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主婦の岩道さんは近所に住む柳さんと大層仲が良かった。 昼下がり、空いた時間があるとお互いの家を行き来するのもしょっちゅうだ。 柳さんは岩道さんよりも少し年上で、先年ご主人を亡くし、一人息子も既に独立して家を出たので、今は一人暮らしだった。
その日も岩道さんは午前中いっぱいで家事を済ませた後、柳さんのお宅に顔を出した。 いつものように日当たりの良い二階の部屋に通され、そこでお茶を飲みながら談笑する。ホッとする午後の一時だ。 ところが、いつ頃から鳴き始めたのだろう、どうも犬の声がうるさく、二人は会話に身が入らなかった。 近所に犬を飼っている家はないはずである。最近飼い始めたのだろうか。 すぐ近くで鳴いているようだ。 小型犬特有の甲高いそれには、何か心騒がされるものがあった。
しばらく犬の声についてああだこうだ言っているうちに、岩道さんはある事に気が付いた。 「なんだか近すぎない?家の中で鳴いてるみたい」 「言われてみれば確かにそうね。一階から聞こえるような気がするわ」
二人は階段の上から階下を伺った。 確かに家の中で鳴いているようだ。 どこからか野良犬でも入ってきているのかもしれない。。 玄関の扉はさっき確実に閉めたはずだし、裏口も今日は開けた覚えはないのだが。 いずれにせよ、このまま放っておくわけにもいかない。 柳さんは物干しにあった布団叩きを手に取ると、恐る恐る階段を下りて、一階に向かった。岩道さんも従う。 ところが、二人が階段を半ばまで下りたところで鳴き声はぱたりと止んだ。
一階に下りた二人は犬の隠れそうな場所をくまなく探した。 居間、台所、風呂場、テレビの後ろや食卓の下なども見た。 しかしどこを探しても犬の居た形跡すらない。 ただ一点だけ、妙なモノがあった。玄関を上がったところに小さなぬいぐるみが一個転がっていたのである。 それは柳さんの息子さんが幼い頃いちばん可愛がっていた犬のぬいぐるみだった。他の玩具と一緒に物置のどこかに仕舞われて、何年も見ていない物だ。
玄関の引き戸を見るとほんの少し開いている。 柳さんはそっと引き戸を開け、顔を外に出した。 そしてあっと声を上げた。 玄関を一歩出た位置に、薄汚い板が置かれていた。その板からは何十本もの釘が突き出している。 もし何も知らずに足を踏み出していたら確実にケガをしていただろう。 柳さんには誰かから恨まれるような覚えはないが、悪戯にしては質が悪い。 とにかく鳴き声のお陰で何事もなく済んだのは間違いなかった。
「この子が知らせてくれたのね」 柳さんと岩道さんは犬のぬいぐるみを抱き上げ、何度も頭を撫でるのだった。
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■講評
文章 1 読みやすいです。 稀少度 1 「付喪神」系統ですか。
ものに霊が宿るというのはあり得ると思う。大事にされた道具が恩返しするというのも信じる。ほのぼのする。 鳴き声で教えてくれるんだったら、ついでに犯人にもかみついてやればよかったですね。 |
名前: くりちゃん ¦ 10:12, Thursday, Feb 28, 2008 ×
| 可愛がられたことへの恩返しなのでしょうか。良い話です。が、子供だましで悪辣な罠をこれ見よがしに仕掛ける者がいるなんて。生きてる人間のほうが怖いとつくづく思いました。 |
名前: ひ ¦ 11:01, Thursday, Feb 28, 2008 ×
怪異よりも生きている人間が怖いという話か? しかし恨まれてもいない人間の家の玄関に、釘が何本も突き出た板が放置してあるとは・・・。 さらに掘り進んだほうがよいネタですね。 その後、そんな嫌がらせを受けてないかが、凄く気になります。 怪異である可能性も、ほんの僅かですが残っているので、取材をすべき範囲を捨てているような気がするのですが・・・。もっと貪欲なチャレンジを期待するという意味を込めて!厳しいようですが一点減点します!
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名前: くすだまん ¦ 11:30, Thursday, Feb 28, 2008 ×
文:0 怖:+2
文章が少々冗長というか、いらない部分もあると思いますが、 素材で勝負な話しですね。 とても心洗われます。 その子、ぜひ大切にしてやって欲しいと思います。 |
名前: 晴 ¦ 12:28, Thursday, Feb 28, 2008 ×
玄関に釘が突き出した板があったというオチが 不思議な話を超える怖さがありました。 付喪神が宿った古物が主人を助けるという民話調の話に 何かおかしな人間が突然危害を加えようとするという 東京伝説系の話が合体したような感じでしょうか。
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名前: 撃墜王の孤独 ¦ 12:36, Thursday, Feb 28, 2008 ×
この話は、ぱっと見、いい話に見えるのですが、よく読むと出てくる物が玄関まわりに集中しています。 そして終盤には見てくれといわんばかりに「玄関の引き戸を見るとほんの少し開いている。」になっています。
犬に救われハッピーエンドと思いたいのですが・・・。 犬の鳴き声が聞こえ、釘だらけの板や片付けていた犬のぬいぐるみが玄関周辺に転がっているのは、柳さんの主観からみれば実に順序よい完全なオチがついて「いい話」なのですが、客観的にこれらの現象を見ると何だか薄気味悪さも感じてしまいました。
文章0:希少度+1 |
名前: chidori ¦ 16:35, Thursday, Feb 28, 2008 ×
一見いい話に見えて、実はかなり恐ろしい、という「遅効性の怪談」。この後の展開があれば是非知りたいところである。 背後にいるのが生きている人間なのか霊の類なのか、判然としないところも怖い。 |
名前: ナルミ ¦ 00:45, Friday, Feb 29, 2008 ×
破綻無くすいすい読めました。 怪異は鳴き声だけなのですが、背後に厭なものを感じさせる効果がよく出ていると思います。 希少度 1 文章 1
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名前: じぇいむ ¦ 14:02, Friday, Feb 29, 2008 ×
作者様の解釈通りなら、心温まるいいお話ですね。 しかし恨まれる覚えのない方の玄関先に釘が何十本も突き出した板があるとは・・・。 最後、板を発見した時に、野太い男の声でぬいぐるみが「ちっ惜しかった」とか言って欲しいと感じてしまいました・・・。 不謹慎ですいません。
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名前: へみ ¦ 00:25, Saturday, Mar 01, 2008 ×
文章の長さはさほど気にならなかった。 整合性もあるし、これはこれで良いんじゃないかなぁ。
希少性(1) 文章(1) |
名前: ねこや堂 ¦ 00:33, Sunday, Mar 02, 2008 ×
玄関先に置かれていた釘が突き出た板を置いたのは誰の仕業か? こっちの方が薄気味悪くて気になります。捻くれた解釈をする私としては、その板を早く踏ませようとして、呼んでいたのではないかと思うのですが…。不可思議な現象と東京伝説がミックスした面白いお話だと思います。 |
名前: じゅりんだ ¦ 14:49, Monday, Mar 03, 2008 ×
文章・・・1 希少度・・・2
「ぬいぐるみの恩返し」というのが珍しく、面白いと感じました。 それに何の前触れもなく玄関先に置かれた釘板の薄気味悪さ。 昔話風心温まる話と、病んだ現代を描くサイコ話が組み合わさったようで、そのミスマッチぶりが絶妙だと思いました。 |
名前: 鹿太郎 ¦ 12:41, Monday, Mar 10, 2008 ×
ネタ+1 東京伝説的に+1 怪異よりも、板を仕掛けた人物の心の薄暗さに寒気を覚えました。 気になったのは、息子さんは存命なんでしょうか、という点と、ぬいぐるみを息子さんに買ったのが誰か、という点です。
怪談とはまったく関係ない話ですが、そのいたずらが岩道さんの家だけに怒ったのであれば、間違いなく近隣の誰かの恨みを買っています。 大事にならないうちにちゃんと旦那さんやご両親に相談し、調査・対処されるべきだと思います。 傷つけてやろうという意思がある場合、間違いなくエスカレートし存在を誇示してきますので。 |
名前: ねこ ¦ 21:38, Monday, Mar 10, 2008 ×
作者の通り心温まる話だと思いたい、が、 実はぬいぐるみを物置にしまおうとした時に 怪我に遭うという裏話も考えられる。 とにかくどちらにせよ怪異と思う。 |
名前: 茶毛 ¦ 14:46, Tuesday, Apr 01, 2008 ×
長いのに読みやすかったです。 ぬいぐるみが助けてくれたってのはなんかすごいですねぇ。 やはり物は大切にしないといけませんね。
文章:2 内容:1
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名前: PM ¦ 22:03, Sunday, Apr 06, 2008 ×
本当にぬいぐるみが 板を知らせてくれたのか? 板を置いたのもぬいぐるみの仕業かも?? などと考えてしまう私は ひねくれ者でしょうか?
いい話に水をさしてすいません・・・ という気持ちで+3 |
名前: SPダイスケ ¦ 23:24, Sunday, Apr 06, 2008 ×
恐怖+1 好意的に取れば、ぬいぐるみのお陰で気付いたといえますが……。 深読み出来るのが逆に良いかと。 |
名前: 有線 ¦ 01:29, Friday, Apr 11, 2008 ×
縫いぐるみが知らせてくれた(?)のはその時だけなのだろうか。 以降はどうなったのだろうか。 これからも犬の縫いぐるみが異変を知らせてくれる(かつ追い払ってくれる)といいですね。 |
名前: MM88 ¦ 19:08, Monday, Apr 14, 2008 ×
※講評文での配点と合っていなかったので訂正します。以下、変わらず。
玄関に板を仕掛けたのが誰の仕業なのか気になりますね。生身の人間でない可能性も考慮しますと、ぬいぐるみも含まれるわけで…。(恩返しだと思っている岩道さんには申し訳ないけど) 後味の悪いモヤモヤが残ります。 +1 恩返しならばそれはそれでよいお話。 +1
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名前: 眠 ¦ 19:54, Tuesday, Apr 15, 2008 ×
怪異:0.5 この手の話のたび思うんですが、この犬が板を置いた可能性とかはないのかなと。可愛がってたぬいぐるみとは言え、十年以上放置していた物だし。 結果として無事だったからそう思いたいのはわかりますけどね。 文章:0 視点が岩道さんと柳さんを行ったり来たりで混乱します。 できれば固定した方がいいです。 |
名前: brother ¦ 19:59, Wednesday, Apr 16, 2008 ×
柳さんが以前犬を飼っていたとかなら割とよくある恩返し譚なのですが、ぬいぐるみというのが面白い。 ぬいぐるみとはいえ主人を守ったのでしょうか。 |
名前: 久遠 平太郎 ¦ 20:41, Thursday, Apr 17, 2008 ×
悪戯を知らせてくれたのは息子さんの想いなのでしょうかね。 だとしたらなんだかあったかい気持ちになります。 生者は死者以上に怖い事がありますよね…… |
名前: こうたろう ¦ 22:11, Monday, Apr 21, 2008 ×
ぬいぐるみの恩返しでしょうか。いい話です。 しかし酷い事をする奴がいるもんですね、ぬいぐるみがやった可能性も否定できませんが・・・
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名前: 昼間寝子 ¦ 03:51, Sunday, Apr 27, 2008 ×
文章、内容ともにバランスが取れているとは思いましたが、これはやはり体験者の方がこのぬいぐるみに救われたとおっしゃられていたのでしょうか? ありのままでしたら、この流れで正道ですし、検分した時点でどちらかよく判らないのでしたら、正悪どちらとも取れる、もやもやした終り方の方が効果的だったかなとも思いました。 この後いたずらはなかったのでしょうか?一度きりでしたら恩返しの公算が大で、それに越した事はないのですが。 |
名前: みくりや かつと ¦ 21:15, Tuesday, Apr 29, 2008 ×
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