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一枚の写真
昭和四十七年七月に記録的な豪雨が全国を襲い。死者、行方不明者が四百四十一人という大惨事が起きている。
 母の故郷の長崎県でも例外ではなく、水が去った後では信じられない光景があちこちで見られたそうだ。ほんの一区間の差で大きく被害は違い。見慣れた町並みがゴロゴロとした賽の河原と化し。酷い場所は悲惨の一言。避難場所に指定されていた役場などは、まるで缶詰のように岩や砂が中を埋め尽くし、避難していた市民の姿など何処にも見当たらないといった惨状だったらしい。
 これは母から聞いた話である。
 法事で実家に帰った時に、祖父の知り合いの住職が珍しい物が手に入ったと訪ねて来た事があったそうだ。
 残念ながら名前を覚えていないそうだが、大工の棟梁をしていた祖父とは馬が合い、よく揃って赤提灯に顔を出す間柄だったという。
 その時、丁度、祖父は仕事から帰って浴衣に着替えたばかり、さっそく客間に案内して、一緒に珍しい物を拝見させてもらったそうなのだが、住職が懐中から取り出して卓袱台に置いたのは、何の変哲もない一枚の白黒写真だったという。
 それも、つい最近のもので、新しく架けた橋の落成式の記念写真である。
 建設の関係者が緊張した面持ちで写っているだけで、いったい何がそんなに珍しいのかさっぱり分からない。
 その時、母は住職が暇潰しに来たのだと思ったそうだ。時々、そんな悪戯っ子のような真似をする事があったらしい。
 住職は澄まし顔をして、母が持ってきた麦茶を啜っているだけ。
 祖父も母と同じ考えであったらしく、苦笑いをしていたそうだ。
 「これがなんですか?」
 すると住職は、写真の一番右側を指差して、この様に答えたという。
 「いや、世の中には不思議な事があるもんばい、此処を見てみんですか。」
 言われたとおり右端を見てみれば、写真の人物の足元に白い靄のようなものが漂っている。
 「何かの煙じゃなかでしょうもん?」と母が答えると上機嫌になってくる。
 「そげん見えようが。」
 どう見てもそれは煙だ。
 「そんなら写真を引っ繰り返したら、どげん見える?」
 住職は写真を上下逆さまにした。
 すると写真に文金高島田に結われた髪型が出現したではないか。靄に見える部分が角隠し、人の足元にある影が髪型に見えるのだ。
 しかし顔はない。
 その住職の話だと、その橋の建設中に女性の遺体が発見されたそうだ。人知れず朽ちていたのが、何かの拍子に流されて欄干に引っかかったらしい。損壊は激しく身につけていた衣類は剥がれて、川底の砂利で何もかも削げ落ち、まるでゆで卵のようにツルツルの状態だったという。
 幸い肉親は見つかったらしいが気の毒な事に、もうすぐ婚礼を間近に控えた若い女性だったそうである。
  
 













※超-1実行委員会より注釈。
本作品は「私はここ」と、ほぼ同時期(「私はここ」の公開前)に到着した、独立した応募作品であり、「私はここ」のリライト作品ではありません。
内容について先行した類似作があることについては、本作応募者も驚いていましたが、取材元は応募者当人の親族ということもあり、意図した不正行為はないと判断して、このままの公開の運びとなりました。
内容の類似性については意見の分かれるところかもしれませんが、不正目的のものではないということを踏まえてご判断下さい。

13:51, Monday, Feb 25, 2008 ¦ 固定リンク ¦ 講評(27) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(3) ¦ 携帯

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実録的な作品であり、かなり詳細なやりとりで心霊写真について言及されている。 正直なところ、写真の構図などを文章で書き表すのは非常に難儀なものの部類に入るだろう。 当然この作品でも怪しげなものが写り込んでいる様子を描写しているのだが、やはり完全には捉え .. ... 続きを読む

受信: 05:50, Thursday, Feb 28, 2008

■講評

文章も練られていて、怪異もそれなりに怖いと感じます。

ただ欲を言えば、その写真の怪異がほぼ「説明」に終始していて、写真としての映像が読者の想像に委ねられている所を、ぜひとも「描写」として読みたいと思いました。

写真がこの作品の怖さの中心であるのに、
「すると写真に文金高島田に結われた髪型が出現したではないか。靄に見える部分が角隠し、人の足元にある影が髪型に見えるのだ。
しかし顔はない。」
元の写真そのものの具体的な描写も少なかったため、ここも読んでいてすぐに映像が浮かびにくく、せっかくの盛り上がり所であるのにぞっとする程の怖さが伝わらず、少し残念に感じました。

写真の映像を言葉に置き換える作業は難しいとは思いますが、ここにこそ比喩や表現を駆使して、恐ろしさを盛り上げていただきたかったところです。


文章と希少度あわせて+1

名前: chidori ¦ 14:41, Monday, Feb 25, 2008 ×


注釈があったのでどうなのかなと読んだが、個人的にはりっぱに独立している話だとおもう。
書き方も丁寧だし好感がもてるし、これだけ丁寧に描写しているのだから真実味も充分あると思う。
怖いかと言われたらそうでもないが、注釈が付くなどの取材者のご苦労と、少なくとも「違うのに」と思われたであろう事を考慮して点数は高めにした。
取材がんばって下さいね^^

名前: 黒ムク ¦ 14:42, Monday, Feb 25, 2008 ×


文:+1 怖:+2

似たような話もあるんだな、と思いつつ読みました。
不正云々とは最初から思いもしませんでした。
が、改めて注釈を載せられるとは。

やはり怪異というのは意外とパターン化しているものなのでしょうかね。

それだけ人の念や思考は数あるようで似たようなもの、
という事なのかもしれません。

名前: 晴 ¦ 14:49, Monday, Feb 25, 2008 ×


注釈は読みましたが、心霊写真の内容がそうそうないタイプですから、不正云々は思いつきませんでしたよ。
ひっくり返った文金高島田の髪型だけ(の霊?)の心霊写真とは、非常に珍しいです。が、珍しいだけに像がなかなか結ばない。それがどれくらいの大きさなのか、濃さや輪郭などもう少し詳しくわかると想像できるのですが。

名前: ひ ¦ 17:52, Monday, Feb 25, 2008 ×


 2点減点したのは、最後の遺体の描写が、あまりにも生々しく遺族の配慮を欠いているように思いました。リアルを追求したかったんでしょうが、実話怪談とはいえ取材した題材には、エチケットが必要に思います。

名前: くすだまん ¦ 17:55, Monday, Feb 25, 2008 ×


ネタ+2 切なさ+1 文章-1
霊体そのものではなく、生前の願望が焼きついたということなのでしょう。
髪型のみで顔がない、というのは、その姿を被害者自身が想像できなかったのか、あるいは、損傷の激しいその容姿を映したくないという女心なのか、と考えるとより切なくなります。
文章についてですが、「これは母から聞いた話である。」の一文の差し込まれている位置が、文章の流れからすごく不自然に感じました。
文頭でも問題はなかったと思います。
また、災害の描写や被害者の描写がやや書きすぎているように思いました。

名前: ねこ ¦ 19:30, Monday, Feb 25, 2008 ×


文章 1
行間を空けると読みやすくなる。
稀少度 1
文金高島田が哀れ。

同じ人間という種の体験することですから、似たような話が出てくるのは当然だと思います。
ご遺体に関するリアルな描写ですが、お祖父さんとののどかなやりとりとはちょっとそぐわない気がする。顔のない高島田というのは、女心を表しているようで、哀れですね。
それと方言っていいですねえ。


名前: くりちゃん ¦ 20:12, Monday, Feb 25, 2008 ×


意欲は買うが、心霊写真の怪異を文章で説明するのはやはり難しかったか。そこがきちんと描写できていれば、けっこういいものになったと思う。
それと、冒頭の豪雨被害と写真を撮った時期、女性の死体が見つかった時期の時系列がわかりにくかった。

名前: ナルミ ¦ 20:18, Monday, Feb 25, 2008 ×


川から上がった死体との関連を考えると充分に怖いのだが、住職が自慢げに心霊写真を見せびらかしちゃいけないんじゃないかなあ、と。
それも来歴が分かっているならなおさらなので、ここのところでなんだか鬱な気分に。
実話の厭な部分ですね。
希少度 1 文章 1

名前: じぇいむ ¦ 22:14, Monday, Feb 25, 2008 ×


心霊写真の説明に行き着くまでのドラマがしっかりしているので、重みのあるお話に出来上がっていたと思います。たった1枚の写真だけでこれだけ立派な作品に仕上がるとは文章力もあるのだと思います。とても良いと思います。

名前: じゅりんだ ¦ 00:44, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


恐怖+1
肝心の写真の描写が曖昧で、靄が角隠し等に変わるまでのイメージが中々描けませんでした。
そこを掘り下げれば、より良くなるかと。

名前: 有線 ¦ 03:39, Tuesday, Feb 26, 2008 ×


文章1
内容3

内容の意外性が高い話だと思います。ただちょっと読みにくかったかもしれません。

名前: 新田 猫 ¦ 19:54, Wednesday, Feb 27, 2008 ×


遺体のリアルな描写が実話だという事を改めて認識させた。
この部分には賛否両論あると思うが、悲惨さを伝えたが故、訴えるものもあったと私個人としては思う。

しかし、何ちう罰当たりな坊主だと思ってしまったのは私だけだろうか。苦笑

希少性(1) 文章(1)

名前: ねこや堂 ¦ 00:23, Thursday, Feb 28, 2008 ×


文章・・・2
希少度・・・0

文章はとても丁寧で退屈なく読めるんですが、この手の心霊写真ネタは難しいと思います。
心霊写真は実物を見てなんぼ。
ここにこういうのが写ってて、と言う風に説明だけされても、実物を見たいという欲求が募るばかりです。
心霊写真から何かの現象が派生すればまた違ってたんですけど。
もっともこれは好みの問題かもしれませんね。

名前: 鹿太郎 ¦ 02:57, Thursday, Feb 28, 2008 ×


お、九州。みな同じ著者さんかな。

心霊写真のお話がちらほらありますね。
いずれも、実物を見ないことにはピンとこないというのが正直な感想です。
想像するしかないのは他のネタでも同じなのですが、現物があるとわかっているものは「だったらそれが見たい」と思ってしまいます。

文章はつっかかるところもなく、災害直後の風景、発見された遺体の凄惨さはリアルに描かれていて読みがいがあります。 +2
肝心な心霊写真については伝わってこないのが残念。 -1

名前: 眠 ¦ 19:02, Friday, Mar 07, 2008 ×


ルポ調の文体で怪談を書くと、
ただの怪事件の記録になってしまうので
怖くなくなってしまうことがあるのですが、
本作はよく練られていて真に迫ってくるものがありました。
死者の無念を感じる話です。

名前: 撃墜王の孤独 ¦ 14:19, Monday, Mar 31, 2008 ×


坊主の態度はどうかと思うが死者に対して悲しい気持ちになりました。

名前: 茶毛 ¦ 02:46, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


自然災害は恐ろしいですね。
婚礼前の女性、さぞかし無念だった事でしょう。
今後、完成した橋で怪異が起きなければいいですが・・・。

名前: へみ ¦ 02:51, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


実際の写真のイメージが沸きにくかったのが残念です。
やはり心霊写真を文章で説明するのは難しいですね。

名前: SPダイスケ ¦ 22:08, Friday, Apr 04, 2008 ×


ああ…なんだかもの悲しいですね。
その後、この橋には何も起きなかったんですかね?

難しい文章の割には、読みやすかったかと思います。

文章:1 内容:1

名前: PM ¦ 22:54, Friday, Apr 04, 2008 ×


これだけの数の怪談が集まればこんなこともあるんですね。地元では有名な話なのでしょうか? 
端正な文章で怪異の背景も詳細に書かれていて、心霊写真譚としては非の打ちどころがない作品なのですが、一つだけ、災害のあった場所や年月などは、あまりはっきりと明かさない方がいいように思います。

名前: 久遠 平太郎 ¦ 23:55, Sunday, Apr 06, 2008 ×


。のつけ方がおかしいところばかりに目がいってしまいました。
これは本人もわかっていない書き癖かと。
"読みやすい"と評価されている人の文章と比べてみるとわかると思います。

損傷の激しい、衣服もはぎ取られた
"ツルツルの"遺体
というのは想像がつきません。
損傷の酷い遺体なら、とても大変な状態になっていると思うのですが。


名前: MM88 ¦ 18:10, Thursday, Apr 10, 2008 ×


怪異:0
文金高島田の女性が逆さに写ってるというだけで、目出度くないことだけはわかりますね。
文章:0
基本的に読みやすいんですけど、説明に力が入ってて怖さを感じることができません。
たとえば前半の説明がその女性を写す原因になったのは理解できるんですが、そこまで詳細を説明せずとも、「母から聞いた話」で始めてオチ部分(?)に「写真撮影の少し前に大水害が起きていたらしい」でも十分じゃないでしょうか。

名前: brother ¦ 09:34, Wednesday, Apr 16, 2008 ×


 文が詰まっていて少々読みにくい感じがしましたが、それを除けば読みやすい文章でした。
 災害後の悲惨さがよく伝わってきます。

名前: こうたろう ¦ 18:41, Monday, Apr 21, 2008 ×


実録感がありとても後味が悪く素晴らしいです。

名前: tanaka ¦ 01:49, Saturday, Apr 26, 2008 ×


前半の説明は詳細で、リアリティが増して良かったと思う。
逆さにすると人の顔、というのはよくある話だが、前半の大参事の描写によって、亡くなった女性が、他の被害者の無念さまで代弁しているようで切ないですね。

名前: 昼間寝子 ¦ 15:37, Saturday, Apr 26, 2008 ×


ひと昔前の作風ともいえない気がいたしますが、実際の事件(個人情報ではないもの)を情報として呈示しリアリティを出している部分には好感が持てます。
また、書き起こされた怪異も実感を感じてなかなかのものでした。亡くなった女性はとても気の毒に思う気持ちと、悲惨な結末を迎えれば迎えるほど話が際立つ怪談というものの性質をよく勉強させていただきました。

名前: みくりや かつと ¦ 11:07, Tuesday, Apr 29, 2008 ×



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