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「ゆっくりお風呂入ろうと思ってさぁ」 その晩、家族は皆出払っており由希子さんは自宅の一軒家に一人きりだったそうである。 シャワーで髪と体を洗い、濯ぐ。 風呂の蓋を開けて湯船に片足を付けようとしたその時。
〈コォォォーッ〉という聞き慣れた音と共に、背後でスライドドアが開いた。
〈え?〉と思って振り返ると、脱衣場から紐の付いた何かが勢いよく飛んで来て、湯船に落ちた。 ドライヤーに見えた。 即座に〈バチン〉と何かが爆ぜる大きな音。 由希子さんは反射的に目を瞑ったが、目を開けても真っ暗のまま。 どうやらブレーカーが飛んでしまったらしかった。
浴室には一応小さな明かり取りの窓があったが、既に夜も遅い時間である。目も慣れていない。視界には青い火花が残像となり張り付いるだけだった。 見えない、見えない。 ひとりで留守番していたので、家人はいない。しかし誰かが、それも明白な悪意を持った誰かがドライヤーを投げたのは間違いなかった。 そしてその誰かは、今もすぐ近くにいる。 忍び寄る気配はなかったが、立ち去る気配もやはりなかった。 彼女はパニックに陥った。手探りで出口を探す。何かに次々とぶつかる。 何か、腰ほどの高さのものにぶつかって、斜め前へ倒れ込んだ。
「それでもう、滅茶苦茶。右も左も解らなくなっちゃった。でも今考えても、腰の高さのものなんて浴室にあるわけないし……」
彼女は毎日使っている浴室とは到底思えなかった。 頭をぶつけ、自分の意識が連続しているのかどうかさえ自信が持てない。 方向感覚など完全に失われ、そのまま殆ど身動きが全く取れなくなり、叫んだ。
乱暴に闇を?くと、彼女の両手が何かを掴んだ。 それは堅く、丸い。何か繊維状の柔らかいものがうっすらとついている。 これはなんだ。 意図したわけではないにしろ、彼女はそれを思い切り掴んでいた。 〈ぷつり。ずぶぶっ〉 彼女の両手の親指が何か弾力のある表面を破き、侵入した。 〈キャハハハハッ!〉 子供のような甲高い笑い声がした。由希子さんは最初、自分が笑っているのかと思ったが違った。 笑い声は反響してはいたが、一番強い振動が彼女の親指、手のひら、腕へと伝って来た。 これは頭だ、と彼女は直感した。 叫びながら頭を払うと、思いの外簡単に退けることができた。由希子さんは逃げ出した。尚も笑い声は続いていた。 どうにか浴室を脱出し、やはり真っ暗な廊下へ這い出た。一番手近な玄関のドアを手探りで解錠し、彼女は全裸のまま飛び出した。 夜だというのに、外は街灯が灯って明るかった。 そして逃がすまいとしたのか、裸でどこへも行けないと思ったのか。
「自分でも何でかよく分かんないんだけど、玄関のドアをね」
ドアを外側から押さえ始めたそうである。 笑い声は、外からではまるで聞こえなかった。
「押さえてる間、すぐ左にね、バスルームの窓があるから……そこ見るのは嫌だったんだけど」
少しの間そうしていると、聞き慣れた車のエンジン音が聞こえてきた。両親だった。 両親は何とか由希子さんを落ち着かせた。 由希子さんが今起きたことを話すと、両親は恐怖し憤慨した。すぐに母が警察を呼び、父がゴルフクラブを構えた。 変質者に違いないということである。 警察が来るまでの間、父が家の中を見回ったがバスルームにもどこにも、誰も見つからなかった。 玄関のドアが唯一、人間が通れそうで鍵の掛かっていない逃走ルートだったが、その前ではずっと由希子さんがドアを押さえていた。 2階のトイレなどは無施錠だったが、警察の調べでも誰かがそこを通った形跡はないとのことだった。 ドライヤーは確かに通電状態で湯船に落ちており、これが原因でブレーカーが落ちた。しかし家族以外の指紋はなかったらしい。
数年後、近所で下着泥棒が逮捕された際にも、警察が彼女に「この男に見覚えはないですか?」と聞いてきたという。 由希子さんはあの時浴室にいた誰かが人間であるはずがないと、今も思っている。
「人間だとしたら逃げられるわけないよ。だって――」
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受信: 06:24, Sunday, May 27, 2007
■講評
ドライヤーが投げ込まれたことに殺意のようなものを感じた。 それだけにその後に起こるであろう怪異に期待が大きかったせいか、少しがっかりした。 後半がだらだらとした感じもある。 丁寧に書こうとしたのはわかるがもっとサクッとした書き方で読ませてもらったほうが怖かった気がする。 「人間だとしたら逃げられるわけないよ。だって――」その後の言葉は特にこれだということがらが浮かばないので必要だったのか疑問を感じる。
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名前: 黒ムク ¦ 13:29, Wednesday, May 02, 2007 ×
まん中あたりが冗長だったと思う。腰くらいの高さの、云々という行。 通電状態のドライヤーが湯船に落ちるなんて危機一髪、サスペンスドラマのようだ。 子供のような印象を持たせるモノだが、じつはかなり禍々しい物の怪だったようだ。
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名前: くりちゃん ¦ 15:54, Wednesday, May 02, 2007 ×
未整理のまま書いてしまった印象。 書き込んである割りに情景がうまく思い浮かばない。 ドライヤーが投げ込まれるという現実的な怖さの方が強烈で、それが人外の存在の仕業という印象が薄い。感触と子供の笑い声というのは書いてあるが、何故か怪異の存在感が薄く感じる。 素材:+1 文章:0
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名前: 夢屋 陣 ¦ 16:19, Wednesday, May 02, 2007 ×
点数入れるの忘れてましたorz 以下変わらず。
「〜だって――頭に指がめり込んだもの」? …イヤー!! 自分がこの状況下に置かれたら…と考えたら、今大会の作品の中でかなり上に位置づけられるイヤさ加減でしたorz ドライヤーがぶっ飛んでくる時点で失神するかも。 怖かった、とにかくイヤー!!(つД`)*。 |
名前: 13 ¦ 00:44, Friday, May 04, 2007 ×
| 怪異と言えるのは「頭に指がめり込んだ」ところだけで、残りはすべて東京伝説的な「現実的な恐怖」である。そのため、怪談として中途半端になってしまった。 |
名前: ナルミ ¦ 01:23, Saturday, May 05, 2007 ×
内容:2 文章:0
細かく描写されているのに、なぜか状況がわかりにくかったです。 起こっていることを考えると、相当怖い話なのですが。 特に子供が笑っているところなど。 少し、惜しい気がします。 |
名前: ダウン ¦ 09:35, Saturday, May 05, 2007 ×
ファーストシーンが007ですねえー。 ジョーンバリーの音楽が聞こえてきそうです (ウソです) 状況を喚起するために何度か読み返してみたのですが、Jホラーのような怖い展開にも関わらず、じんわりとした湿り気を感じない部分がありました。 うーん、揚げ過ぎのフライドチキンというような。 情景描写が段階を追いすぎて、あまりにも丁寧すぎるのではないかと。幽霊的な怖さと、ホラー的グロさの対比に多少アンバランスなものも感じます。この手のお話でしたら適度な緩急があった方がもっと盛り上がる気もしなくもないと思います。 あるいはどっちかに徹底してしまうとか。 何か化ける要素を多分に秘めているので惜しいなという気持ちが強い作品でした。
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名前: 矢内 倫吾 ¦ 19:36, Saturday, May 05, 2007 ×
最後の「だって」に続く解を探そうと再読してみたのだが、これといって見つからなかった。 あえて言うなら、頭と思しきモノに指が食い込んだ辺りか。 この締め方は、あまりにも適当ではないか。 ほぼ全ての怪異は、このような締め方が可能であるにもかかわらず、きちんと落とし所を見つけて、処理して、書いているのである。 最後の最後で適当に終わらせられたら、そこまでをきちんと読んでいた読み手に対して、失礼ではないかと。 といっても、怪異の悪意さは十分伝わってきますし、丁寧に事象を描写しようという心遣いは、うれしいです。 私はうまくそれに乗れませんでしたが、時間の問題だと思います。 楽しみです。 内容+1 文章+1 |
名前: cross2M ¦ 14:17, Tuesday, May 15, 2007 ×
悪意を感じる不思議なお話でした。体験者さんのパニック状態が伝わってきました。 その後、怪奇現象は起こっていないようですが、一体なんだったんでしょうね。 通りすがりの霊に襲われたのでしょうか?文章技術評価1 体験談希少度評価1 |
名前: ナメコ ¦ 16:12, Tuesday, May 15, 2007 ×
-4 0 +4 文章;■■■■■■■□□(+2)…a 構成;■■■■■■■□□(+2)…b 怪異;■■■■■■■□□(+2)…c 恐怖;■■■■■■■□□(+2)…d 嗜好;■■■■■■■■□(+3)…e ※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)
幼い怪異の悪戯にしては少々性質が悪い。悪意が剥き出しでかつ凶暴である。 当事者と怪異との関連が全く書かれていないのだが、通り魔的犯行の可能性が非常に濃厚である。 怪異に遭遇するまでの描写は段階を追って非常に細やかに描かれているのであるが、そのことが理路整然とし過ぎていて恐怖を伝えにくくしているように思う。 おそらく腐敗してぐずぐずになっているのであろう何者かの頭部に当事者が指を突っ込んでしまう場面などはもう少々繊細に表現したほうが恐怖が際立ったように感じるのであるが如何か。 |
名前: 空 ¦ 08:31, Friday, May 18, 2007 ×
| 怪異は非常に怖いと思う。難しい(そうでもないか)言葉をわざわざ選んでいるようで、読みづらい部分が出てきた。「ドアを開錠して」→「ドアを開けて」でいいのでは。 |
名前: ペペ ¦ 11:44, Friday, May 25, 2007 ×
素材・1 文章・−1 ドライヤーというあからさまな悪意を 持つ怪異の割りに、後の攻撃が弱い。 酷い言い方だとは思うが。 文章も尻すぼみに終わってしまった感がする。 |
名前: つくね乱蔵 ¦ 16:22, Friday, May 25, 2007 ×
これ、死んじゃうじゃん。 出てきたモノが子供っぽいだけに、そんな事したらどうなるのか分からなかったのかも。 そう考えると、明確な殺意がある場合より私には怖く思えました。 問題点は、頭を掴む辺りの描写ですかね。 ここで生理的嫌悪感のようなものを伝えられるか。 単なる情報として終わってしまうかで作品の印象はずいぶん違うと思います。 |
名前: 藪蔵人 ¦ 23:24, Saturday, May 26, 2007 ×
ドライヤーを湯船に投げ込まれたところが最も印象強かった。よく無事でいたものだ。 その印象が強すぎるせいで、暗闇の怪異の部分が弱く感じる。本来なら、視覚を遮られた状況下は、恐怖を煽るのには十分な舞台であろうに。 後半、やや書き急いでしまった印象がある。 最後の台詞も、投げっぱなしにしないほうがよかったのではないだろうか。 |
名前: GPZ ¦ 21:16, Monday, May 28, 2007 ×
こういう話を聞くと、これから家族が留守の時この話を思い出し、一人で入浴出来なくなりそうです。
ドライヤーを投げ込まれる、悪意なのか悪戯なのか、どちらにしても危ない事には代わりないですが、それに加えてめり込んだ親指。 逆に暗闇だったから救われたのかも、だって頭部にめり込んだ親指を見たくはないし。 子供らしき者も子供で無いかも知れないですしね。 |
名前: フジ ¦ 22:11, Thursday, May 31, 2007 ×
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