..ともあり、人気が高かった。 その日ユキさんは、フリーの客を相手にしていた。 席について数分後、後輩のレナがヘルプとして席に着いた。「あたしより三歳下の子。舌足らずな口調なんだけど、逆にそれがお客さんに受けてたみたい」 レナがヘルプについて十分ほど経った頃、別の客から指名が入ったため、ユキさんは席を立った。 そのときユキさんは、店内に設営されている広さ三畳ほどのステージに、誰かが上がっていくのを見たという。 ステージの上には、ウェーブがかかった髪を肩まで伸ばした若い女の人がいた。 女性に見覚えが無かったため、ユキさんは「あんな子、店にいたかな?」とぼんやり考えていた。 ユキさんがステージを凝視していると、客とレナも会話を止めてそちらの方へ顔を向けていた。 三人が見守る中、女性はステージの中央に置いてあるスツールに腰を下ろしたのである。「それを見て、あれ? て思ったのよ。だってそのスツール、歌のリクエストをもらった時にお客さんを座らせるための物なの。あなたのために歌います、てね。だから、店の子がそこに座るのは変なのよ」 三人は顔を見合わせた。客は「何だあの子? 新入り?」とユキさんに訊ねてきたが、ユキさんとレナは首を横に振った。 ステージから目を離したのは、ほんの数秒のことだったという。 再び視線をステージに戻すと、女性は忽然と姿を消していた。店内を見回したが、どこにもいない。「そこからは大変だったな。お客さんが『おい、何だよ今のっ?』て騒ぎ出しちゃったから、フロアマネージャーがすっ飛んで来ちゃって。他の席の人たちも、何事か、て覗きこみに来るしさ」 騒動の最中、レナは真っ青な顔をしてずっと震えていたという。 しかし、怪異はこれで終わりではなかった。 スツールに座る女性が現れた数日後から、奇妙な出来事が頻発した。 店内に、その女性が出没するようになったのである。「それもさ、接客してる女の子の隣に、あの女がいつの間にか座ってるのよ。じぃっと顔を覗き込みながらね。中には、卒倒しちゃう子もいたの」 いつしか女性の霊は「ヘルプさん」と名付けられた。ヘルプのように隣に座っているから、という理由だそうである。 ヘルプさんは、およそ二週間にわたって出没し続けた。「幽霊は客を呼び込むから店にいたほうがいい、とは言うけど、さすがにあれだけ頻繁に出られちゃね。辞めたい、て言い出す子もいたし、何より店の評判が悪くなるじゃない。だから、御祓いをすることにしたのね」 非番も含めた従業員全員が開店前に店のホールに呼ばれ、御祓いをしてもらった。その最中、誰もいないはずのバックヤードから大きな物音が数回聞こえてきたという。 御祓いは効果覿面だった。 その日から、ヘルプさんは店に現れなくなり、スタッフは一様に胸を撫で下ろした。 ただ、一人だけ元気が無い者がいた。レナである。 接客していないときは常に沈み込んだ表情を見せており、メイクでも隠し切れないほどに疲労の色が彼女の顔に滲み出ていた。「悩みでもあるのかな、て思って、それとなく訊いてみたのよ。そしたらね、実は今まで言い出せなかったんですけど、て切り出されてね」 ヘルプさんが店に現れる数週間前から、レナが住むマンションの自室に、見知らぬ女性が出没するようになったという。 時にはリビングの中央に、またある時にはバスルームに現れ、レナを一瞥して消えるのである。「でね、レナの部屋に現れた女ってのが、まさにヘルプさんだった、て言うのよ」 そして、店で御祓いを済ませた翌日から、ヘルプさんは毎日レナの部屋に出没するようになった。 最初は無言でレナを見ているだけだったが、日が経つにつれ、聞き取れないほどの小声で何やら呟くようになったという。「それからも、ずっと現れ続けてたみたい。段々と、精神的に不安定になっちゃってね」 ある日、レナが失踪した。 店に「今日限りで辞めたい」とだけ電話を寄越したきり、消息が分からなくなってしまった。 マンションには、彼女の持ち物が多く残されたままだったという。「でね、関係あるかどうかわからないけど」と、ユキさんは前置きした。「レナが住んでたとこって、寮代わりに店が借りてた部屋だったの。彼女が住む前から、ね」  ユキさんは現在、別の店で働いている。「たまにね、あの店で働いてたって子が入ってくるんだけど……店の中でヘルプさんを見たって子も、ちらほらいるのよ」 その店の場所をユキさんにしつこく尋ねてみたが、とうとう最後まで教えてもらえなかった。 


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