。
慣れたなら慣れたで、長い棒で突付いてみるとか、何かやってみて欲しかったところですが…さすがにそれは怖いか。

文章:1 内容:1

名前: PM ¦ 20:41, Monday, Apr 14, 2008 ×


ひぇぇ。そんなモノの下で、退院するまでよく寝ていられましたね。温子さんも男前です。断末魔の形相のまま天井に写し取られてしまったのでしょうか。写真みたいなもので、害を及ぼそうというのがないのも不思議です。

名前: ひ ¦ 17:22, Tuesday, Apr 15, 2008 ×


うーん・・ 毎晩そのような状態が続いて はたして慣れるものなのでしょうか・・・
私なら、今日は動くかもしれない。今日は何かしてくるかもしれない。
などと考えてしまいますが・・・
描写が分かりやすくイメージしやすいだけに疑問も残ります。

名前: SPダイスケ ¦ 23:58, Wednesday, Apr 16, 2008 ×


恐怖+1
確かに女は怖いのですが、イメージを『貞子』で固められてしまって残念。

名前: 有線 ¦ 17:44, Saturday, Apr 19, 2008 ×


 血まみれの女の描写を詳しくして欲しかったですね。イメージそのまま『貞子』というのも勿体無い気がします。
 毎夜天井にいるそれに、慣れる事が出来たのが一番すごいです。

名前: こうたろう ¦ 21:25, Saturday, Apr 26, 2008 ×


温子さん、すげぇ〜。自分のベッドの上に貞子がいるなんて、私だったら絶対耐えられません。(笑
怪異よりも温子さんの豪胆さが光る話でした。

名前: 久遠 平太郎 ¦ 09:43, Sunday, Apr 27, 2008 ×


見た目がまず怖いですね。
怖いだろう、どうだ!ぐらいの勢いですよね。
でも全く動かないというのも変わってますね。フィギュアみたいで慣れちゃうんでしょうか。
それにしてもねんざで入院って大袈裟だなあ。
タイトルも成程。

名前: 昼間寝子 ¦ 23:55, Tuesday, Apr 29, 2008 ×



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