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「超」怖い話を続けていて、ときどき「怖いというのはどういうことか」がわからなくなることがあります。 自分なりの理解がなければ人に説明できない一方で、万人に通じる論理的な説明というのがあるとは断言できないのが怪談でもあります。 伝わらないから伝わるように、と考えているうちに、だんだん「怖い」ということそのものがわからなくなってくるわけです。
「超」怖い話の読者を怪談ジャンキー(恐怖中毒)と呼ぶようになったのは竹書房に移ってからですが、その竹書房版「超」怖い話Aなどで、こう書いたことがあります。 ――恐怖感は麻痺するもの。 麻痺もあるし、混乱もあります。様々な恐怖の類型に触れていくうちに、何が怖いのか、自分にとって怖いものが何か、そういうものがわからなくなっていくのです。
また、馴れてしまう、ということもあるかもしれません。 これまでの取材を通じて、「恐怖に日常的に接している人は、不意打ちに対してびっくりすることはあっても、繰り返される事象に対して恐怖を感じることは少なくなっていく」という事例を幾つも見てきました。霊感がある人、日常が怪談過ぎる人は、そうした怪異体験を怖いとも珍しいとも思わなくなっていく。興味も薄れていく、という話。 拙作「禍禍」の執筆動機になったのもそれでしたし、先頃上梓した「弩4」の執筆動機もそれでした。 怪異を体験するのではなく、取材して追い続ける側にも同様のことは確実に起きます。追いすぎることによって、馴れすぎてしまい、また麻痺してしまうのです。
馴れだけではありません。 昇華してしまうという人もいます。怪談を語ることが目的なのではなく、語りたいことが怪談だった、というケース。自分の怪異体験談を語り尽くしてしまったら、もうそれ以上特に怪談だけを語りたいわけではないということに気付いてしまったり。怪談を語らなければならない必然を全部消化してしまったことによって、怪談を書かなければあんらない理由がなくなってしまう。そうなるともう書けません。いや、書く必然から解放されたと言ってもいいのかもしれません。それはある意味ではめでたいこと、怪談の呪縛からの離脱だと思います。
もし、「ずっと実話怪談を見聞し、それを書き続けていきたい。できればそれを仕事にしたい」と思っているのだとしたら、この「麻痺」と「困惑」という感覚と、どう対峙するかというのがひとつの課題になるのは間違いありません。 この対峙の方法や、怪談を書かなければならない必然の追究というのには、正解とかベストの解決策といったものはありません。 超-1の作品応募の際に繰り返し訊ねている設問―― 【あなたが怪談を書く必然的理由はなんですか?】 というもの。この問いは、この「怪談がわからなくなる」という状態に陥ったときに、そこから抜け出すため、自問自答するためのヒントにはなるかもしれません。
「怪談がわかってしまって、書く必要がなくなる」という人もいるかもしれません。 「怪異はもう怖くなくなった」という人もいるかもしれません。恐怖を克服できたということもあるかもしれません。 「怪談が好きだから書いているつもり」という人は多いと思うんですが、「好きって、どういうこと?」という疑問にいずれ苛まされることになると思います。
言えることはただひとつ。 「怪談がわからなくなる日」というのは、怪談を長く書いていると必ず陥ることです。 集中的に書いていると、それは非常に顕著に表れます。これは怪談脳の疲弊疲労といってもいいような状態です。 今、昨年の超-1から選ばれた人々がそれぞれの単著に没頭していますが、彼らもぼちぼち「怪談がわからなくなる」という事態に遭遇しつつあるかもしれません。彼らに限らず、昨年参加して今年参加しなかった人の理由に、そうしたものがあるかもしれません。 今年参加した人の中にも、この症状が現れた人がぼちぼち出てき始めてるんじゃないかと思います。
特にアドバイスはできませんが、 「なんで怪談書いてるんだろ?」 「どうして怪談じゃなきゃダメなんだろ?」 「自分がそれを怖いと思えないのはなんでだろ?」 そういうことを自問自答する時間を設けて、それでもダメならその体験談はお蔵入りさせるといいですよ。
体験談はワインと同じで、ヌーヴォーばかりではありません。 書きごろ、読ませごろになるまで寝かせた末に、「今書け」と体験談の側に指名されるまで待たされるものも多々あります。 ネタはあるのに書きたい気がしない。 たぶん、それが「怪談がわからなくなっている」ということだと思います。
それを越える方法を自力で会得できなければ、仕事として実話怪談を【続ける】のは難しいかもしれません。
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