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昭和二十年、母の疎開先だった佐賀県の白石という場所に、沢木(仮名)さんという人がいた。 御子息は海軍の仕官だったらしいが、太平洋戦争末期、神風特攻隊に所属して、終戦間際だというのに帰らぬ人になっている。 母一人子一人、早くに御主人を病気で亡くしたらしい。 沢木さんにとって家族は、一人息子だけ、さぞや苦しい毎日であったに違いない。 しかし、その頃の日本では子供の帰還を願ってはいけないような空気があったという。 戦死者の家族が近所にいるのだ。良いも悪くも現代ほど隣近所の関係が希薄ではない時代である。 だからなるべく外では安否を気遣う話はせず、出征した肉親がいる者は家の中で、安全を願い一心に仏壇や神棚に祈っていたらしい。 四月か五月頃、よく晴れた日に一機の戦闘機が飛んで来て、沢木さんの家の上空を旋回したらしい。 時間は昼の三時。 「あ!飛行機!」 ちょうど庭で草むしりをしていた母は、翼にあった日の丸で、味方だと判断した。 その時、家の中で掃除をしていた沢木さんは、突然、御子息の名を叫ぶと庭を裸足で駆け出して、空に向かって手を振った。 それに答えるように、戦闘機は左右の翼を上下に手を振るようにして飛び去っていったという。
この話を聞いた時、特攻する前に、生まれ故郷の風景を眺める気だったのでは?と思ったが、それでは幾つかの疑問が残る。 そもそも特攻機の燃料は片道切符。敵地に到着するぎりぎりの燃料しか積んでいない。これは二つ理由があり、怖気ついた操縦士が本土へ戻れないようする非情な処置と、もう一つは死んでいく者に、貴重な燃料を余分に積ませないという現実的な理由もあったらしい。つまり編隊から離れて勝手な真似をすれば非国民になり、遺族が苦しむ事になるのである。 そんな汚名を承知で行くだろうか?途中で燃料切れになり、敵艦まで行き着く前に墜落する恐れだってあるのだ。
なら、これはどういう事だろう?
その夜、沢木さんは目をつぶり、祈るようにして御子息の写真を卓袱台に置き、穴のあいた銅貨を糸を通して写真の上にぶら下げた。
生きていれば銅貨は左右に振れるか回るだけ。 だが死んでいれば前後にしか振らない。
その名称は不明である。 そんな占いというか風習のようなモノが、その土地ではあったそうだ。 銅貨は前後に振れていた。 何度やっても前後にしか銅貨は動かなかったという。 それから数日後、一人息子の戦死の知らせを受けた沢木さんは、寝込む事が多くなり、終戦後の翌年くらいに亡くなってしまった。
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■講評
文章 1 冷静に書かれています。 稀少度 1 戦争の話は、重い。
描き方が、怪談というよりも「現代民話・先の大戦編」の印象が強い。 特攻機が上空で旋回する様を見て「突然、御子息の名を叫ぶと」という記述を見ると、やはりなぜそう判断できたのか、という疑問から怪談風の解釈をしたくなるが、出撃地や飛行していた時間を分析してみないと、本当のところは分からない。 が、そこまでは追求したくない。日本人の悲しい思い出として語り継ぎたい。
ところで、仕官→士官では? |
名前: くりちゃん ¦ 08:45, Friday, Mar 07, 2008 ×
士官が仕官になっています。一点減点します。 欲を言えばこっくりさんらしき占いの呼称が何なのか取材して欲しかった。 しかし大戦経験者を知る人が少なくなっている現在、調査が困難なのを考慮して減点にはしません。 |
名前: くすだまん ¦ 09:57, Friday, Mar 07, 2008 ×
貴重でいい話だと思いました。 それだけに文章を整理する必要があると感じました。
文章水準はかなり高いことがうかがえるのですが、差し出す情報をもう少し選ばれた方がよいと思います。 この話は沢木さんを中心とした話であり、そこへ「佐賀県の白石という場所」が書かれているのはいいとしても、「母の疎開先」という語り手個人の情報は不要です。 読み手がすらすら読める事を第一に考え、読む側に要らない情報は、たとえ個人にとって思い入れがある事でも書かない方がいいと思います。
また、「なら、これはどういう事だろう?」以降の銅貨の話については、せっかくの飛行機のインパクトが途端に小さな物になってしまうので、実際にやったとしてもこのエピソードは削った方がいいのではないかという気がします。
事実関係を順序立てて、はっきりさせるのはいいと思うのですが、やはり作品の見せ場がどこかを見極めた上で構成を立てられた方がよいと思いました。
文章については、本来なら水準以上ではあるのですが、構成などの事もあり、評価としては申し訳ないですが高くできません。もともといい文章を書かれるのですから、それを活かしきれるよう、他の面にも気配りいただければと思います。
文章−1:希少度2 |
名前: chidori ¦ 11:18, Friday, Mar 07, 2008 ×
特攻機が片道燃料、というのはデマです。 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%89%B9%E5%88%A5%E6%94%BB%E6%92%83%E9%9A%8A の「燃料・整備」の項を御参照下さい。 |
名前: 特攻機 ¦ 12:49, Friday, Mar 07, 2008 ×
名前: 黒ムク ¦ 12:55, Friday, Mar 07, 2008 ×
文:+2 怖:+2
ご子息の魂が飛行機ごと母の元にやってきた。 という事なのでしょうか。 怪異としてみるか、たまたま別の零戦がバンクを 振ってくれたとみるか。 色々と考えると、ツッコミどころはたくさんあるのですが、 私はそれはご子息だったのだと信じたいです。 |
名前: 晴 ¦ 12:58, Friday, Mar 07, 2008 ×
同じような内容の話を聞いた事がある。 私が聞いたのは生存者の話だったけど。 多分、似たような話はあったのだと思う。 良い話だけど、怪異ではない可能性もあるので。
希少性・文章(0) |
名前: ねこや堂 ¦ 22:54, Friday, Mar 07, 2008 ×
戦時中の、しかも民間人でなく軍の話を書くのは難しい。左右様々な思想の人や軍ヲタからいろいろとツッコミが入ることを想定して、単に「体験者の話」を書くだけでなく、裏付けの調査が必要だろう。 この話の場合、「特攻機の燃料は片道切符」がたとえ事実だとしても、その飛行機が怪異であることの根拠として挙げたのはいささか勇み足だと思う。当時の海軍基地と言えば、まず長崎や佐世保が思い浮かぶ。ともに佐賀県の白石までは数十キロの距離である。かたや、特攻機が標的とした敵艦隊は千キロ近い彼方の海上にある。数十キロ分の余分の燃料さえない、としたなら、敵艦隊の移動や敵機からの回避、あるいはちょっと向かい風が吹いただけでも敵艦隊までたどり着けなくなってしまう。燃料が貴重なのは当たり前。だとすれば、敵機にたどり着く前に燃料切れで墜落するようなことは、最も燃料を無駄にする行為ではないか。そもそも特攻の本番時に寄ったと考える必要はなく、訓練飛行中だと考えれば不思議ではなくなる。 いい話だとは思うが、怪異だと言うには、もっと説得力のある根拠が必要だろう。 |
名前: ナルミ ¦ 23:22, Friday, Mar 07, 2008 ×
う〜ん、色々あるようですが…。 悲しい、切ない話に水をさすのはやめて、素直に受け止めたい気持ちになりますね。 戦争の悲しさはやはり体験した方でないと分からない悲しさを感じるので。 切ない話です。 |
名前: ちゅん ¦ 13:11, Saturday, Mar 08, 2008 ×
| 怖いというより、母のわが子を思うせつなさの方が伝わってきました。あの当時の日本はそのようなお気持ちの方が多かったのでしょう。銅貨占いのエピソードは不思議さをアップするために必要かと思われたかもしれませんが、なくても良かったように思いました。いいお話だとは思います。 |
名前: じゅりんだ ¦ 18:30, Saturday, Mar 08, 2008 ×
飛行機にご子息が乗っていたという根拠が生憎無いようなので、飛行機は怪異とはどうも思えない。 また、硬貨だがこれは「シェブレルの振り子」といって、母親のイメージが共振を生み硬貨を動かしているのではないかと思えてしまう。 貴重なお話なのですが、これは怪談にせずそのまま記録された方がいいと思います。
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名前: じぇいむ ¦ 00:58, Monday, Mar 10, 2008 ×
| 息子さんの戦闘機とは限らず、硬貨の振り子で生死を占う方法もお母様の手が震えていたのでは? と思い、怪談かどうかは少々微妙なところです。ですが、お母様も後を追うように亡くなったとのこと、哀しいお話です。 |
名前: ひ ¦ 17:54, Monday, Mar 10, 2008 ×
ネタ+1 文章-1 個人的な主観ですが、「この話を聞いた時―」から文末までは余計に感じました。 また、冒頭で沢木さんのご子息がすでに亡くなられていることを書いてしまったのは、致命的なミスです。 「安否」と題名をつけるからには、その結果は文末まで明かすべきではないです。 |
名前: ねこ ¦ 02:08, Tuesday, Mar 11, 2008 ×
過去の、それも何十年も前の話を書くのは色々な意味で難しいと思います。 しかし燃料の話で、片道切符。ぎりぎりの燃料しか積んでいない。と「断言」したのはちょっとまずかったのではないでしょうか。 戦争の話となると、人それぞれ様々な思い入れや思考があると思います。 ほぼ確実に命を落とすであろう特攻機に乗った、乗らざるを得なかった人に対して、間違った情報を「断言」をするというのは酷いと思われる方もいるのでは? |
名前: へみ ¦ 01:43, Friday, Mar 21, 2008 ×
怪談としての文章・・・0 怪談としての希少度・・・0
神風特攻隊の燃料云々については知りませんし、上を舞った飛行機の真相については解りません。 私はそれよりも、子を思う母の姿と当時の日本という国が取った政策や社会の風潮に関する話として考えさせられるものがあると感じました。 それだけにこれは(銅貨に糸を通して振る風習も含めて)怪談ではないと判断します。 ここに載せるのはお門違いというものです。そのため1点減らします。
非常に貴重で重みのある話です。こういう話を採取出来たのなら、他に掲載するに相応しい場所があるはず。 この話をもっと大切にして、後々まで語り継いで頂きたいと思います。 |
名前: 鹿太郎 ¦ 18:04, Tuesday, Mar 25, 2008 ×
直感で庭へ飛び出した沢木さんと、それに応えるような動きを見せた飛行機。 「(生死はともかくとして)息子さんが会いにきたんだ!」と思っていたら。 >この話を聞いた時、〜どういう事だろう? …の部分は、「こういった理由なので実機はありえない」ということを言いたいんだというのは解るのですが、盛り上がっていた気持ちが冷めてしまいました。 この部分を省いて、沢木さんが占いにもすがる気持ちを見せられると相当切ないお話です。
重い題材ながらも巧みな文章でサクサクと読めて、後から色々考えさせられました。 前述の理由があって点数は低めです、ごめんなさい。 |
名前: 眠 ¦ 22:30, Tuesday, Mar 25, 2008 ×
これは怪談ではないです。 こういうお話は別の発表の場で 後世に語り継いでいく物だと 思います。 特攻隊の片道燃料だけは違う風に 書いていただきたい(色々と勉強が 必要だと思います) |
名前: 茶毛 ¦ 12:24, Wednesday, Apr 02, 2008 ×
冒頭の戦死者うんぬんのくだりが、話の流れをおかしくしているように感じる。 戦闘機に対する筆者の解釈は蛇足だったように思う。 |
名前: 磯昆布 ¦ 00:44, Monday, Apr 07, 2008 ×
特攻機って、出発してから到着するまでに故郷上空を飛んだ人もいたんじゃないですっけ…? テレビのドキュメンタリーで言ってたような…。 ちょっとそのイメージがあったので、特に違和感はありませんでした。 私個人の先入観がありますが…。スミマセン。
文章:0 内容:0
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名前: PM ¦ 21:07, Wednesday, Apr 09, 2008 ×
(仮名)という表記はいらないと思います。
怪異が無い様な。 でもそのお母さんは、ご自分の見た飛行機を息子さんの飛行機だと思いたかったんだろうな。
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名前: MM88 ¦ 11:58, Thursday, Apr 10, 2008 ×
| 悲しいお話だとは思いますが 怪異としては弱いと思います。 |
名前: SPダイスケ ¦ 22:43, Friday, Apr 11, 2008 ×
好み+1 >この話を聞いたとき…… の件は無かった方が雰囲気を生かせたと思います。 重さはありますが、怪異としては弱いかと。 |
名前: 有線 ¦ 00:45, Thursday, Apr 17, 2008 ×
特攻隊員の子を想う母の気持ちは尊いものですが、これを実話怪談とするにはやはり抵抗があります。 戦争の記録として語り継いでいくものだと思います。 |
名前: 久遠 平太郎 ¦ 20:30, Sunday, Apr 20, 2008 ×
戦闘機が息子さんのメッセージだったと決め付けるのは疑問。 ですが、話の後半がとても悲しかった。 |
名前: こうたろう ¦ 21:55, Wednesday, Apr 23, 2008 ×
かなしい話ですね。 飛行機が翼を上下に振るというのは飛行機の構造上あり得ないので、やはり怪異でしょう。 息子さん以外のだれがその様なことをするのでしょう。 時代的に、訓練飛行で自分の実家に行くなどまず無理。訓練で一機のみというのも不自然です。 片道分の燃料は事実と違うというのはそうかも知れないが、昔自衛隊にいた経験上、そのようなことはいちいち末端まで伝わらないのが常。民間は勿論、特攻隊員も知らなかった場合があっても不自然ではないし、特攻時の爆発力を増すためだったという話もあるくらいです。 震災などの災害時もそうですが、戦時中は特に、いろいろ不可思議な事があったのだろうと思います。
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名前: 昼間寝子 ¦ 02:00, Tuesday, Apr 29, 2008 ×
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