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びっくりするでぇ
村上さんがまだ小学生低学年だった頃の話。
村上さんのお母さんの実家はある山深い小さな村にあり、盆や正月に自然でいっぱいのお母さんの田舎に帰る事を村上さんは毎年楽しみにしていた。
お母さんの田舎に帰るのはただ遊びに行くだけではなく、しばらくぶりに顔を見せたのだからと皆でお墓参りにも行くのも兼ねている。
そのあたりは山深いところであったためか、昔から土葬であった。
人が亡くなると"座棺"と呼ばれる木製の大きな風呂桶の様な棺に膝を折り曲げて座らせた格好で遺体を収め、家族で棺を御輿の様に担いで山の上のお寺まで運び、大きく掘った穴の中に座棺を埋める。
土葬したところには大きめの石を置いて目印にする。
そのあたりでは土葬した場所を"本墓"と呼び、本墓以外に〈先祖代々の墓〉等と彫られた一般的な石墓も各家にひとつはある。
本墓と石墓は墓地の敷地内でも場所を分けて設置されていた。
火葬をする地域では石墓の中に納骨するわけだが、そのあたりでは石墓の中にお骨が納められてあるところはあまりない。
それは、土葬した後で墓を掘り返して石墓に納骨しなおす様な事はせず、土葬したままだからである。
ある年月がくると寺の住職に本墓の前でお経をあげてもらい、本墓に眠る魂を石墓に"移す"儀式を行って、それ以降は魂は石墓の方に宿っているとしてまずは石墓の方を先にお参りする様になる。それから、遺体の眠る本墓の方にもお参りをする。
現在は衛生上の事からも土葬は禁止になっているが、そのあたりではつい最近まで土葬が行われていたらしい。

村上さんもその弟たちも、村上さんのお父さんも、お母さんから墓地にある大きめな石はただの石ではなく本墓の目印で、下には遺体があるのでむやみに石を踏んではいけない、と聞かされていたので、村上さんたちは足場の悪い山の斜面の本墓の区画を歩いている時も、決して石は踏まない様にしていた。

ある年のお盆の事。
その時は法事を兼ねての帰省であったので、お母さんの実家には他の親戚たちも大勢集まっていた。
村上さんのお母さんは七人兄弟の六番目であったので、お母さんは年長の兄弟とは十歳以上も離れており、よって村上さんの従兄弟たちの中にはすでに結婚して子供がいる人たちもいた。
仏間での長い読経の後、住職を先頭に親戚一同でワイワイといいながらお寺に向い、まずは石墓の方をお参りした。
その時は総勢三十人程の人たちが墓の周りに集まっていたという。
そして中にはお墓参りというものがまだよくわかっていない小さな子供たちもいて、その子たちは山の上の墓地を元気に走り回っていた。
村上さんの弟たちもその子供たちと一緒に走り回っていたので、そのうち誰かが転びやしないかと墓の前から眺めていた。
と、そこに
「ねぇ、あの石まで飛べる?」
と無邪気に言っている声がした。
見れば、従兄弟の子供の姉妹二人がそれぞれに本墓の石の上に乗っていた。
姉妹は村上さんと同じくらいの年であったが、あちこちに点在する石の意味を知らない様だった。そして更に悠長な事に、従兄弟のお嫁さんも
「あれえ、何、この石。飛び石みたいに…」
などとにこにこしながら言っている。
それに村上さんは驚き
「あーっ!」
思わず指をさして声をあげた。
その声に他の親戚たちも振り向き、やはり驚いた。
「馬鹿っ!」
従兄弟があわてて駆け寄り、石の上に立つ姉妹をひっかかえて下ろすと叱りだした。
姉妹もお嫁さんもはじめはわけがわからず驚いていたが、従兄弟がそのあたりに並ぶ石の事を話すと、姉妹とお嫁さんの表情はみるみる変わった。
親戚の年配者が、本墓の近くではしゃいでいる他の子供たちを呼び戻し、石を踏んではいけない、そこはお墓なんだよ、と大きな声で説明した。
意味のわからない小さな子もいたが、意味がわかった子は小さな子たちの手を引いて、それぞれの親の元へとあわてて戻って来た。

その翌朝。
村上さんが起き出して来ると、前日本墓の石の上に乗って叱られた姉妹と従兄弟夫婦が何かバタバタと出かけて行くのを見掛けた。
村上さんがお母さんに、あの子たちはもう帰っちゃうの、と聞くと、お母さんは
「あの子たちねぇ、叱られちゃったんだって」
と苦笑した。
後日詳しく聞いた話によれば

姉妹は村上さんが気付く前から、あたりの本墓の石から石へとピョンピョンと飛び渡り、散々踏み付けて飛び石遊びをしていたらしい。
本墓の石に乗ってしまった姉妹はお父さんやおじいちゃんおばあちゃんに叱られ、すっかりしょげてその日は床についた。
お父さんとお母さんの間に床を敷いてもらい、姉妹は真ん中に並んで眠った。
そして夢を見た。
いつの間にか何人もの知らないおじさん、おばさん、おじいさんおばあさんが枕元に座り、寝ている自分たちをのぞき込んでいる夢だった。
皆、怒っている様ではなかったが、何か困っている様な表情で姉妹を見つめていたという。
そして誰かが言った。
『駄目だよー。石の上に乗っちゃ』
『普通の石じゃないの。ね?』
『おじさんもおばさんもびっくりするでぇ』
そういった事を枕元に並んだ人たちに散々言われた。
それから姉の方が夢からはっと目を覚まし、布団の中から辺りをきょろきょろと見回していると、隣りで寝ている妹もやはり目を覚ましてこちらを見ており、妹が
「知らないおじちゃんたちが来てた」
というので二人で同じ夢を見ていたとわかり、改めて怖くなって騒ぎだして、それに従兄弟夫婦が気付いて起きたのが夜の明ける少し前だったという。
そして従兄弟が姉妹の枕元をふと見ると。
並んで敷かれた姉妹の布団の枕元の間に、山の赤土が…本墓のある場所と同じ土が
小さな円錐形に盛られて置かれていた。
寝る前にはもちろんそんな物は無かった。
姉妹たちが泣いて騒いでいると家人が起きて来て、事情を聞くやその赤土を塩で清めてから半紙に包み、身仕度も朝食もそこそこに供え物を持たせて従兄弟たちを本墓に謝らせに行かせたという。

村上さんが朝食を済ませて仏壇に祭られたおじいちゃんに挨拶に行くと、おばあちゃんがすでに仏前に座ってブツブツと何かを言いながら手を合わせていた。
おばあちゃんにとっては姉妹はひい孫にあたり、村上さんはあの子たちの事を謝ってるのかな、と思いながらおばあちゃんの隣りに座り、一緒に拝んだ。

従兄弟夫婦と姉妹は踏み付けてしまったそれぞれの本墓の前でよく謝り、住職にも事情を話してお経もあげてもらったという。
そのおかげか、後日姉妹には何事もなかったらしい。

村上さんは今でも時々、法事等でお母さんの実家に行く事がある。
墓参りの時に親戚の小さな子供たちがいると、
「あちこちの石を踏んじゃ駄目だよ。そこにはね…」
と注意している。
大人の中にも土地の者ではない人は、石の意味を知らない人が案外いて、子供と一緒に目を丸くしているという。





11:15, Saturday, Mar 15, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(23) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(3) ¦ 携帯

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■講評

文章 2
なかなか読ませる。
稀少度 1
ありそうな話だが。

私は両墓制やら民俗的なことに興味があるので面白かったが、前半部の説明は興味のない人には辛いかも。
「びっくりするでぇ」ってやんわりたしなめるところが、暖かくていい。
山の赤土が落ちていたというのはお約束だが、従兄弟の行動が不自然。慌てて駆け寄って我が子を叱りつけるくらいの人が、事前に石についての説明を妻にさえしないということがあり得るだろうか。惜しいなあ。

名前: くりちゃん ¦ 12:08, Saturday, Mar 15, 2008 ×


作品はちょっと長かったですが、面白く読めました。
赤土が盛られていたあたりは、ぞっとしますが、夢の感じが陰湿ではなくて、相手にあわせた優しい感じだったのが良かったです。

ただ、肝心の本墓周辺の描写があまりなかったのが、ちょっと残念でした。この話は、そこで悪さをした事が後で怪異の中心となっているので、やはり舞台となった場所の様子がもっと分かった方が良いのではないかと思います。

ラストで村上さんが石の注意をする所は、書いて良かったものかどうか微妙です。このエピソードと「大人の中にも土地の者ではない人は、石の意味を知らない人が案外いて、子供と一緒に目を丸くしているという」が続けて最後に書かれる事で、石の意味を知らない人が案外いるのだという事実を強調したかったのだと思いますが、そのように「知らない人が案外いるために発生した今回の怪異」の正当化をわざわざすることで、逆に信憑性が下がってしまうように感じました。

いっそのことラストの注意以降については、ない方がいいような気もします。起こった怪異だけを堂々と書かれたほうが良いと思いました。

文章と希少度あわせて1

名前: chidori ¦ 13:32, Saturday, Mar 15, 2008 ×


文章の長さに対して怪異が足りないような印象を受けた。
もっとずっしりとした展開になるかと題名からわくわくしながら読み始めてしまったのもせいもあるが・・
こういうことをきちんと伝える人がこれから減っていくんだろうなと、妙に切ない気持ちになった。

名前: 黒ムク ¦ 15:07, Saturday, Mar 15, 2008 ×


怪異は小ネタだが、その割に怪異の前後の描写が長すぎてだれる。説明は最低限にして、怪異に的を絞って書いた方がよかったのでは。

名前: ナルミ ¦ 20:56, Saturday, Mar 15, 2008 ×


文:+1 怪:+1

ときどき目のすべる部分もありましたが、
とても引き込まれる文章でした。

そして、読み終わり改めてタイトルを見て……笑えました。

びっくりしちゃうんだ(笑)

名前: 晴 ¦ 21:13, Saturday, Mar 15, 2008 ×


夢ネタかよ、と思いつつも赤土が残っていたので、怪異は成立しているという事と納得。
話としては興味深く読めたが、全般的に説明部分が長く感じられ整理されてない印象を受けた。
描写が丁寧と言われればそうなのだが、もう少し簡潔にまとめれば出来ない事もないように思う。
最後の子供を注意する部分はない方が納まりが良いように思う。

希少性(1) 文章(0)

名前: ねこや堂 ¦ 00:45, Sunday, Mar 16, 2008 ×


ネタ+2
子供のやることなので、霊たちも叱るの半分、からかい半分で出たんでしょうね。
赤土の証拠付きなのもいいです。
文章についてはテンポ良く読み進めることが出来ました。
文章量が多くなる場合、多少文節を区切って文字の洪水にならないようにするといいかもしれません。
(小説では文節を区切りすぎると薄くなりますが、実話怪談ではなぜか効果的です)

名前: ねこ ¦ 01:26, Sunday, Mar 16, 2008 ×


なかなかボリュームのあるお話でした。ただの夢ではなく山の赤土が残っていた所が希少性が高いですね。非常に詳しく説明されていて良かったのですが、読んでいてちょっとしんどい所もありました。
やっぱりご先祖様は大事にしないと…良い教訓話でした。

名前: じゅりんだ ¦ 20:44, Sunday, Mar 16, 2008 ×


「座棺」の説明など珍しい土葬をテーマにしたのは面白いと思いましたが、肝心の墓場の描写が不十分です。確かに足場の悪い斜面という描写がありますが、土葬した遺体を埋めた場所は平地でしたか?それとも坂道の途中にゴロゴロと目印の石が置いてありましたか?
 そして石の具体的な大きさは?漬物石くらいでしたか?それともレンガ?
 私の知っている土葬があった場所は、ブロックで埋めた場所を囲んでありましたが。
 説明が長いのに疑問が残る内容です。厳しいようですが二点減点します。

名前: くすだまん ¦ 18:09, Friday, Mar 21, 2008 ×


文章・・・1
希少度・・・0

文章は最初0点にしようかとも思ったのですが、改めて読み返してみて、最初の長い説明があるからこそ、夢に出てくる人たちの重みというのも伝わると判断しました。
とはいえ、その文章が完璧かと言われるとそうでもなく、一文の長さがまちまちで、えらく長い文章があったかと思えば、短く区切ってあるものもあり、その使い分けにあまり意図が感じられませんでした。
そのため読み辛く、話に没頭することが出来ませんでしたので、1点とさせてもらいました。
希少度に関しては、墓石を踏んで死者に叱られる話は昔からよくありますので、0点としました。

名前: 鹿太郎 ¦ 02:49, Saturday, Mar 29, 2008 ×


「何か困っているような表情で」というのが温かみがあって良かったです。お墓で眠っていた皆様、ほんと困ったんだろうなあ。 +1

怖いというよりはほのぼのとした内容だったので、読み終えてから、固い文章での説明が長かったなーと感じました。
かなり恐ろしいことが起こる前フリのようで、過剰に期待してしまいました^^;

名前: 眠 ¦ 00:08, Monday, Mar 31, 2008 ×


罰当たりな事をしてしまいましたね。
でも子供にはそれが悪い事だとは分からないんですよね。
それ故か、それ程恐ろしいお仕置きをしなかった霊に優しさを感じます。
ほのぼのした感じのいいお話でした。

名前: へみ ¦ 23:51, Monday, Mar 31, 2008 ×


ウチのじーさまも土葬でした。ので、情景は多分、似てるんだろうな…。
「びっくりするでぇ」が、見事に困った感と暖かみを表していますよね。
日本語ってスバラシイなぁ…としみじみしちゃいました。

名前: ちゅん ¦ 22:47, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


石墓のほうに魂は行ってないのかな?
本墓のほうも大事にしろということかとも思いましたが、あれって座棺が腐っていると陥没して危ないので、その警告に来たともとれますね。
後者の意味合いもありそうで、やさしい幽霊だなと思いました。
希少度 1 文章 0

名前: じぇいむ ¦ 11:21, Wednesday, Apr 02, 2008 ×


田舎の墓地内の石をやたらに踏んではダメということ、勉強になりました。踏まないまでも腰掛けぐらいにはしそうでしたから。

名前: ひ ¦ 14:47, Thursday, Apr 03, 2008 ×


民話怪談的にもまとまっていて
良かったと思います。
今後土葬がなくなっても、子供達
には躾的な部分として語り継いで
いってほしいですね。

名前: 茶毛 ¦ 15:19, Thursday, Apr 03, 2008 ×


ちょっと長文でしたが、楽しませていただきました。
やっぱり、怒るにしても幼い子にはやさしいんですね。
これ、大人がやったら、すごい怒られ方になるんだろうなぁ…。

文章:1 内容:1

名前: PM ¦ 20:48, Saturday, Apr 12, 2008 ×


お墓についての説明は興味のある人には面白いかもしれないが、そうでない人にはただ長いだけで読んでいていやになってくるかも。
体験者の姉妹は怖かっただろうが、枕元にずらっといろんな人が座って"困っちゃうよ"と言われるのは…何だか笑ってしまいますね。

名前: MM88 ¦ 18:46, Tuesday, Apr 15, 2008 ×


非常に詳しく書かれているのですが、ネタの割には文章が長く感じました。
もう少し簡潔にまとめてもよかったかと思います。

名前: SPダイスケ ¦ 22:23, Tuesday, Apr 15, 2008 ×


稀少性+1
土葬に関しての情報、興味深く読ませて頂きました。
ただ、怪異の描写が随分とあっさりしていて、物足りなさがあるのが残念です。

名前: 有線 ¦ 13:28, Saturday, Apr 19, 2008 ×


困った顔で子供を諭すご先祖さまが目に浮びますね。ほのぼのとした良い話で、土葬の方法など個人的に興味深い話でした。

名前: 久遠 平太郎 ¦ 21:08, Thursday, Apr 24, 2008 ×


 怪異にたどり着くまでが長すぎる気がします。
 おばあちゃんが仏前で手を合わせていた辺りも要らないかもしれません。
 ですが、ただの夢オチで終わらないところがよかったですし、困った表情で諭す方々がほのぼのと感じられました。

名前: こうたろう ¦ 18:19, Friday, Apr 25, 2008 ×


やさしいご先祖様たちですね。
土葬なので踏み抜いても危ないですしね。
良い教訓話です。

名前: 昼間寝子 ¦ 10:40, Tuesday, Apr 29, 2008 ×



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