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右から左へ
大村さんはタクシーの運転手をしていた事があった。
ある夜遅く、お客を送った後に山道を走っていた。
街灯はまばらで、他の車と行き合う事も少なかった。
その暗い道を走っていると。

ドスン

と車が揺れた。
何か大きなものを踏んだ様だった。
大村さんの会社では、以前、酔って道の真中で寝ていた人を轢いてしまった運転手がいた。
大村さんはもしや、と車を停め、懐中電燈を手に外に飛び出して車の下やその周りを確認した。
何もなかった。
(何だったんだ?)
と思っていると。

「にぃちゃん、乗せとくれや」

と声がした。
振り向くと、いつの間にか男がタクシーのそばに立っていた。
少し離れたところでぼんやりとあたりを照らしている街灯の明かりの下、男の黒縁眼鏡とにこにこと笑っている口元が何故かよく見えた。
「え…」
周りに人家も無い様なところで、不意に現れたお客を大村さんがながめていると

バカッ

と。車の後部座席の左右の扉が同時に開いた。
大村さんは何もしていないのに。
いきなり開いた扉に驚いていると、黒縁眼鏡の男は笑いながら後部座席の右の扉から車に乗り込み、そしてそのまま左の扉から外へと出て行った。
「?」
何してるんだ、この人?
と男の様子を見ていると
次には男はまた笑いながら右の扉から車に乗り込んで、そのまま左の扉から出て行く…という動作を繰り返した。
大村さんはその様子をほうけた様に見ていたが、はたと我にかえり
「おいっ!何やってんだッ!」
と怒鳴った。
すると。
男は狂気めいた笑い声をあげてガードレールの向こうの、崖といってもいい様な草木の生い茂った急な斜面に飛び込んだ。
「ちょっと!」
大村さんは男を追って藪を見下ろしたが。
すでに男の姿は無かった。

大村さんが車庫に帰って後部座席を見てみると。
シートには犬猫に似た足跡がたくさんついていた。

「タヌキかキツネだったのかな、ありゃあ」
大村さんは困った様に首をひねった。








06:30, Saturday, May 05, 2007 ¦ 固定リンク ¦ 講評(18) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯

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■講評

これは手の込んだ化かし方ですね。
超-1にも獣が化かす話は出てきますが、これは何だかユーモラスだ。
この手の作品は私の好みでもある。楽しみました。

名前: くりちゃん ¦ 11:14, Saturday, May 05, 2007 ×


狐狸のたぐいが人間を化かすのは、なんでも彼らにとっての『修行』にあたると何かの本でお目にかかったことがあります。たくさんの人間を化かしてなおかつその正体を見破られない事ほど年を経た『狐狸』と認められるそうです。
こういった修行に励んでいる狐や狸がまだいるんですね。この事件の場所に行って見たい気分です。
それでも、僕が子供の頃は埼玉の×戸や×橋あたりでも『ムジナが出る』なんていってたんですから考えてみると笑えます。今じゃ都内への通勤圏ですから〜(笑)
このお話って、個人的にはラストの足跡のくだりはなくても投げっぱなしでけっこういけてたとも思えますが、いかがなものでしょう?
僕はそっちの方が好みなのですけど。

名前: 矢内 倫吾 ¦ 16:48, Saturday, May 05, 2007 ×


狸狐話ってなんかおとぎ話を
読んで貰ってるような
懐かしい感じをうけますね

名前: ハッシー ¦ 19:15, Saturday, May 05, 2007 ×


狐狸に化かされる話というと昔話と相場は決まっている訳ですが、この手の現代の実話怪談集の中にも時折出てきますね。
この話は途中まではそんなことは匂わせずに、最後になって初めて後部座席の足跡から化かされたことが解ります。怖いというより、なんだか微笑ましさすら感じます。

文体は特に問題ありませんが、「バカッ」とか「ドスン」という部分の前後に空白行を入れるというのはあまり効果的ではない上に、先にそちらに目が行ってしまって読む妨げになりました。

名前: 慎 ¦ 00:57, Sunday, May 06, 2007 ×


意味不明度が高くて面白い。
ただ、ラストの大村さんのセリフは、やはり不要だろう。

名前: ナルミ ¦ 01:09, Sunday, May 06, 2007 ×


化かされていない視点で眺めてみたいですね。獣が車内を経由しつつぐるぐる回ってる横で、木村さんがあたふたしてんですよ。
木村さんには申し訳ないですが、想像するとめっちゃ面白いw

私のような鈍い者にとってはとても親切なラストです。が、狐狸系のお話はどこかコミカルで、読み進むうちに見当がついてくるものが多いですね。
「あいつらだな、フフ」と余韻を楽しみたかったりもするので、ラスト1行はなくても良かったかも。

名前: 13 ¦ 21:23, Monday, May 07, 2007 ×


内容:2 文章:0

狐狸系なヤツらが今も元気で、なんか安心しました。
実際にあったら怖いですが、文章で読むとすごくユーモラスですね。
木村さんの困惑した顔が浮かんできます。

名前: ダウン ¦ 08:08, Tuesday, May 08, 2007 ×


頑張ってるんだな、狐狸。自分の前にも現れてくれないものか。
彼らは化かしていると分からせないのと、わざと化かしていると分からせているものありますが、どちらがキャリアのあるモノの化かし方なのだろ。
いや、単に楽しんでいるだけかな。どうも彼らの手口はユーモラスです。
これは足跡がなければかなり怖い話だったでしょうね。
素材:+2 文章:0

名前: 夢屋 陣 ¦ 17:01, Wednesday, May 09, 2007 ×


多分、狸か狐を跳ね飛ばしたとか、足を踏んづけたとか、そんなところで逆襲(といっても実害は無いが)されたのじゃあるまいか。
なんて想像しましたな。
いやはや、狐狸の類というのは愉快な化かし方をよくしてらっしゃる。
「バカッ」は、最初唐突に男から発せられた言葉だと思って、なんだこれ!?おもしれぇ!とそこで身を乗り出したのだが、ドアが開く擬音だとわかり、期待した分すかされた気分だった(って自分が勝手に感違って期待を膨らませたんですけどね)orz
にしても、狐狸、どうしても遭遇してみたい!
前大会のkori-1でも開催してみるかな(ォィ
内容+1 文章+1

名前: cross2M ¦ 16:54, Tuesday, May 15, 2007 ×


狸狐落ちですね。しかし彼らの目的は何なのでしょうか?暇なんですかねえ。
運転手さんのあっけにとられた姿が思い浮かびます。
文章技術評価0 体験談希少度評価1

名前: ナメコ ¦ 16:59, Tuesday, May 15, 2007 ×


   -4   0  +4
文章;■■■■■■■□□(+2)…a
構成;■■■■■■□□□(+1)…b
怪異;■■■■■■□□□(+1)…c
恐怖;□□□□□□□□□(-)
嗜好;■■■■■■■□□(+2)…e
※(a+b+c+d)/4…総合点(小数点以下第1位四捨五入)
※この作品は、恐怖と直接紐付けする必要性がないと判断したので、評価項目からは除外した。

 オーソドックスな狐狸に化かされた話としてはなかなか面白い。
 あまり余計な肉付けもないのに、情景がすんなりと頭に思い浮かぶのは文章が達者だからであろう。
 今大会では狐狸妖怪に化かされる話が複数公開されており、彼らもまだまだ現役なのだなと思うと嬉しくなる。
 当事者が怒鳴って怪異の行動を制止しなければ、この怪異は次にどのような行動をとっていたのか、非常に興味深いところである。

名前: 空 ¦ 08:40, Friday, May 18, 2007 ×


文章:0 怪異:1
車のドアが勝手に開いたり、シートに動物の足跡が残っていた、というのがなければ
"変な人の悪戯"
ともいえるのだろうが。
狐狸もまだまだ頑張って(?)いるらしい。

名前: コウ ¦ 12:33, Friday, May 25, 2007 ×


まるで吉本新喜劇のような怪異だ。狐狸の類はなぜ人を化かす(馬鹿す)のだろう。他人事だから笑えるが当事者はシャレになんないだろうな。

名前: ペペ ¦ 06:05, Saturday, May 26, 2007 ×


昔話の「化かされ」話って、けっこう連中も筋の通った化かし方をしてる気がしますけど。
人間の欲の部分を刺激したりして。
現代の彼らは不条理系なんだよなあと、今大会を通じて思いました。
脅かし方のプロだから、色々勉強しているのかもしれない。
狐狸妖怪の類は怖くてもなんだかほのぼのしますね。

名前: 藪蔵人 ¦ 23:38, Saturday, May 26, 2007 ×


男の行動の意図が掴めない点が面白い。
意図がつかめないからこそ、あやかしなのだろうが。
足跡の記述があるのだから、最後の台詞は蛇足だったのではないだろうか。

名前: GPZ ¦ 22:54, Monday, May 28, 2007 ×


狐狸妖怪の話としては面白いほうだと思う。
最後に一文はなくても読者には十分伝わってきているので不要であろう。

名前: 黒ムク ¦ 11:42, Tuesday, May 29, 2007 ×


素材・1 文章・0
右からやぁって来た〜と。
狐狸たちには頑張っていただきたい。
その意味を込めてこの点数を。

名前: つくね乱蔵 ¦ 19:12, Wednesday, May 30, 2007 ×


最近の狐狸は人を化かす以外にも車のドアを自動であける術を身に付けたのでしょうか。
何の為に後部座席を行き来したのかは謎ですが、怖いというより想像すると可愛らしいお話です。
冒頭の何か大きな物を踏んだってまさか…ですよねぇ。

名前: フジ ¦ 22:35, Thursday, May 31, 2007 ×



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