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入り江
「怖い話?」
港町の酒場で知り合った彼は、私の申し出に頷いて、焼酎の入ったグラスを一気に煽ると、こんな話をしてくれた。
「ここから二十キロばかし行ったところにAという地区がある。狭い浜しかない小さな集落で、今は住民がまったく住んでいないんだけどね」

A地区は彼の住む町から県道を二十キロばかり北に進んだ場所にある。
十数戸の民家と猫の額ほどの小さな浜があり、集落の住民は、漁や地引網などで細々と生計を立てていた。
ところが、二十年ほど前から、近くを流れる潮の流れが変わり、近隣の入水自殺者や海難者の遺体が、次々とこの浜に流れ着くようになってしまった。
それからというものの、水死者の霊が夜になると家々の合間を徘徊するようになり、住民全員がその集落から退去してしまったというのである。

「まあ、あくまで噂話だったんだけど、あるときそいつを確かめに行こうなんて物好きな友達に声を掛けたわけ。そんときゃまだ若かったから、田舎町の娯楽なんかじゃ刺激足んなかったんだね」

その晩、彼は相棒を伴って車で県道を北上、噂のA地区に向かった。
右手には真っ黒な夜の海が広がり、漁船の漁火がちらほらと見える。
この地域は、彼らの住む町を越えると大きな人口密集地というものがなく、県道に沿って昔ながらの小さな部落が続くのみ。
コンビニも対向車も存在しない深夜の道路を走り続けると、ライトの光輪の中に案内標識が浮き上がった。
『××村A地区』。
「お、ここらだ」
暗くてよくは見渡せなかったが、そこが噂の『入り江』のようだった。

目の前には暗い海と砂浜が広がっていて、海沿いに建てられた十数戸の平屋がシルエットとなって見えている。
ただそれだけだ。周辺には街灯もなく、照明が点いているのは護岸の端に設けられた航路確認用の常夜灯のみ。
彼らは浜に車を乗り入れて、海に一番近い家屋の側に車を停めた。
時刻は午前十二時を回っている。
車のエンジンを切ると、不意にあたりの闇の密度が濃くなった気がした。
光の無い無数の廃屋。朽ち果てて砂浜に引き揚げられた漁船の影。
規則的に鳴り響く波の音。
見捨てられた無人の町。

「こんなところが本当にあったんだ」
相棒が感心したように言った。
「よし、探索しようぜ」
用意してきた懐中電灯を相棒に手渡し、夜釣りに使用するカンテラに明かりを灯す。
二人の周辺だけがぼうっと闇の中に浮き上がった。
手始めに近くの廃屋を外から覗き込む。
そこは汚れてこそいるものの、建物の痛み自体はそうひどくもなく、窓や玄関の引き戸に嵌め込まれたガラスが割られている訳でもない。
ただ、どの家も家具調度その他のものが一切無く、がらんどうのようになっており、居間などは畳すら剥がされ板がそのまま剥き出しになっていた。
玄関に回ると、引き戸は施錠されておらず、難なく開いた。
中に入ると土間の当たりには古びた漁具や船のエンジンの壊れたパーツなどが置き去りにされたままになっている。
「本当に、家財道具一式だけ持って逃げましたって感じだな」
そのまま数軒の家を回ってみたが、どれも同じような様子だった。

「おい」
廃墟探索がしばらくしたあたりで、相棒が呟いた。
「何か聞こえないか」
彼は耳を澄ましてみた。

ざ、ざ、ざ、ざく、ざく。ざく。ざく。

なるほど、波音に混じって足音がする。
この入り江を管理する役場の人間が、不審者の確認にやって来たのだろうか。
カンテラを翳して辺りに光を投げ掛けてみたが、それらしき姿は見えない。
第一、この暗い砂浜を明かりなしに歩ける人間などいるわけがない。
二人の背中に冷たいものが走った。

「なんかやばい。引き揚げよう」
あわを喰った彼らは車へと戻り掛けて足を止めた。
周辺が薄ぼんやりと光っている。
懐中電灯を向けると真っ黒な波打ち際に、数人の濡れた人影が立っていた。
役場の人間などではない。
そいつらの白い顔が、ゆっくりとこちらを向いたのが判った。
「うわ!」
二人は反射的に踵を返し、身を隠す場所を求めて、さっきの廃屋へと走り出した。
引き戸を勢い良く閉じると、あたりに散らばっていた木切れやガラクタでつっかえをする。
「な、なんだ、あれ?」
「海から、上がって来た…」
相棒は泣き声のような低い嗚咽を漏らしていたが、ひょいと後ろを振り返ると、今度は凄まじい悲鳴を張り上げた。
彼も見た。
背後の居間のガラス窓一面に、ふやけた顔の人間達がびっしりと貼り付いている。
男も、女もいた。
びしょ濡れの、縺れた海草のような頭髪。
ずる剥けの皮膚。その下から覗く膿んだ豆腐のような肉塊。
そこから見下ろす濁った魚のような視線。
相棒が再び悲鳴を上げたのと同時に、ふっと意識が遠のいた。

次に気付くと、外は明るくなっていた。

窓からきれいな朝日が差し込んでいる。
相棒は彼の横で目を剥いて気絶していたままだったが、頬をはたくと意識を取り戻し、昨夜の恐怖を思い出し、その場で泣き出してしまった。
とりあえずは車へと乗り込んで無事に町へと戻れたのだが、廃屋の中には、饐えたような潮の臭いが充満していて、その臭いは何日も彼らの身体から離れなかったという。

「あとで役場の知り合いに尋ねたら、あそこ、表向きは海流の変化により浜の侵食が進んだという理由で移転した事になっているんだと」

今ではそばを通るのも嫌だと、彼は締め括った。

死者に占拠された無人の集落は、まだ存在している。








06:08, Sunday, Apr 22, 2007 ¦ 固定リンク ¦ 講評(16) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(4) ¦ 携帯

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■講評

怖かったです。「水死体の怪+ゾンビ譚風味」で。

漁師さんが水死体に遭遇したときにしかるべき措置をとれば、その後大漁に恵まれる、というような話を聞いたことがあります。
その集落の人も浜のご遺体をやはり手順通りにもてなしたと思うのですが、その結果が廃屋群ですか。
何だかなあ…あの世の人から八つ当たりされているような感じがします。

文章は読みやすくて、廃村訪問の場面は臨場感がありました。

名前: くりちゃん ¦ 12:53, Sunday, Apr 22, 2007 ×


ちょっと長い気もするが、なかなか面白かった。
廃屋に逃げ込まずに車に戻ればよかったのに、とも思うが、車に戻っていたらここまで怖くはならなかったわけで、怪我の功名というところか。
(ラストの「役場の知り合いに尋ねたら云々」は不要だと思うが)

名前: ナルミ ¦ 00:10, Monday, Apr 23, 2007 ×


内容:2 文章:1

日本にも死者に支配された場所があるなんてすごい。
文章も迫力があって、引き込まれました。
余分な描写が少し多いと思いましたが、それを補う内容でした。

名前: ダウン ¦ 00:15, Monday, Apr 23, 2007 ×


ゾンビネタは好きじゃないのでごめんなさい。
素材としてはよかったと思うが、そこまでの怪異が起きるということは、土地自体にもなにか原因となる要素があるのかもしれない。
もしかしたら、入水自殺者や海難者の遺体が、次々とこの浜に流れ着くようになってしまったのではなく、集まってきていてしまったのかもしれない・・・
文章が映画のワンシーンのようで怖さを感じにくくさせている気がした。

名前: 黒ムク ¦ 13:26, Monday, Apr 23, 2007 ×


読ませてくれる文章で怖い内容ですが、読んでいる途中で脳裏に「杉○村」の名が浮かんでしまって。
先の展開が読めるというか、オーソドックスな流れですので何かゾッとする展開が欲しかった気がするのは贅沢でしょうか。
素材:+1 文章:+1

名前: 夢屋 陣 ¦ 13:43, Monday, Apr 23, 2007 ×


素材・2 文章・−1
素敵な素材である。このような体験をした方が心底羨ましくてならぬ。
ただ、話の構成をもう少し練りこんで欲しかった。
このままでは、映画のシナリオである。

名前: つくね乱蔵 ¦ 10:14, Wednesday, Apr 25, 2007 ×


ゾンビだ…;
特に裏切られるところもなく、ありがちなお話が予想通りに展開していくんですが、描写にやられたという感じです。
文章は「すごい!」の一言。闇を徘徊する緊張感がいいですね。ゾンビも想像しまくりですー(つД`)*。

名前: 13 ¦ 14:09, Wednesday, Apr 25, 2007 ×


怪異自体は十分に怖いんだろうとは思うのだが、予定調和ばりばりの展開に萎え。
車でなく、わざわざ建物に逃げ込むありがちな展開に萎え。
そして文章表現や描写のありきたり度満点さ具合で更に萎え。
内容0 文章0

名前: cross2M ¦ 17:42, Friday, Apr 27, 2007 ×


いや、怖い。
こういうタッチで死者が這い上がってくる海岸の話というのはたくさん見たのですが、集落ひとつが逃げてしまったパターンというのは初めてです。
ここでは描かれていませんが、この場所では他にもよほどの事が起こったに違いないのではと思うのです。キモとなっている部分は海から上がってくる水死体の部分ではありますが、よく読むと王道的な部分を支えるべく導入部の集落に向かうくだりや、役場の人間のタテマエなど、さりげなく目立たない部分に気を使って体験者の恐怖が臨場感豊かに仕上がっていると思います。
好みの別れどころはあるとは思いますが(笑)
しかし、文中にも触れていますが、何でこういうところに行ってしまうのか?って、あまり自分も他人の事を言えた状況ではありませんです。

名前: 矢内 倫吾 ¦ 22:51, Sunday, May 06, 2007 ×


   -4   0  +4
文章;■■■■■■■■□(+3)…a
構成;■■■■■■■□□(+2)…b
怪異;■■■■■■■■□(+3)…c
恐怖;■■■■■■■□□(+2)…d
嗜好;■■■■■■■■□(+3)…e
※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)

 興味深い話である。
 集落全体という広い規模を舞台とした怪異というのは実話怪談としては結構珍しい。
 描写もしっかりしているし、引き込まれるように読むことが出来た。
 ただ、難点を挙げさせていただければ、怪異の内容自体がチープなゾンビ映画を想像させてしまう点である。
 また、話の導入から怪異に直接遭遇するまでの情景描写がかなり念入りであるのに対し、怪異そのものについての描写に物足りなさを感じるのも正直なところである。
 個人的に怪談に求めているものはやはり恐怖であり、それに至るまでの過程はもちろんであるが、怪異自体が放つ直接的な恐怖はそれ以上に受け取りたいのである。
 文章もネタも上質であるだけに、あと2、3振りのスパイスがあってもよかったように思う。

名前: 空 ¦ 23:58, Saturday, May 12, 2007 ×


状況描写がしっかりとされていたので、情景が浮かびやすかったです。
怪異の場面はどきどきさせられました。ただ、ラストが気が付いたら朝というのは、この手の怪談にはとても多いのでいまいちだったです。文章技術評価1 体験談希少度評価1

名前: ナメコ ¦ 22:22, Sunday, May 13, 2007 ×


雰囲気はよく出ているが、冗漫な感じがする。もっと端的にクールに書ける人だと思います。

名前: ペペ ¦ 14:34, Thursday, May 24, 2007 ×


非常に骨格のしっかりした怪異譚であると思う。
しかし、骨格がしっかりしているということは真っ向勝負ということでもあり、
怪異のグロ描写に全てが懸かっているわけで。
雰囲気描写よりそちらに力を入れて欲しかったです。

名前: 藪蔵人 ¦ 15:15, Saturday, May 26, 2007 ×


いくら人数の少ない集落といえども、家財道具一式きれいに持ってどの家も引っ越したとは、殆どの村びとは遭遇したんでしょうね。
しかも、そんな地元では有名そうな心霊スポットだったら、肝試しと称した若者とかが、廃屋を荒らしたり、たむろっていそうなのにそれすら無さそうな感じからすると、よっぽど酷い目にあうんじゃ無いかと。
逆に地元では恐れられている場所なのでしょうかもしれませんね、そんな場所には絶対行きたく無いと思わせられる程の怖いお話でした。

名前: フジ ¦ 00:49, Wednesday, May 30, 2007 ×


希少価値2 文章1
うまく描かれていると思う。
怖い。

名前: HEATH ¦ 20:05, Thursday, May 31, 2007 ×


海岸の廃集落というシチュエーションと、文章の巧みさで怪談として高い完成度を見せている。窓ガラスに張り付く怪異、というのはややステレオタイプに思えるが、集団でとなるとインパクトは十分である。
ただ、廃村となった経緯を先に示さないでおけば、なおのこと良かったのでは、とも思う。
>水死者の霊が夜になると家々の合間を徘徊するようになり
と、先にネタばらしをしてしまっているように感じられてしまう。

名前: GPZ ¦ 20:07, Thursday, May 31, 2007 ×



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