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夜勤明けの午前十時。荻原君はけだるい足で自転車を漕いでいた。水田に囲まれた田舎道に日陰はなく、土屋君の家が見えてきた頃には汗だくだった。 形ばかりの「お邪魔します」を言って階段を上ると、ジャラジャラと麻雀牌をかき混ぜるいつもの音が聞こえてくる。 「おー荻原、お疲れ」 ドアを開けると、混ぜ終わった牌をせっせと並べる四人に迎えられた。 仲間内で唯一、土屋君の部屋にはエアコンがついている。家族が留守がちなこともあり、当時夜勤のアルバイトや無職だった荻原君たちの恰好の溜まり場となっていた。
「だめだ疲れた。俺、寝るわ」 部屋に入るなり、荻原君は梯子をよじ登ってロフトに敷かれた布団へ倒れ込んだ。 しかしなかなか眠れない。麻雀牌が触れ合う音、与太話で盛り上がる四人の馬鹿笑い、そして何より、はめ殺しの天窓からの陽射しが一番こたえる。六十センチ四方ほどのガラスから腿にじりじりと照りつける暑さときたら、エアコンの価値など微塵も感じられなかった。 天窓に背を向け、陽射しを避けて丸まっていると、急に部屋が薄暗くなった。 日が翳ったな、今のうちに寝ちまおう。まどろみ始めた時、まず土屋君が声をあげた。 「おい!荻原!」 他の三人も一斉に立ち上がった。それぞれが何やら喚きながら、荻原君の斜め後ろを指差している。 「何だよ、うるせえなあ……」 差された方へ振り向くのとほぼ同時に、荻原君は弾かれたようにロフトの隅まで逃げ込んだ。 天窓の外に誰かいる。証明写真のように肩から上を見せた人影。頭部が太陽と重なり、布団にはその影が映し出されていた。 ガラスにべったりとつけられた頭部には、顔だと認識できるパーツが一切無い。首との境さえわからない。茶色の細切れを寄せ集めて形にしたような風貌は、数日前に焼肉屋でしこたま飲んでから吐き出したものを思い出させた。 胃からこみ上げる不快感に、思わず口を覆った瞬間。
びたっ
そいつが頭部の両脇に手をついた。 土屋君たちは思い思いに叫びながら我先にと部屋を飛び出し、荻原君は取り残された。ロフトを降りようにも震える手は握力をも奪われていて、梯子を掴むことすらままならない。
びたっ
やけに細い両腕が、頭上へとまっすぐに伸ばされている。短い沈黙を経たあと、そいつは肘を曲げて這い上がった。胸を過ぎた辺りから体は徐々に細くなり、それは長く続いていた。途中に生えた左右の腿を大きく広げ、交互に動かしながら天窓をゆっくりと過ぎてゆく。その様を眺めている荻原君の背中にも、寒気がざわざわと這い回った。 尻尾と思しき先端が天窓の上部から消えると、引きずられた茶色い跡は徐々に薄れ、天窓には再び太陽だけが残った。
家の外から見ていた土屋君たちが言うには、そいつは溶けるようにゆらゆらと湯気を出して消えていったらしい。興奮した四人が話す特徴はてんでばらばらだったが、「大きな蜥蜴のようだった」、これだけは一致していた。
「お前、今日はバイトないよな?」 帰らないでくれと情けない声で懇願され、荻原君はしぶしぶ部屋に残った。 眠れずにだらだらと過ごし、外がすっかり暗くなった頃、荻原君は部屋の様子に違和感を覚えた。何だろう。何かがいつもとは違う。 同じく思案している様子だった土屋君が先に口を開いた。 「田んぼの蛙、ぜんぜん鳴いてねえな」 言い終わるのと同時に立ち上がり、壁のポスターを剥いで天窓に貼った。 静かな夜はこれっきりで、以降は毎晩、蛙の大合唱が絶え間なく響き渡っていたそうだ。
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■講評
なんだったんでしょうねぇ。妖怪の類なのか、希少な目撃談だと思います。 一読して、オオサンショウウオみたいだな、と思いましたがなかなか頭にソレの姿を思い描けませんでした。 伝えづらいモノを文章で表現しづらかったのは分かりますが、できれば描写と感想は区別して書いて、もっとはっきりさせた方が伝わりやすいかと思います。 素材:+2 文章:0
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名前: 夢屋 陣 ¦ 13:12, Tuesday, Apr 10, 2007 ×
丁寧な描写でわかりにくい存在を説明してくれてたので理解できた。 ただ、何回か読み返さないとなかなか内容を把握できなかったてんが気にはなった。 いらない部分を削って、話のポイントを絞ったほうがよかった気がする。 蛙が鳴いていない点を最後に書いて怖さを増す効果を狙ったと思うが、話自体にあまり恐怖感がなかったため、あまり生かされた感じはしない。 夏の不思議な話といった感じか・・・ |
名前: 黒ムク ¦ 13:35, Tuesday, Apr 10, 2007 ×
物の怪が完全に通過した後は私も爬虫類のようなモノとわかったが、最初に現れたときから足が見えるまではそれの全体像が想像できずにいらついた。 その日に限って田んぼの蛙が鳴かなかったというのは面白い。
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名前: くりちゃん ¦ 15:26, Tuesday, Apr 10, 2007 ×
絵で描いたらすぐわかるんだろうものを言葉で説明する難しさを感じた。 ネタ的には、とても面白いと感じたので、表現力不足が惜しい。 以下、あえて違和感を感じたところを指摘したい。 1 証明写真のように肩から上を見せた人影…頭部には、顔だと認識できるパーツが一切無い →なぜ、人影・頭部と断定した表現を使ったのか。後で出てくる「尻尾と思しき先端」との表現との整合性がとれていない。 2 茶色の細切れを寄せ集めて形にしたような風貌→想像できない。 3 焼肉屋でしこたま飲んでから吐き出したもの→わかるようなわからんような 4 そいつが頭部の両脇に手をついた。 →窓の外の出来事なのか、はめ殺しなのに荻原君の頭部の両脇に手をのばしてきたのか直ちにわかりづらい。 5 やけに細い両腕が、頭上へとまっすぐに伸ばされている。 →上記同様。「頭上」が、荻原君のものか、窓の外の物体のものを指すのか紛らわしい。 6 引きずられた茶色い跡→受動態はおかしい。「引きずっていった」跡くらいでいいのでは。
■素材:1 □恐怖:0 ■リアリティー:1 □文章表現力:-1 = 1点 |
名前: ゆんく ¦ 00:01, Wednesday, Apr 11, 2007 ×
人面蜥蜴?あ、顔がないのか(・ω・ 上半身を見た限りでは人間(の形)だと思っていた、下にいくにつれ異形であると気付く…という流れですね。 人間っぽくても蜥蜴でも、ゲ○の寄せ集めはイヤですがorz 近いけれど天窓という限られた枠でしか見ていない荻原君の証言は、わかりづらいのも仕方ないかもしれませんがじれったいです。外から全体像を見ていた四人の証言が合わさると「ああ、なるほど」ですが。
周りの蛙が静まりかえるほど暴れ回ってたんでしょうか。川や田んぼのヌシ?昼間は姿を見せないものが、たまたま現れたのかもしれませんよ。 |
名前: 13 ¦ 18:56, Wednesday, Apr 11, 2007 ×
怪異自体は面白い。 ただ、荻原君の見ていた化け物の描写がわかりにくくかった。無理に凝った表現をしようとせず、もっと素直に描写すればよかったのでは。 |
名前: ナルミ ¦ 20:38, Wednesday, Apr 11, 2007 ×
内容:1 文章:0
最初は、グロ霊かと思いましたが、尻尾があるのがなんとも興味深い。 それとも体のどこかがそう見えたのか。 かえるたちが鳴かないのも、不気味でいいです。 ただ、細かく描写しようとして、それが返ってわかりにくくしているように思えました。。 |
名前: ダウン ¦ 22:46, Wednesday, Apr 11, 2007 ×
うーん、やられました。 タイトルから判断しててっきり「太陽黒点の影響による死体の復活」だとトチ狂った僕は見事にスカ食らわされましたので満点、というわけにはいかないか(笑) 結局正体は、エイリアンによるカエルの大量誘拐だったんですね。モルダーを呼べって、これも違いますね。 題材がもんのすごいいけてます。掻き立てられます。あんまりにもいけすぎてて描写がついていけてないのではないかという気さえします。 そこがこの作品のネックとなってしまった気がしないでもありません。ありえないけどリアル、ここを追求していただければきっと他の読者さまなんかも間違いなく満点だったという事で。 でも考えてみると、遭遇したら怖いだろうなトカゲ男。ショッカーの改造人間か?(笑) |
名前: 矢内 倫吾 ¦ 12:49, Thursday, Apr 12, 2007 ×
なんだか、すごいものに遭遇されましたね。 文章も読ませるに十分な質を備えており、よく書かれていると思います。 ただ、良く書かれすぎて鼻についてしまうところも少々^^; 特に表現方法なのですが、敢えて小難しく書く必要があったのでしょうか?と。 つまり、ディテールを書き込む事と、装飾をするのでは、全く意味合いが違うというか。 過剰なまでにふんだんに味付けされてしまうと、せっかくのディテールが「良く練られた」ものに見えてしまいます。 これが残念だったかなぁと。 素直な文章で書かれても、十分に読ませるだけの構築力を持たれた方だと思いますので、是非凝る事に凝らずに(笑)書いていただければ、より一層楽しませていただけるのではないかなと^^ 内容+1 文章+1 |
名前: cross2M ¦ 16:08, Tuesday, Apr 24, 2007 ×
-4 0 +4 文章;■■■■■■■□□(+2)…a 構成;■■■■■■□□□(+1)…b 怪異;■■■■■■■■□(+3)…c 恐怖;■■■■■■■□□(+2)…d 嗜好;■■■■■■■■□(+3)…e ※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)
真っ先に頭に思い描いたのはチュパカブラのようなUMAの類。3/13公開の「横顔」で提示された怪異も、個人的にUMA遭遇譚に分類したが、このような話はいつ聞いてもなぜか心躍る。 怪異の風貌、動作についての表現描写に関しては少々もどかしさは感じるものの、怪異の希少性は高く評価したい。 |
名前: 空 ¦ 12:44, Monday, May 07, 2007 ×
色々と想像力を働かせていましたが、人間とナメクジを足して2で割ったようなものを想像してしまいました。多数の方が目撃されたというのも凄いと思います。一体何だったんでしょうね? インパクトはありました。文章技術評価0 体験談希少度評価3 |
名前: ナメコ ¦ 15:49, Tuesday, May 08, 2007 ×
もちろん人ではないが、人でも気持ち悪い。蛙が鳴かなかったはとって付けたようだが良い。 |
名前: ペペ ¦ 14:44, Wednesday, May 23, 2007 ×
描写によりつくられた構図が非常に決まっており、映画のワンシーンのようでした。 練りこまれた文章には良い点と、悪い点があります。 実話怪談だけに匙加減が難しいところですね。 |
名前: 藪蔵人 ¦ 14:01, Saturday, May 26, 2007 ×
素材・0 文章・−1 これ、漫画だったら一発で伝わるだろうな。 読んだ人それぞれが違うイメージを持つんじゃないだろうか。 この世でない物を描写するのは難しいね。 |
名前: つくね乱蔵 ¦ 17:44, Sunday, May 27, 2007 ×
これで、人型の怪異のまま終われば面白かったのに、と考えるのは贅沢すぎるか。 怪異の外見が克明に描写されていて、すんなり頭の中で像を結ぶことが出来た。 最後の、蛙の鳴き声もいい余韻を残している。蛙嫌いであれば、なおさらである。
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名前: GPZ ¦ 01:28, Thursday, May 31, 2007 ×
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