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騒々しい
 その年の夏、幸枝さんは家族で三泊四日の沖縄旅行に出掛けた。父、母、弟、そして叔母の計五人である。
 一日目、二日目は観光船クルーズやダイビングなどを楽しみ、三日目はレンタカーで観光名所をあちこち回る予定になっていた。これはその三日目のことである。
 車の運転はお父さんに任された。助手席には弟、後部座席にはお母さんと叔母さんに挟まれる形で幸枝さんが座った。
 ホテルを出発して最初の目的地を観光し、次へと出発してしばらく経った時である。
探し物だろうか、お母さんがハンドバッグの中を引っ掻き回し始めた。幸枝さんは特に気に留めず、窓の外の景色を眺めていたそうである。
すると、なぜか幸枝さんは突然お母さんに怒鳴られた。
「分ってるわよ!ちょっとぐらい我慢してよ!」
 滅多なことで声を荒げないお母さんである。それが大層激しい調子で、しかも誰かの言葉に対して返すような言い方で怒鳴ったのである。幸枝さんは驚いて聞いた。
「どうしたのよ、お母さん?」
「だってあなたがすごく嫌味っぽく文句を言うから」
「私何も言ってないよ」
 横から叔母さんも加勢してくれた。
「誰も何も言ってないわよ。何か聞こえたの?」
 お母さんによると、若い女性の声で、バッグの中を掻き回すのが気になるから止めろという意味のことを言われたのだそうである。車内にはその年頃の女性は幸枝さんしか居なかったため、てっきり幸枝さんが言ったと思ったということだった。だがそんな声は他の誰も聞いていない。お母さんは釈然としないものはあったが、空耳だと納得する他なかった。

ところがである。その後がどうにも騒々しいのである。
まず昼食に入ったレストランで一人分多く水が出されたことに始まり、食事中はとにかく店内が騒々しい。店員は皿を二度、三度とひっくり返す。客は大きな音を立てて食器を床に落とす。冷房は調子が悪いのか、大きな音を立て続け、その所為もあってかどの客も必要以上に大きな声で笑ったり話したりと、どうにもうるさくて落ち着かないのだ。
 それはその時だけではなかった。結局その後の沖縄滞在中、一人分多く出される水と騒々しさは、レストランと言わず、ホテルのロビーと言わず、ずっと付きまとい、帰りの飛行機の待ち時間に入った喫茶店まで続いた。お陰で幸枝さん達は必要以上に疲れてしまったのだという。

 さて、その話を私が聞いてから2週間ほど後のこと。遠方にいる私の友人から、仕事でこちらに来るという連絡があった。仕事が終わった後、帰りの新幹線までだいぶ時間があるとのことで、私は友人とファミレスで会うことになった。
 彼女も私と同じく怪談やその手の話が大好きだったこともあり、私は席に着く早々、「最新のネタがあるんだよ」とばかりに幸枝さんの体験を彼女に語った。
 するとどうしたことか、私が語り終えたその時から、店内の様子が一変した。どうにも騒々しい。
 店員は皿を引っくり返し、客は食器を落とす。子供は店内を駆け回り、挙句の果てには外から店の窓をドンドン叩いて回る始末。静かに食事どころではない。これには彼女も驚くやら呆れるやら。そこはファミレスの中でもお洒落な部類に入る店で、何度も利用しているがこんなことは一度もなかった。
 そんな状態だったので、私達は少し早めに店を出ることにした。

 外に出ると今度は外が騒々しい。消防車のサイレンの音、その所為か町全体が殺気立っているように感じられる。やはり落ち着かない。
 新幹線の乗り場でも状況は変わらなかった。発車まで時間を潰すため、待合所の椅子に腰掛けた途端、耳をつんざく非常ベルが辺りに鳴り響いたのである。どうせ誤報、すぐに止まるだろうと高を括っていたのだが、これがなかなか止まない。駅員だけは慌しく駆け回っている。3分程して漸く止まった。と思ったのも束の間、また鳴り始める。この繰り返しである。話をするどころではない。結局、非常ベルに気を取られたままろくに話をすることもなく発車の時間を迎えた。
 彼女が新幹線に乗り込む時も非常ベルは鳴り響いていたが、おかしなことに新幹線が出るとすぐに止み、静けさは戻ったのだった。
 因みに、後で友人に確認したが、新幹線の車内は特に騒々しいといったこともなく、無事に帰れたそうである。




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■講評

怪異といえるのは最初の「若い女性の声で、バッグの中を掻き回すのが気になるから止めろという意味のことを言われた」ここだけのような気がする。
他の騒々しい現象は怪異といえるか難しいところ。
騒々しいのが霊の声とかだったらまだ納得できたのですが・・・
この場合、完全に現実的に起きてもおかしくない現象なので。
若い女の声と騒がしさをセットで考えるのも無理を感じた。
題名にこだわりすぎている印象。

名前: 黒ムク ¦ 10:57, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


作者は沖縄から「騒々しい 」ものが運ばれてきたと解釈していますが、僕には都会で頻繁に起こることなのでただの思い込みとしか思えない。
残念ながら怪談として評価はできません。

名前: 撃墜王の孤独 ¦ 11:21, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


沖縄のその話を他人に聞かせることを邪魔するために騒々しくしているのでしょうか。スラップスティックで愉快な光景ではありますが、たまりませんね。沖縄の精霊たちはパワフルです。話を読んだだけの私はどうなるのか、試してみたい誘惑に駆られます。

名前: ひ ¦ 11:41, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


文:+2 怖:+2

伝染系?
騒々しさを伝える怪異、なのでしょうか。
珍しいお話ですね。
起きる怪異が「騒々しい」だけならちょっと試したく
なる気もしますけど……。

名前: 晴 ¦ 12:41, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


文章 1
読みやすい。
稀少度 0
騒霊のはなしだろうか?

はじめの「幸枝」さんの挿話までは、ついてくる物の怪だなと思った。
が、それより後の騒ぎとはじめの騒ぎとの関連づけが不足している。何処かに決め手がないと、沖縄の怪異が海を渡ってきた、とは考えにくい。
田中河内介の話のように、語る者に祟る、という話の可能性もあるが、それにしても根拠が不足している。

名前: くりちゃん ¦ 14:41, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


最初の起こりは、お母さんが怒鳴ったところですね。怪異を怒らせたかのかもしれません。
仕返しについてまわり、困らせてやろうと思ったのでしょうか?
最初の一人多いというのは実にオーソドックスな怪談ですが、途中から騒音怪談に変わってきて
そういう展開になるかと関心いたしました。
確かに必要以上に五月蝿い状況というのは異常な光景ですね。
しかし、沖縄から付いてきて、このお話を語った相手までに次々と伝染していくとは
リングの貞子の騒音怪異バージョンでしょうかね?
珍しいお話だと非常に興味深かったです。
ところで幸枝さんやこのお話を書かれた方はその後大丈夫なんでしょうか?読んでる私にも伝染したら・・ちょっと面白いかもと思いました。(笑)

名前: じゅりんだ ¦ 15:32, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


「お母さんによると、若い女性の声で、バッグの中を掻き回すのが気になるから止めろという意味のことを言われた」
こんな文章が出てくるのですが、この声を実の娘と勘違いするとは少し無理があるというか、お母さんがそそっかしいかのどちらかなのかという印象を受けました。
いずれにせよ、言われた内容なども考えると、非常に曖昧な表現だと思います。

ただ、この作品で怪異を素直に感じにくかったのは、「騒々しくなった」事が文章から客観的に評価しにくく、また騒音が発生した場所がいずれも「うるさくなっても特に不思議ではない」場所なので、結果読む側に「気のせい」と思われても仕方がないような気がしました。

体験者としては不思議極まりなかった現象だったのでしょうが、いざ文章で表現してみると思いのほか普通に見えてしまい、体験者だけが慌てているように描き出された結果となっています。
この現象から怪異としてあぶりだすのは意外と難しいのではないのでしょうか。

全体の点数は低くなりましたが、書くのに難しい現象をこれだけの量の文章に起こそうとした努力は、うかがえました。

文章0:希少度−1

名前: chidori ¦ 17:12, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


めずらしい話ですね。読み応えありました。
怪異が沖縄だけに留まらずその話をすると同じ状態に
襲われるなんて不思議です。
ポルターガイストの一種なのかな。
『語り終えたその時から、店内の様子が一変した。』
私が話しても起こるのでしょうか。
う〜ん、試してみたい!でも怖い!でもおもしろそう!


名前: 桜子 ¦ 20:55, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


 怪異の部分に似たような描写が続きすぎているように感じました。
 つまり同じ場面の繰り返し。
 もう少し描写を押さえるべきだと思います。
 厳しいようですが一点減点です。

名前: くすだまん ¦ 01:23, Wednesday, Feb 27, 2008 ×


文章1
怖さ1

不思議な話ですね。怖い話ではなかったです。

名前: 新田 猫 ¦ 19:12, Wednesday, Feb 27, 2008 ×


これが「怪異」かと言われると疑問が残るのだが、しかし面白かったことは確かである。

名前: ナルミ ¦ 21:23, Wednesday, Feb 27, 2008 ×


滅多なことで声を荒げないお母さんのヒステリーから始まる一連の流れ。面白いです。
自分の周りが騒がしくなるのみの現象といううのが新鮮でいいですね。
この現象は伝染するのでしょうか・・・。
当事者達のその後が気になりますね。

名前: へみ ¦ 09:31, Thursday, Feb 28, 2008 ×


騒霊、とでもいうのだろうか。
尋常じゃない騒々しさというのがちょっと想像出来なかった。

それにしても、こんなモンに憑いて来られた方はたまったものではないな。

希少性(1) 文章(0)

名前: ねこや堂 ¦ 22:03, Thursday, Feb 28, 2008 ×


偶然の範囲を微妙に超えているような気もする。
実感として、」確かにこういう雰囲気というのは怪異の現場にあるのではないかと思うので。



名前: じぇいむ ¦ 23:14, Friday, Feb 29, 2008 ×


文章・・・1
希少度・・・1

水が一個多めに出されるのは今や珍しくもなんとも無くなりましたね。
後はうるさくなるだけというのはなんとも判断が難しいのですが、珍しいのは珍しいと思います。
駅構内の非常ベルは別として、店内の場合他の客もいるわけで、その客達も同じ大きさの音を聞いているはずです。
その人たちはうるさいと感じていたのでしょうか?
一人一人聞いて回るのもおかしいので確認のしようもありませんが、そこが少し気になりました。

名前: 鹿太郎 ¦ 02:55, Sunday, Mar 02, 2008 ×


お母さんに怒鳴られたのが面白くなかったのかな。ひどい嫌がらせだw
しかも、話題にするだけでそこへやってくる地獄耳。会いたくないです。
駅が静かになったので、新幹線に乗っていってしまったんだと思っていたらそうではないらしい。最後は行方不明ですか、気になりますね。 +2

著者さんは書いている間、何も起きませんでしたか?

名前: 眠 ¦ 22:30, Sunday, Mar 09, 2008 ×


最初の声と、その後の喧騒との関連性がどうにも薄く感じます。
どうしても偶然という可能性がぬぐえませんでした。

名前: ねこ ¦ 20:47, Monday, Mar 10, 2008 ×


最初はセリフで始まり、後は周りが騒々しくなっただけ。怪異であるのは認めるが、文章が読みにくかったためどうしても最初の感想が消えなかった。

名前: 茶毛 ¦ 13:53, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


怪異と呼ぶにはちょっと強引なような気もします。
騒々しい=怪異に結びつかないようか気が・・・

名前: SPダイスケ ¦ 22:23, Friday, Apr 04, 2008 ×


ポルターガイスト的な何かですかね?
話すだけで伝染しちゃうんでしょうか…?
試し…たくはないな…。

文章:1 内容:1

名前: PM ¦ 20:54, Sunday, Apr 06, 2008 ×


稀少性+1
ここまで付いてくるのはかなり厭ですな。
前半は声もワンセットで、怪異として必要十分な内容ですが、後半は少しパンチが弱く感じました。
後半部分に臨場感が感じられれば、印象が変わったかもしれませんね。

名前: 有線 ¦ 00:23, Friday, Apr 11, 2008 ×


怪異…かな?
と思われる事は起こっているのだが。
よくわからない。
内容をもっと整理してほしかった。

名前: MM88 ¦ 02:44, Sunday, Apr 13, 2008 ×


伝染する怪異? なかなか珍しい話ですね。水が一人分多く出されることから何か憑いてきたんでしょう。沖縄ということから、いたずら好きなキジムナーかも。個人的にキジムナーは大好きなので+1

名前: 久遠 平太郎 ¦ 20:53, Monday, Apr 14, 2008 ×


怪異:2
感染するタイプのお話なのか、筆者さんか友人のどちらかが増幅器だったのかどうかは不明ですが、「あんまり人に話したくないタイプ」のお話ですね。^^;
家族に話して同じ現象が起こったら目も当てられませんよ。
文章:2
長い……けど、これくらいないと説明不足だし。
こうするしかなかったのかなぁ。

名前: brother ¦ 15:07, Wednesday, Apr 16, 2008 ×


 旅行先から何かを連れて帰ってしまう話はよくありますけれども、周りを騒がせてしまうとは。
 しかも後にその話をしただけでまた、というのが、執念深いと言うか…………
 友達に話した後、喫茶店に入ってみたら、どうなったんでしょうかね。ひょっとして水が一つ多く出てきたかも。

名前: こうたろう ¦ 21:23, Monday, Apr 21, 2008 ×


騒がしくなるというのは面白いですね。
しかも書き手がその話を人に話したときに同じ事が起きるとは。
小さい頃、怖い話を聞くとそのお化けが自分のところにも来るよ、とよく言われたもんでしたが、ほんとにあるんですね、そういうことが。

名前: 昼間寝子 ¦ 01:02, Sunday, Apr 27, 2008 ×


ちょっと面白い図が脳裏に浮かんでしまいました。
この一番初めの声の主もまた、「騒がしさ」に悩まされていたのでは?
すると、これは自分にも見聞きした事ない種類の怪異です。
しかも、第三者視点から客観的に描かれているし、文面から、書き手側の戸惑いも感じます。
そんな部分が、妙にニヤリとさせられました。面白かったです。

名前: みくりや かつと ¦ 15:26, Tuesday, Apr 29, 2008 ×


空耳かもしれない声を聞いたのち、この騒々しさを怪異と思うことが「呪い」の始まりです。怪談とはいえないような気がするので1点ですが、こういう事例だけで一冊読んでみたいと思いました。

名前: tanaka ¦ 03:24, Wednesday, Apr 30, 2008 ×



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