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実験
 墓地、自殺の名所、死亡事故多発地点。尾形さんはそういった場所で、いわゆる「死者の声」が聞こえてしまう。思春期を過ぎた頃から始まり、そろそろ十年になる。
「あたしは聞きたくもないのに、勝手に飛び込んでくる。耳塞いだって聞こえるし、マジ迷惑」
 どんな声が聞こえるの? と問うと、眉間の皺がますます深くなった。
「はっきりとは聞こえないんだけど、恨みっぽいのがほとんど。あとは、もっと生きたかった……みたいな未練ぽいやつ」
 見ず知らずの者たちの恨み節を毎日聞かされるのだからたまらない。お守りを持ち歩いたり、お祓いを受けたり、見聞きした方法を試してみたがどれも効果がなかった。
 ここ一、二年で特に頻度が増したという。嫌気が頂点に達し、どうにかならないものかとパソコンで掲示板などを渡り歩いているうちに、何となく開いたホームページのコンテンツが目に留まった。
『霊魂を呼び寄せる方法』
 好き好んで霊に会おうとする人もいるんだ……ふーん。読み進めていくうちに閃いた。
「この方法の逆をいけば、聞こえなくなるんじゃないの? って」

 翌日の晩。仕事を終えた尾形さんは、通りかかるたびに声が聞こえる場所へ一人で出向いた。そこは見通しの悪い交差点で、一時停止を怠った自動車による衝突事故が絶えず、最近ようやく信号が設置されたのだという。
 歩道に立ち、ホームページに記されていた方法を一つ一つ思い出す。
『自分が味方であることをアピールしましょう』
 あたしは味方じゃないの。だから寄ってこないで。
『その場に宿っているであろう霊魂に、慈しみの念を捧げましょう』
 可哀想だなんて思わない、ここで事故に遭う運命だったんでしょ。
『そして、その思いを声に出して伝えましょう』
 うーん、なんて言おうかな?
「もう諦めて、みんなで天国へ行っちゃってください!」
 ガードレールに向かって最上の笑顔でそう告げた。これだけやっておけば大丈夫だろう。
 清々しい気分でその場を後にしようとすると、足首から下がアスファルトに埋まっているかのごとく一歩も前に進めなくなった。足首から膝、腿、腰へと生温かい空気が這い上がり全身を覆い尽くすと、まずは男性の声が耳に流れ込んできた。
「痛い……足が痛い」
 それと同時に、左足に燃えるような刺激が走る。続けて、啜り泣く男の子の声が聞こえてきた。
「見えないよ見えないよ怖い」
 視界が霞んだ。
「お願い、赤ちゃんだけは助けて」
 女性の悲痛な叫び声と共に下腹部がしくしくと疼きだし、やがて痛みが爆発した。
 身体がバラバラになってしまうんじゃないか。このまま死んでしまうんじゃないか。こんな所で死にたくない。
 涙が溢れ出した。恐怖よりも悲しみや申し訳なさの方が強かった。
 声にならない声でごめんなさいと何度も繰り返していると、身体を纏っていた重い空気が徐々に薄れ、痛みが和らいでいった。数十分経ったように思えたが、動けなくなる直前に「うるさいな」と感じた派手なスポーツカーがまだ信号待ちをしていて、低いアイドリング音を響かせていた。
「声が聞こえなくなっても、ただもう悲しくて。しばらくそこで大泣きしてた」
 通行人の目も気にせずひとしきり泣いたあと、ガードレールに向かって一礼してからその場を去ったという。

「次の日からそこでは聞こえなくなったけど、なんかスッキリしないんだよね。他の場所で聞こえても、もう二度と声はかけない」
 聞こえるだけならマシだと思うことにした、と、尾形さんは複雑な笑顔を浮かべた。





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■講評

『霊魂を呼び寄せる方法』がけっこう安易かも。
他にはない方法くらい強烈な方法を想像していたので少しがっかりした。
聞こえてくる「死者の声」も実験によって起こった怪異もそれほど希少性があるとは思えなかった。
聞こえることや、それによってどれだけ迷惑しているかなど、体験者によって十人十色だと思う。
そこを書いて欲しかった。
厳しくてごめんなさい。

名前: 黒ムク ¦ 11:33, Monday, Mar 03, 2008 ×


文章 1
読みやすい。
稀少度 2
怖い実験でしたね。

やはり死者に対する畏敬の念は大切にしなくではならない、ということでしょうか。
ただHPに記されているような安直な方法の裏返しのようなやり方でなければ、上手くいったかも知れないとも思う。

名前: くりちゃん ¦ 13:17, Monday, Mar 03, 2008 ×


文:0 怖:+2

なんて実験をしてるのですか。
一応その場所に関しては成功ということですよね。
でも、確かにひとつひとつ潰していく気にはとてもなれない。
追体験は嫌です。

名前: 晴 ¦ 13:22, Monday, Mar 03, 2008 ×


「生兵法は大けがのもと」ですね。聞こえなくなった場所ですが、気配もなくなったのでしょうか。もしかして思いっきり憑依させれば成仏してくれる? 身が持ちませんが。

名前: ひ ¦ 13:23, Monday, Mar 03, 2008 ×


『墓地、自殺の名所、死亡事故多発地点。尾形さんはそういった場所で、いわゆる「死者の声」が聞こえてしまう。思春期を過ぎた頃から始まり、そろそろ十年になる。』
「見ず知らずの者たちの恨み節を毎日聞かされるのだからたまらない。」

尾形さんの周辺はそういう恐ろしい場所のオンパレードで、毎日恨み節を聞かされるのでしょうか?だとしたらかなりすごい場所に住んでいることになるような気がするのですが・・・。
実験内容の怪異よりもそちらが気になりました。


怪異に関して言えば、尾形さんはいろいろな方法をやりつくして、それなりに情報も得ている筈であるのに、たまたまネットで調べた方法を安易に信じて実行するのが、少し不自然であるかなという感じがしました。
そこへ至るまでの心境などがもっと書かれていた方が良かったかと思います。

書き方によって後半の怖さは十分に出ていましたが「痛みが爆発した」は分かるようで分かりにくい表現なので、これは改めたほうがいいと思います。

文章0:希少度1

名前: chidori ¦ 15:07, Monday, Mar 03, 2008 ×


 文章に問題なし。
 しかし、普通は知っていてもやらないぞ!そんな実験。
 それに、そんな本は、ほぼ100%インチキだ!
 

名前: くすだまん ¦ 19:22, Monday, Mar 03, 2008 ×


そういう怪しげなホームページはいくらでもあるが、書いてあることは千差万別、「霊を呼び寄せる方法」にしても全く逆のことが書いてあったりするので、信用しない方がいいだろう。
起きる怪異は怖いけどありがちだと思った。

名前: ナルミ ¦ 01:31, Tuesday, Mar 04, 2008 ×


よくある生兵法は怪我の元怪談ですが、
ネットで見つけた霊を呼ぶ方法の逆を実践したら
酷い目にあったというのが現代らしい話です。
点数はこのくらいで。

名前: 撃墜王の孤独 ¦ 11:42, Tuesday, Mar 04, 2008 ×


読んでいて凄く面白かったです。そういう方法もあるのかと…。体験者さんには気の毒ですが、霊が集まってく様子がリアルで怖く、面白かったです。事故で亡くなった方というのは、なかなか成仏できないものなんでしょうかね。

名前: じゅりんだ ¦ 13:31, Tuesday, Mar 04, 2008 ×


「聞こえる人」の話ですね。
安易なことをやって酷い目に会う話はよくあるのに文章で引っ張られました。
希少度 0 文章 2

名前: じぇいむ ¦ 18:53, Tuesday, Mar 04, 2008 ×


いやいや、何ちう怖い事を。汗
その程度で済んで良かった。
文章は読み易かった。

希少性(0) 文章(1)

名前: ねこや堂 ¦ 21:56, Tuesday, Mar 04, 2008 ×


この実験は面白いですね。
読んでいるこちらは面白いのですが、本人にしてみれば苦肉の策だったのでしょうね。
しかもこの結果・・・。
霊の存在を感じても、知らない振りをするのがいいという事が、改めて分かりました。

名前: へみ ¦ 08:32, Wednesday, Mar 05, 2008 ×


文章2 怖さ1

 『霊魂を呼び寄せる方法』の逆は?と考えても、実際にやるとは・・・私なら絶対に止めます。
 

名前: hitomi ¦ 22:27, Friday, Mar 07, 2008 ×


ネタ+2
降霊の逆って・・・どう考えても啖呵切ってるとしか・・・。
よく助かったなあ、としか言いようがないです。
一番いいのは「知らん振り」らしいです。ええ。

名前: ねこ ¦ 23:51, Monday, Mar 10, 2008 ×


文章・・・1
希少度・・・0

実験のアイデアとしては面白いと思いました。
ただ話としては単に鋭い人が霊を知覚したってだけなのではないでしょうか?
文章はその場で体験者が感じた焦りや驚きなどをうまく表現しています。

名前: 鹿太郎 ¦ 03:03, Thursday, Mar 13, 2008 ×


追体験の苦痛を受ける覚悟さえ決めれば、立派な除霊師さんになれそうなのに。 +1

>ここ一、二年で特に頻度が増したという。
これについては心当たりがないのかなど、つっこんでほしかったです。 -1

名前: 眠 ¦ 00:31, Friday, Mar 14, 2008 ×


勇気に乾杯!
でもそんなことしたら、そうなるのは
当然と思われるが。

名前: 茶毛 ¦ 00:29, Wednesday, Apr 02, 2008 ×


一読して、「塩を入れすぎたから砂糖で中和しちゃえ」と言って本当に実行した料理下手の友人を思い出した。
好意にせよ敵意にせよ、接することに変わりはないだろうに……。
傍観者からすれば、実行に移すことで簡単に障ってしまう霊媒体質は、話の宝庫として非常にうらやましいことである。何度トライしても一向に遭遇できない人間もいるというのに。

名前: 磯昆布 ¦ 22:45, Thursday, Apr 03, 2008 ×


これは面白かったと思います。
逆実験ですか…
やはり敵である事をアピールしたら危険なのでしょう。
よくやりましたねぇ。ホント。
いや、尾形さん、無事でなによりでした。

文章:2 内容:1

名前: PM ¦ 20:45, Tuesday, Apr 08, 2008 ×


あんまり関心できない事をやっちゃったってカンジですね。
頻繁に霊の声が聞こえる人が ネットで見た その方法の逆で効き目があると思うか?・・・が疑問です。
見える者としては そういう発想には絶対行かないんですがね・・

名前: SPダイスケ ¦ 22:31, Wednesday, Apr 09, 2008 ×


恐怖+1 好み+1
『いやいや、逆ってたぶんそうじゃないから!』
と、ハリセンより一斗缶で突っ込みたくなりました。
ネットの情報を安易に信じるのは、まずいのですが余程切羽詰まっていたのでしょうか。

名前: 有線 ¦ 03:42, Friday, Apr 11, 2008 ×


うーん。
かえって呼び込んでしまった、のでしょうか。
見える/わかる人は、何をしても見える/わかってしまうんですね。

名前: MM88 ¦ 22:26, Saturday, Apr 12, 2008 ×


霊感がないので何とも言えませんが、意識を向けたことでより強く波長が合ってしまったのでしょう。
本人してみればナイスアイデア! だったのかも知れませんが、傍から見るとオイオイと言いたくなる様な話でした。

名前: 久遠 平太郎 ¦ 23:06, Friday, Apr 18, 2008 ×


 その時はかなりまいっていたんでしょうね。
 ですけれど、見ているこっちがはらはらする展開でしたよ。

名前: こうたろう ¦ 19:10, Wednesday, Apr 23, 2008 ×


ウッカリおっ、ナイスアイデア! と思ってしまったのですが、方法を試していくうちに、あっ、やばい、やばいって! と、まんまと書き手の思うつぼにはまってしまいました。
つらい体験だったでしょうが、お陰で尾形さんも霊に対する畏敬の念というか、ただ怖いだけの存在ではないという事がわかったのではないでしょうか。

名前: 昼間寝子 ¦ 15:53, Sunday, Apr 27, 2008 ×



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