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美千代さんの実家には小さな裏山があって、そこには「流し」と呼ばれる小さな沼があった。 「流し」 台所の流しのような発音ではない。流しの芸人とか、そういう「流し」のアクセントである。 沼だから「流し」はおかしいのではないか、と彼女は子供の頃思っていたという。 どこからも流れ込んでいないし、どこへも流れていかない。 にもかかわらず、大人たちはその沼を「流し」と呼んでいた。 引っ張られるから子供は行ってはいけない。 大人たちにそう戒められていたのにもかかわず、彼女は「流し」が好きだった。
夏でも、冷たそうに澄んだ水を湛える小さな沼。 そう。不思議なことに水は澄んでいて、相当な深さがあるのか底は見えない。 名前も分からない小さな魚が群れになって身をくねらせる。 魚は一杯いるのにも関わらず、少年達の姿をそこで見たことはない。 と、いうよりその裏山で男達の姿を見ることは全くなかった。 山の所有者である美千代さんの父親ですら。
誰それの奥さんが「流し」で…… たまに、家の女達がヒソヒソと噂話をするのを聞いた。 女が沼の水を飲むと子供が堕ちる。 そんな、噂話。 小さい美千代さんにはどうせ分からない。
夜に「流し」を訪れると、たまに不思議な物が見える時があった。 沼の底から、小さな青い光が無数に空に向かって飛び立つ。 蛍ではない。 青白い、炎。
初潮を迎えた十三の春。 美千代さんは自分もいつかこの沼の水を飲むのだろうか、と思った。 「流し」 正確には「子流し」という。 今は、もうない。
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受信: 02:14, Wednesday, May 30, 2007
■講評
重いお話でした。 鬼灯やら朔日丸やら、昔はのどかな反面、闇の部分は現代よりもずっと深かったということでしょうか。 そのような口伝があるにもかかわらず澄みきった水面というのはもの悲しいし、凄みがある。
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名前: くりちゃん ¦ 09:45, Saturday, May 19, 2007 ×
内容:1 文章:1
沼のいわれは、悲しくて重いものでした。 青白い炎よりも男達が近寄らない場所、あるいは近寄ってはいけない場所というところが、不気味です。 なおかつ、澄んでいて底が見えないのも神秘的です。 |
名前: ダウン ¦ 22:00, Saturday, May 19, 2007 ×
怪異としては「青白い炎」だけで物足りなかった。 話自体は興味深いのだが。
ダイオウ・センナ・ホオズキなど、堕胎作用を持つ薬草は多いので、沼のまわりにそういう植物が群生していたりしたら、説明はつくのかもしれない。 |
名前: ナルミ ¦ 00:47, Sunday, May 20, 2007 ×
-4 0 +4 文章;■■■■■■■□□(+2)…a 構成;■■■■■■■□□(+2)…b 怪異;■■■■■■□□□(+1)…c 恐怖;■■■■■■□□□(+1)…d 嗜好;■■■■■■■□□(+2)…e ※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)
実際に起きた怪異は些細なものであるが、沼を含む周辺のディティールがこの作品の質を押し上げている。 そしてその些細な怪異が、堕胎した実例は挙げられていないものの、全てを物語っている。 文章も淡々と事実のみを語る形で、冷静さと透明感を併せ持つものであり、怪異の本質を見抜いたうえでこのような文章を選択したものと思われる。 筆者の方の技量の高さが伺えるなかなか秀逸な作品である。 |
名前: 空 ¦ 12:36, Sunday, May 20, 2007 ×
| 不思議なお話でした。青い光は流しの水により堕胎された胎児たちの魂でしょうか。物悲しくもあり、美しい風景だと思います。文章技術評価1 体験談希少度評価1 |
名前: ナメコ ¦ 14:01, Sunday, May 20, 2007 ×
重く、切なく、それでいてなんと言うかちょっと幻想的な情景。 丁寧に書かれた文章にかなりの好感度を持ちます。 ただ、男の姿がその沼の周りで見られないことへの解が示されないのであれば、わざわざ書く必要もなかったのでは?と思うのですが。 青白く上る炎のような光。 怪異としては弱いが、脳裏にさらっと浮かんだ情景は、本当に美しかった。 無粋ですが、美千代さん、おませちゃんですな 内容0 文章+1 |
名前: cross2M ¦ 03:03, Monday, May 21, 2007 ×
美しい文章で哀しく切ないお話。 う〜ん、とかくインパクトを求めがちな怪談とは一線を画す叙情的な物語で、評価は分かれるところではないでしょうか。 怖さとは違うものが込められていると思いますし。 個人的には、正直物足りない印象。 素材:+1 文章:0
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名前: 夢屋 陣 ¦ 13:58, Monday, May 21, 2007 ×
怖い!というわけではないのに、印象に残りそうなお話でした。 実際には「流し」の水そのものに堕胎の効果はなく、何か悲惨な過去があってそう言われるようになったのではないかと勝手に想像。青白い炎というのも何かを思わせますね。どれもうまく表現できず、「何か」としか言えないんですがorz
「流し」の発音については……田舎住まいのため自信なしw |
名前: 13 ¦ 23:09, Monday, May 21, 2007 ×
怪談に接していると、必ずぶつかるふたつの闇、「飢餓」と「堕胎」。後者は特に目を覆いたくなる話が多く、正直読むのがつらいものです。 が、この作品では、ずいぶんと感触の違う扱いとなっていて驚きました。 堕胎という言葉の持つ陰惨な血のイメージを、沼の水の透明感と静かに飛び立つ青い炎という情景描写で払拭させ、非常に叙情的なものに昇華させているところに、筆者の美意識の高さを感じました。
当初は、神秘的な沼の情景のあとに、男は誰も近づかないとあるのを読んで、てっきり男性を忌む神様系の話になるのかな、と思いかけたんですよ。ところが、子供を堕ろすことに使われる禁忌の場の話へと続いたので、かなりどきりとしました。冒頭の「流し」は、こういうふうにつながってしまうのか、と。 実際には、沼の水を飲むとしか書かれていませんが、もしかしたら、水を飲んで流産させるだけでなく、嬰児をこの沼に沈めていたのかもしれませんね。
終わり近くにある美千代さんの言葉が印象的でした。 初潮を迎えるとともに「流し」の存在を強く意識して、女としての性と業を負う覚悟をするとは、なんというせつない幼年時代の終わりでしょうか。深い余韻を残します。 |
名前: こころママ ¦ 10:47, Tuesday, May 22, 2007 ×
素材・2 文章・1 深い、というか渋いというか。 たまにこういう話を読むと、心底 ほっとする。 哀しく、切ない話である。 |
名前: つくね乱蔵 ¦ 17:24, Friday, May 25, 2007 ×
| こういう事実という提示。それでもはっきりしたことはわからない。そこにこの話の重さと深さを感じる。ラスト、美千代さんが子供心に感じたことに、怖さを感じる。 |
名前: ペペ ¦ 14:20, Sunday, May 27, 2007 ×
女の「業」みたいなものを感じられる怖い話です。 表面上、澄んでいて美しい。 しかしながら底の方には何か冷たいものが流れているようで。 古い話のようで、男性側のコミュニティの話を聞ければなお面白かったのですが。
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名前: 藪蔵人 ¦ 20:24, Sunday, May 27, 2007 ×
ううーだからついさっき「恐-1グランプリ・インプリント・ぼっけえぎょうてえ」見たばっかなんだってばー! 岩井志麻子さんの拷問する遊女の役がすッごいはまってて「きょうてぇ」っす。 みなさん一見の価値はありんすよ…、ってこの映画とイメージが被ってるところがたくさんというか、原作と被っている部分もかなりというか。 これはパクリといっているのではなく、僕にとってはすでに遭遇ネタであったので、印象点だけを加算しているという意味です。 (しかも映画版はかなりグロかった…) あのホラ大作家の志麻子さんの作品も、意外にこんな話がベースになってるのかも知れませんね。 なんとも淋しいお話です。
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名前: 矢内 倫吾 ¦ 23:09, Sunday, May 27, 2007 ×
怪異としてはやや食い足りないように思うが、それを補ってなお余りある存在感が「流し」にはある。 文章としても、話にふさわしい陰鬱さを漂わせている。提供者の主観をほとんど交えないことで、山間部の伝承を聞いたような感覚に陥る。 青い鬼火は、流産させられた赤子の無念さの表れだったのだろうか。そんなことを考えさせられる。 |
名前: GPZ ¦ 02:21, Wednesday, May 30, 2007 ×
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