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ぬるざら
 はじめから変な温泉でした。入口に噴水があるんですけど、水が出ていない。見ると、溜まった水が茶色く濁って、水面には虫やら葉っぱやらが浮いています。次に、扉の横の看板が目に飛び込んできました。
「節水にご協力を 支配人」
 手書きの赤い文字で、字はそれぞれ人の頭ほどもありました。
 行ったのは、たまたまです。その夜、遊び過ぎて終電に乗り遅れて、どうしようかと迷っていると、ロータリーに温泉の送迎バスが来たんです。千円そこそこの入浴料で、朝まで過ごせると側面の広告にあったんです。
 風呂はいいと仮眠室へ向かった連れと別れて、浴場へ行きました。扉を開けると、強烈な刺激臭が鼻を突きました。塩素です。こんなにどきついのは、プールでも嗅いだことがありません。シャワーはレバーを押すと一定時間水が出るものでしたが、三秒も経たないうちに止まりました。どのカランにも、例の節水看板が貼ってあります。看板はこのあとトイレでも見かけました。
 塩素臭から逃れるように、露天風呂へ行きました。ここも変でした。流れがないのです。看板は天然温泉の掛け流しを謳っていますが、湯が注がれたり、流れ落ちたりする様子がまったくないんです。まるで入口で見た噴水と同じです。
 腹が立ってきました。支配人を怒鳴りつけてやろうと思いました。いや、待て。注水口は底についていることもある。足で湯船の底を探ることにしました。
 湯は濃い茶褐色で、くるぶしまで浸けると、先はもう見えません。肩まで浸かると、水面に何かぎらぎら光るものが浮かんでいるのに気づきました。小さな羽虫の死骸の群れでした。群れは水に落とした油のように、水面全体を覆っていました。飛び出したい気持ちをぐっと押さえ、目をつむりながら歩き続けました。
 足裏が石、砂、苔、葉、枝に触れ、「それ」に触れました。「それ」は体を強く震わせると、さっと泳ぎ去りました。 いい歳の男が、娘のように叫んでしまいました。
 逃げるとき、従業員と入れ違いました。 その老女はキャディ風の帽子を目深にかぶり、バケツと虫取り網を手にしていました。
 ほんとうはすぐにでも出ていきたかったんですけど、連れの寝顔を見ると言い出せませんでした。あれは何かの間違いだったと自分に言い聞かせて眠りました。
 帰りのバスで、連れがふくらはぎの傷を見せながら言いました。
「信じてもらえないかもしれないけど、露天風呂で変な生き物とぶつかったんだ。皮膚はざらざらしてた」
「おまえもか。俺の踏んだやつはぬるぬるしてた」
「じゃあ、ぬるざらだな」と連れは言いました。
 連れも網おばさんとすれ違ったといいます。水面の虫を掬い取るにしては、網目が大きすぎるという点では一致しました。
 







09:25, Wednesday, May 23, 2007 ¦ 固定リンク ¦ 講評(17) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯

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» [超−1]【0】ぬるざら [幽鬼の源から] ×
結局のところ、肝である怪異の存在に費やす文と、その周辺を固める怪しげな状況に費やす文とのバランスが非常に悪いという印象である。 宿の怪しく且つ異常な雰囲気を書かなければ怪異が浮き上がることになるだろうし、かといって大仰に書きすぎると、多くの指摘がある .. ... 続きを読む

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» 【−2】ぬるざら [Forgotten Dreams 「超」1講評から] ×
 <文章>  0  <体験>  −2   <得点>  −2  結局足で触った感触だけであり、それが獣であった可能性も否定できない。 大抵の動物は温泉好きらしいし。  かなり嫌な雰囲気のところであったことはよく判るしその辺りの描写はなかなか巧み。 ただ、 .. ... 続きを読む

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» 【 3】 ぬるざら [hydrogen's blogから] ×
内容: 3文章: 0露天風呂って死んだ虫が浮いてるからイヤなんですよねぇ。冬に行けばいいんだろうけど、冬は寒いから・・。まずもって温泉で「節水にご協力を」が爆笑ポイント。これ直に見たらすげえハイになるだろうな。こういう温泉ですから、何か変な生き物が入り込ん .. ... 続きを読む

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■講評

抑えた調子の独白で雰囲気はあるのですが。
どこか温泉場への不満が伝わってくるのですが、肝心の怪異が弱いかと。
小粒というのではなく、取り上げ方が少ない。
本来主役なのに、怪異であったかどうかも判断できない。
しっかりとした描き方なら想像させる余地はあった筈ですが、それを諦めてしまったんでしょうか、残念です。
素材:0 文章:−1

名前: 夢屋 陣 ¦ 10:07, Wednesday, May 23, 2007 ×


捕虫網の老女も実物の人間なのか分からなくなってきた。
客の様子を見てソレをすくいに来るのか、ワンセットの怪異なのか。
正統的な怪談の語り口だと思うが、冷静すぎてあまり怖くは感じなかった。どちらかというと不思議譚のような印象。

名前: くりちゃん ¦ 14:38, Wednesday, May 23, 2007 ×


うん、奇妙な温泉だというのは非常に良く伝わりました。
独白体、また文章についてはココでは突っ込みますまい。
過去の講評を色々読まれる方がいいです。
それよりも、どこに怪異を見出せば良いでしょうか?
お湯の中で生きてる「それ」のことですかね。
UMAなのか、はたまた普通にお湯の中で生息できる何かか。
正体がはっきりしないものが全て怪異になってしまうなら、そこかしこに怪異が転がってる事になってしまいますよ。
今まで何度も書いていますが、最低限読み手が怪異と認識できるものは書いてください。
「それ」に対する事よりも、温泉に対する不満の面積が広すぎて、奇妙さを押し出したかったのでしょうが、本末転倒ではありませんか?

名前: cross2M ¦ 18:28, Wednesday, May 23, 2007 ×


内容:−2 文章:−1

まず、こんな汚くて設備のきちんとしていない温泉によく入る気になったな〜と。
あと、「ぬるざら」が怪生物(UMA?)ということが話のキモらしいのですが、あまりにも情報が少なくてそれも確定できません。
あえて、文章を削って不気味さを演出しようとしてたみたいですが、失敗してしまったようですね。

名前: ダウン ¦ 22:12, Wednesday, May 23, 2007 ×


とってもいかがわしい温泉ですね。入るのに根性要りそうです。じゃあその怪物の名前はぬるざらという事で・・・。従業員の老女が肝ですね。怪しさは炸裂していました。文章技術評価0 体験談希少度評価1

名前: ナメコ ¦ 00:04, Friday, May 25, 2007 ×


廃墟と見まがうばかりのとんでもない温泉の話は、なかなか面白く読めた。
しかし、肝心の怪異が「露天風呂の変な生き物」だけでは、怪談としては失格。こんなに汚い風呂なら、魚やサンショウウオ、カメなどが棲んでいても不思議ではないし。

名前: ナルミ ¦ 00:51, Friday, May 25, 2007 ×


素材・−2 文章・−2
これほどの温泉が、営業を続けていたという事に疑問。
為に、そこから先は話に入り込めなかった。

名前: つくね乱蔵 ¦ 06:11, Friday, May 25, 2007 ×


これは温泉か・・塩素ってプールとかに入れてるアレですよね・・・硫黄臭いとかじゃなくて?
文章も読みにくいし、「それ」って表現も微妙。
そんなひどい温泉が営業をしているもの疑問だし。

名前: 黒ムク ¦ 12:59, Friday, May 25, 2007 ×


うーん、これは「五右衛門屋敷(デルモンテ平山作)」の温泉版という感があるかも。
これを受け入れられない人は五右衛門屋敷も苦手かも。

さて、塩素臭のする温泉、管理杜撰で藻が生えてる温泉、ふやけきった紅茶葉状の海藻のようなもので茶色く濁り、開けっ放しの窓から、または外湯の外灯に虫が入りまくってる温泉、その虫を避けるために、わざわざ外灯を消しちゃってる真っ暗な温泉というのは実際のところ実在していて、営業しているところもあるので「リアリティが感じられない」ということはない。
千葉県の山中に、ぬるざらとしたものとは出会わなかったものの、これとまったく同じ状況の悲惨な温泉宿があった。海から数十キロも離れているのに「新鮮初鰹フェア」なんかやるようなふざけた宿だった。温泉もチョコレート色で、佃煮のようなものが浮いていて足を入れるとくるぶしから先が見えないほどだった。
秘湯を求めて聞いたこともないような温泉に行ってみたら、これじゃ人コネーヨというとんでもない、営業できてることと、我慢してそこに浸かってる自分に疑問を感じるような温泉というのは有名所じゃないところには案外あるので、著者の怒りとその前提は自分はなんとか受け入れることはできた。
「そういう温泉もあるんだ」という前提をそもそも受け入れられない人(温泉慣れしてない人)には、その後に続く怪異の部分も受け入れられないかもしれない。

怪異の部分について言えば、あっさりシンプルに描かれすぎているせいで、「だから?」で終わってしまっていると思う。この部分にもう少し力を入れてもよかったかもしれない。

個人的には「温泉のオーナーが滅多に客が来ない温泉の浴槽で、オオサンショウウオを飼ってた」と想像w

名前: カエル・ハイド ¦ 13:48, Friday, May 25, 2007 ×


あっはっは!笑ってしまいました。
これはたぶん狸にばかされたんですよ、きっと。
温泉だと思って入ったのは池でぬるざらは
そこで飼ってる鯉かナマズか?
今のご時勢、狸の世界も化かし方が大掛かりに
なっているんですねー。
お風呂だと思って入っていたら実は肥溜めに
だったという狸に化かされたお話の現代版と
勝手に解釈しましたw



名前: 桜子 ¦ 19:57, Friday, May 25, 2007 ×


非常に興味深く読ませていただきました。
こういった「客商売であろう場所なのに、それを感じさせない場所」というのは往々にあるものです。
しかし、直接体をつける温泉でこれというのは酷すぎます。
おまけに足に傷を負わせるほどの謎の生物がいるなんて……。
自分なら絶対に入りたくない類の物です(笑)。
そういえば今温泉には塩素を入れるところもあるとか。
例の「レジオネア菌」が原因のようです。
とはいえ、ここまで塩素の臭いがするということは余程の分量が入っているということでしょう。
そんな「塩素濃度の濃いお湯」で生存しうる生物とはいったい!?
これは確かに怪談であると思いますし、怪スポットの報告でもあるでしょう。
惜しむらくは、カエル・ハイド氏がおっしゃるように「怪異部分の強調」がもう少しあったらよかったかもしれません。ポイントを絞るというやつですね。
とはいえ、面白い一話だと思います。


名前: ひよこ ¦ 22:10, Friday, May 25, 2007 ×


場所や季節にもよるらしいんですが、「野趣あふれる〜」なんて触れ込みの秘境の露天風呂へ行くと、野趣とか通り越して手つかずの自然じゃねえかよ!みたいなトコにも遭遇するそうです。知人がめっちゃ騙されてますw

送迎バスがこの世のものではなく、温泉宿も網おばさんも…だったらものすごいお話です。
ご丁寧に駅まで送ってくれているし、さすがにそれはないかな。
温泉もとにかく変だと言いたいのはわかるのですが(実際異常だし)、クレームをつけたいのか怪異だと言いたいのか判断に困りました;

ぬるざらの正体はめっちゃ気になります。最後の一言で特に。網は虫を掬うためのモンじゃないですよね。
塩素効きまくりのお湯で生きていられて、おばさんが網で捕まえられる生物なんて想像もつかないです。

ですます調ながらも「いやー参っちゃったよー」的な雰囲気がある文章で、恐怖や緊張といったものがゼロになっちゃってるのが惜しいです。
あと、気になったことが。
お連れさんは風呂はパスして仮眠室へ行ったとあるのに、帰りには露天風呂で変な生き物にぶつかったと言っています。矛盾してませんか;

諸々を足したり引いたりして(±0)です。

名前: 13 ¦ 23:53, Friday, May 25, 2007 ×


さて、五右衛門屋敷の経験者である(ニヤリ。でも平山氏に提供したわけではありません)僕から言わせて貰いますと、
こ う い う 宿 あ り ま す よ 。
詳しくはカエル・ハイド氏やひよこ氏が述べているので割愛します。
ただ何となく話を読んでいると、どうもその露天風呂は基本的に使っていなくて、熱帯の水棲生物でも飼っていた恐れがあるのでは?という可能性が濃厚。
だから心霊怪奇とは言い切れないものがあると思いました。それでも何だか変なものに遭遇したという「わけのわからない怖い話」と解釈を広げれば怖い話と言い切れなくもないと、四度目か五度目の読み込みでそう思ってしまいました。
実際、ケイブンシャ版ですと、こういった風味の談話はあったような気がしますし、何だか読んでいたらだんだん気に入ってしまいまして。
いや、ここは単に個人の好みの部類ですので(笑)

名前: 矢内 倫吾 ¦ 00:20, Saturday, May 26, 2007 ×


   -4   0  +4
文章;■■■■□□□□□(-1)…a
構成;■■■■□□□□□(-1)…b
怪異;■■■□□□□□□(-2)…c
恐怖;■■■□□□□□□(-2)…d
嗜好;■■■■■□□□□(±0)…e
※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)

 怪異と同様に温泉をこよなく愛する者です。
 節水云々の看板や塩素臭、湯の流れの変化のなさ、はたまた羽虫などが湯船に浮遊していたり湯の色が濁っていたりと、施設の異常性を細かく長々と語ることで、脆弱な怪異までの雰囲気を盛り上げようとする意図は汲み取れるのであるが、はっきり言えば、これら全ての奇妙な事柄について、私自身実際に体験したこともあり、また、様々な温泉に足を運ぶ温泉ジャンキーからみれば対して珍しいことでもないように思う。
 静岡のとある山奥の温泉などは、浴槽の横に捕虫網が立て掛けてあり「虫や枯葉はこの網ですくってください」と看板が平然と掲げられていたりした。
 この作品の問題点は「そんな温泉ありえねw」という怪異周辺のディティールではなく、怪異そのものの脆弱さにあるように思う。
 ところで「風呂はいいと仮眠室へ向かった連れ」は、何時の間に入浴したのであろうか。

 己の経験や知識の乏しさを棚に上げて他者の作品を貶めるのは如何なものかと。
 特に自ら怪異を綴る者であれば、作品の作者に対しては少なくとも敬意を払うべきではないか。

名前: 空 ¦ 00:17, Sunday, May 27, 2007 ×


連れはいつ、露天風呂に行ったのでしょうか?他に客はいなかったのでしょうか?雰囲気は出ているのに、疑問点が邪魔をしている。文体は途中で慣れたので問題ありませんでした。

名前: ペペ ¦ 10:42, Monday, May 28, 2007 ×


なんだか好みな作品です。
話のウェイトが温泉の方に向きすぎなのは確かだけれど、怪異の描写が「ぬるぬる」と「ざらざら」。
何だか「盲人が象を語る」の話を思い出しました。
全容がどのような化け物なのか、想像するだに恐ろしい。
一般的な温泉の温度で生息できる水生生物はほとんどいないでしょうからね。

名前: 藪蔵人 ¦ 23:47, Monday, May 28, 2007 ×


体験した本人ですら、話を纏め切れてないように思う。
それが、テープレコーダーに吹き込んだ内容をそのまま書き起こしたような文章にも表れている。
ただ、文章の大半を温泉の異様な情景の描写で費やしてしまったのは勿体ない。これで、シチュエーションを盛り上げるような文章ならまだよかったのだが。
考えようによっては、この温泉自体が怪異という見方も出来る。しかし、送迎バスに乗ったりしているところを見ると、その可能性も薄いか。
山場は湯の中で何かを踏んだところだろうが、踏んだだけでは少々弱い。また、寝ていたはずの友人が、いつの間にか風呂場へ行ってしまっているのも唐突すぎてついていけなかった。
その流れでこのオチを持ってこられても、話の面白さが伝わってこない。


名前: GPZ ¦ 22:39, Wednesday, May 30, 2007 ×



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