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冬景色
 「サーギーリーキーユル、ミーナトエノ……」
 冬の灯ともし時、百合子さんは駅からの帰り道をわざと遠回りして土手沿いの道を歩いていた。
 眼下に細長い川の流れと冬枯れした茶色の川辺が見える。
 川を渡る風は冷たい。
 「フーネーニシーロシ、アーサノシモ」
 さっきから、後ろを歩く誰かが歌っている。
 寂びたような、深い声が足音と共に近づいてくる。
 なんだっけこの歌。懐かしい。
 …ただ水鳥の声はして…
 歌の続きは思い出せるのに、タイトルはなかなか思い出せない。
 そうだ
 「冬景色」
 思わず声が出ていた。彼女の悪い癖だ。
 彼女を追い越しかけていた件の声が立ち止まった。

 「そうですか、冬景色……
 好きな歌なのに名前がどうしても思い出せなくてね」
 男は川の方を漠然と見ながら、照れて笑う。
 ちょっとすいません、そう前置きをして百合子さんに話しかけてきたのには少し驚いたが、格別不審人物という風でもない。
 ごく普通のサラリーマン。
 五十代ぐらいに見える。
 「恥ずかしながら、歌詞の意味もよくわからなくってね。いったいどんな漢字をあてるのか」
 「子供の頃覚えた歌って、そんなもんですよ」
 当たり障りなく、百合子さんは答える。
 漢字に変換してみたところでたいした意味があるわけじゃない。
 美しい冬の朝の情景。
 「兄が、好きな歌でした」
 空の色がブルーからブラックへ変わる。
 残照を空の端に少しだけ残して、夕方から夜へと変わる時刻。
 男の表情がよく見えず、川風のせいばかりでなく、百合子さんは寒気を感じた。
 懐かしんでいるわけじゃない。
 寂しそうにも見えない。
 あえて言えば……
 薄笑い?
 「あの日もちょうどこんな時間にね、この道を歩いていたんです」
 
 駅前の喧噪から離れて少し経った頃、後ろから歌が聞こえて来るのに気づいた。
 さぎりきゆるみなとえの
 懐かしい歌だった。
 子供の頃の、故郷の冬。兄と二人、声を合わせて歌いながら家路を急いだ情景が急に思い出された。
 思わず和して歌う。
 いまださめずきしのいえ
 最後まで歌ってから、後ろを振り向いた。
 「そこにはね、誰もいませんでした」
 家に帰り着くと電話が鳴ったのだと、男が言う。
 故郷からの電話は兄が死んだのだと告げた。
 
 「変な話しちゃって」
 男が軽く頭を下げた。
 薄笑いに見えた表情はいつのまにか最初に見た照れ笑いのような、やや漠然とした表情に戻っている。
 二人はいつの間にか分かれ道にさしかかっていた。
 左に曲がれば百合子さんの住む住宅地。
 真っ直ぐ行くと、そこは二つの川が合流する地点で、この先に人家はない。
 男は左に曲がらなかった。
 消え残る夕日の方へと寂しげに肩を落として歩いてゆく。
 切れ切れに、歌が聞こえる。
 
 男には、影がなかった。




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■講評

単純に文章がわかりにくいし、読みづらい。
時間の流れ、誰が言っているのか、わかりにくい。
そのせいで、ところどころ意味がわからなくなる。
結局、影がなかった・・・それだけなのかと思ってしまう。
影がないことだってりっぱな怪異であるのに。
作者の狙った話のポイントは感じとれるが、うまく生かされていない。

文章−2 怖さ 0

名前: 黒ムク ¦ 13:30, Monday, Feb 04, 2008 ×


内容+1
こういう読後に寂しさの残る話は好きです。
入れ子式の怪談とでも言うのですかね?
男性はこれから死に向かうのでしょうか、それとももう亡くなってるのかな?
気になりますね。
気になるといえば、「冬景色」の歌詞の要約を、
>美しい冬の朝の情景。
と、ポンと出されても、私のようにピンと来ない人には唐突過ぎる気がします。
『美しい冬の朝の情景を歌っているだけだ。』
くらいにしてもらえると助かります。私事ですみませんが(--;)
結構重たく描写されてますが、さらっと読めたので個人的にはOKです。
ただ、怖いか? と問われれば「それなりに」くらいなのでこの点数となりました。

名前: 有線 ¦ 13:58, Monday, Feb 04, 2008 ×


文:+2 怖:+1

こういう文章は単純に好きです。
綺麗です。
最後まで男がどっちのモノなのか解らないのも良い。

名前: 晴 ¦ 14:07, Monday, Feb 04, 2008 ×


ちょっとした他愛ない会話が恐怖へ変わる瞬間がよく書けていました。
話を引っ張りすぎという方もいるかもしれませんが、
僕はこのぐらいの長さで調度いいと思います。

名前: 撃墜王の孤独 ¦ 14:19, Monday, Feb 04, 2008 ×


文章 1
歌詞を片仮名で書かれると読みづらい。
歌詞の部分は一行空けて示してくれると分かり易い。
稀少度 1
最後のどんでん返しは何となく予想できたが面白い。

どんでん返しというか、霊が生前自分の体験した心霊体験を語る、というところに意外性がある。
男(霊)の、過去への未練を感じる。







名前: くりちゃん ¦ 14:27, Monday, Feb 04, 2008 ×


冒頭のカタカナの歌の部分で引っ掛かるが、縦書きに変換してみると非常にすんなり歌として読めるので、これはこれでいいんだろうと思う。
改行など、ちょこちょこと気になる点はあるが、全体の雰囲気は出ていると思った。
怪奇譚を話す幽霊という事象は、けっこう希少か。
ただ「影がない」というのは何らかの光学現象かもしれず、男を幽霊と決めつけ切れないところが残念。
希少性 2 文章 1

名前: じぇいむ ¦ 23:09, Monday, Feb 04, 2008 ×


すみません。上の講評の配点です(^_^;)

名前: じぇいむ ¦ 23:11, Monday, Feb 04, 2008 ×


文章:0 内容:2

少し文章がわかりにくかったので、何度か読み直してしまいました。
失礼ですが、実話怪談としては「かっこよ過ぎる」文章だなと思いました。
でも、話としては兄の霊がメインと見せかけて、弟も正体不明というのがなかなか薄気味悪くてよかったです。

名前: 先行量産型PONKEN ¦ 23:40, Monday, Feb 04, 2008 ×


素材 2 技術 ?

「問わず語りに己の過去を語る死者」という、一種古典的とも言えるシチュエーションなのだが、この作品にはそれを霊能で介したという描写が見られない。
つまり「霊能者が相手の生前の記憶を読み取った」のではない。
そこが凄い。
しかもその内容が、怪異譚。
二重に凄い。超レア。

が、装飾過多の感は否めない。
実話怪談を読んでいる感覚が薄い。
台詞も体験時の会話の再現というよりは、小説の話法で書かれている。
総じて、体験談のリアリティより、ドラマとしての演出を重視しているように感じる。
叙情的な文言を並べなくとも、それが没入に値する素材ならば、読者は感情移入すると思う。

名前: out ¦ 00:37, Tuesday, Feb 05, 2008 ×


ネタ自体はそこそこ面白いのだが、文章がわかりにくい。叙情的な描写を意識しすぎたせいか、いつ誰が何をしたのか(何を語ったのか)が読み取りにくくなっている。

名前: ナルミ ¦ 01:14, Tuesday, Feb 05, 2008 ×


まるでドラマの一場面をみているかのような叙情的な文章ですね。
文章が懲りすぎているので、これはどういう意味か?と思わず読みふけってしまいました・・・。
最後に男の影がないというところで、お?この人は幽霊なのか?と吃驚させられる所はありがちながらも良かったように思います。体験者の方が見える方なのでしょうか?幽霊と淡々と会話する所は後からよくよく考えると面白いなあと思いました。ほんのり怖いといった感じでしょうか。

名前: じゅりんだ ¦ 19:29, Tuesday, Feb 05, 2008 ×


好み /好き
着目点/冬景色は文部省唱歌で、今時誰でも知っている歌ではなく、その点の配慮はもう少し必要ではないかと思います。
話の性質上同じシーンを二度繰り返すのは仕方がないことではあるが、飽きちゃう人は飽きちゃうだろうと思う。

名前: 比良坂 ¦ 20:25, Tuesday, Feb 05, 2008 ×


先に講評をされた方も書かれているように、やはり文章が良くないです。
今まで気に入った小説のパーツを寄せ集めた感があります。
だから小説の文法がばらばらで、読んでる側に違和感があるのです。

たとえば冒頭のカタカナ歌。
誰にとってのカタカタ表記なんでしょう?
百合子が聞いている歌で、彼女は歌の続きを思い出せるくらい覚えがあるのなら、カタカナになってるのはおかしいのです。
小説の文法では、こうした場合、カタカナやひらがななど、漢字になってないのは、その理由があります。
この話は見たところ3人称ですから、それが「歌詞をよく覚えていない」男の主観に急に寄り添って「カタカナ歌」になる事は不自然です。
カタカタ歌で盛り上げたいのなら、百合子も「ええと何だっけこの歌・・・」くらいにしておいて、2人揃って思い出したあたりで歌詞に漢字が使われるほうが良かったかと思います。


そして描写が分かりにくいのは、実際にその場所を感覚としてつかむ練習が不足しているためと思われます。
冒頭の土手沿いの道、細長い川の流れ、冬枯れした・・・のところも、台本でいえばト書きがそのままあるような印象を受けます。
色あせたスナックの袋がゴミとして見受けられたり、年配の男性が痩せた犬を連れて散歩している光景とか、寂しさや冬の寒さを演出する小道具は他にも探せばあると思います。

ただ、文章が目指そうとする雰囲気自体は悪くありませんので、小説の書き方本などを熟読すればいくらでも伸びる可能性はあるように感じます。
展開についても勉強次第で伸びるでしょう。

文章−1(文章自体は本来−2だが、目指す方向が感じられるので−1):希少度0

名前: chidori ¦ 22:47, Tuesday, Feb 05, 2008 ×


三丁目の夕日のようなレトロ感があり、詩的できれいです。
若干言葉に懲りすぎて読みづらくさせているように感じます。
ラスト、「変な話しちゃって」〜からは好きです。
怖いというより物悲しいお話、こんな霊なら逢ってもいいかな、
なんて思いました。怖いばかりが霊じゃないんだと、つい、忘れがちなことを
思い出させてくれました。

名前: 桜子 ¦ 21:22, Wednesday, Feb 06, 2008 ×


ネタ+1 文章+2 レア度0
寂寥感がよくでていると思います。出だしの歌詞はカナ表記じゃない方が良いような気がします。
男の表情の意味をどう取るかで、話の読後感がかなり変わってくるのもマル。
最後の一文が、実話であっても蛇足に感じました。

名前: %uC282ねこ ¦ 00:19, Thursday, Feb 07, 2008 ×


文章2+ネタ2
不気味さとどうしようもない寂しさがにじみ出ていると思います。
文章の前後する感じも、ホ゛ゥとした景色とよく合ってると思います。

名前: ¦ 11:44, Saturday, Feb 09, 2008 ×


叙情的、幻想的な表現と言うのは、しばしば第三者にとってわかりにくい表現になってしまいがちです。好みの問題だと言われればそれまでですが、公開審査でしかも語り手が互いに講評すると言う形式上、一般ウケする方が有利だと思います。じぇいむさんのリライトがよく出来ていますね。無駄な表現を省いてわかりやすくなっているし、かつ元ネタを損ねることなくうまくまとまっていると思います。リライトはカヴァーソングを作るみたいな感じで楽そうなイメージがありますが、いいカヴァーってなかなか無いんですよね。でも極端に講評が割れる話、私は大好きです。

名前: 昼間寝子 ¦ 14:18, Saturday, Feb 09, 2008 ×


希少度・・・0
文章・・・-2
構成は良いとは思いますが、文章が解り辛い。
これは致命的です。
読む方の立場になって書くことを意識する必要があると思います。

名前: 鹿太郎 ¦ 20:08, Monday, Feb 11, 2008 ×


途中で、どれが誰の台詞なのか、誰のエピソードなのか混乱しました。-1
夕景の切なさが伝わってくる表現の数々は嫌いではないです。

最後の一行でズドンときます。男性がこの世のものか否か、めっちゃ気になりますねこれは。+1

名前: 眠 ¦ 00:31, Wednesday, Feb 13, 2008 ×


所々に叙情的な文章が挿入され、今までの実話怪談とは一味違った表現方法を模索しているような、そんな気概を感じました。個人的にはこういう怪談も読んでみたいと思う自分がいます。(ただ、その結果点数が良くなるかどうか分からないので、あまり無責任なことは言えないのですが…)怪異は虫の知らせ的な話なのですが、それ以上に話を語る人物の(霊?)不気味さが際立っていました。

名前: 久遠 平太郎 ¦ 19:56, Wednesday, Feb 13, 2008 ×


「駅前の〜」以下の段落の時系列がどうしてもわからない。

名前: 与粋鴎歌 ¦ 15:36, Monday, Feb 18, 2008 ×


全体の流れが非常にリリカルなので、男の回想部分は少し色を変えて欲しかったです。「後ろから歌声が聞こえる」という体験者と同じ状況なので、気づかず少々混乱してしまいました。歌詞をカタカナにしたのは私はいいと思います。意味がわからなければオトとしてしか認識できませんよね。心に引っかかるのは「薄笑い?」のところ。これって想像によってはとっても怖いんですけど。男自身も怪異だけに。

名前: ひ ¦ 11:25, Tuesday, Feb 19, 2008 ×


良く出来た小説を読んでる気分だった。
こういう書き方は嫌いではないが、怪談となると少しばかり趣が違うような気がする。
語って聞かせる分には雰囲気があって良いが、実話怪談として文章に書き起こすとなるとどうだろう。
リアルさを好む人には受け入れられないかも。

希少性(1) 文章(0)

名前: ねこや堂 ¦ 23:05, Wednesday, Feb 20, 2008 ×


最初、歌の歌詞だという事がわからずに
お経?何かの呪い?などと思ってしまいました。

短編小説風に綺麗にまとまりすぎて
そのぶんリアルさには欠けるかな。

名前: 蓬莱 ¦ 22:30, Saturday, Feb 23, 2008 ×


まったく見識がない男性とこんなふうに話してしまうなんて・・・。
不謹慎で申し訳ないのですが、序盤はうまいナンパのように感じてしまいました。
と思いきや、影がなかった!
彼自身も霊だったのでしょうか。
霊にしろ人間にしろ、百合子さん気をつけたほうがいいですよ。

名前: へみ ¦ 05:11, Sunday, Feb 24, 2008 ×


好みとしては実録感ある文章で読みたいのですが、でも、これはこれで、良いなと思いました。文章+2

名前: tanaka ¦ 04:12, Wednesday, Feb 27, 2008 ×


 描写に不慣れな印象を持ちましたが、個人の趣味なので減点にはしません。
 話も情緒豊かで好きです。
 妙に温かみがある話ですね。
 それからリライト作品は、良くまとまっていて楽しめました。
 

名前: くすだまん ¦ 18:17, Thursday, Feb 28, 2008 ×


流れ的には綺麗なカンジでよかったが、いかんせん文章がわかりにくい・・
歌詞のカタカナ表記は作品にとって 分かり難さをより広げてしまっている気がする。

名前: SPダイスケ ¦ 12:03, Monday, Mar 03, 2008 ×


全体的に読みづらく、フーンという感覚で終わってしまった。

名前: 茶毛 ¦ 14:24, Friday, Mar 28, 2008 ×


雰囲気は好きなのですが…。
セリフの主が分かり辛かったり、途中から語り手が変わったりで、困惑しました。

名前: PM ¦ 21:36, Monday, Mar 31, 2008 ×


ここまで講評してたと思ったらしてなかった。orz
怪異:1
まさか幽霊が怪異を語るなんて!……たまに聞くかな?でも珍しくはあると思う。
それにしてもこれ、歌を知らなかったらそのままお別れしてたんだろうなぁ。
文章:2
情景を非常にうまく描いてますね。想像が容易です。
ただ、昭和の時代ならともかく平成の世で女性がおっさんに声をかけられて不審に思わないのはどうなんでしょう。
昭和の話だとしても、そう前置きがあって良かったかもしれません。
そのへんに引っかかりを感じました。

名前: brother ¦ 17:12, Tuesday, Apr 01, 2008 ×


文+2 怖+1

個人的にこういう文体は好きです。歌詞が解り辛かったのが残念です。

夕方にこんな話を見知らぬ男性から聞かされたら、正直怖いです。



名前: hitomi ¦ 18:24, Monday, Apr 07, 2008 ×


読みにくいわけではないが、文章がわかりにくい。
男自身が怪異の様に書かれているが、暗がりの中では影が出来ない時もあるだろう。

名前: MM88 ¦ 20:56, Tuesday, Apr 15, 2008 ×


叙情的な香りの漂う怪談です。この作品もまた、新しい作風を模索する作者さまの強い意気込みが感じられる点では、とても大きく評価したい部分があります。
ただ、この作品の怪異自体はやや地味でもあるので、怪異と導入部のバランスを計って写実的に描ききってしまうか、もっと小説的に徹しきってしまうかの踏ん切りが必要であったかも知れません。あくまでも私見です。

名前: みくりや かつと ¦ 21:30, Saturday, Apr 19, 2008 ×


 こういう書き方もありなのかもしれませんが、私にはわかりづらかったですね。

名前: こうたろう ¦ 22:50, Monday, Apr 28, 2008 ×



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