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H市立第二中学校卒業アルバム。 表紙をめくると、当時の教員達が三列のひな壇状で写った集合写真がある。 「これこれ」と久住さんが蝶を模したネイルアートで指差す先は一列目の、パイプ椅子に座った男性教師の足元。 「後ろの先生より足が一組多いでしょう?パイプ椅子の後よく見て」 なるほど、確かに二列目にずらりとならんだ教師達の足とずれたところに一組、スカートの裾と黒いストッキングを履いた足が見える。 構図こそいかにも心霊写真という具合ではあるが、あまりに公的な出版物にそれが掲載され、そのまま卒業生368人に配布されているという事実が異様に感じられる一枚だ。 もっとも、「アヤカシの類が写っていたので卒業アルバムは回収します」などとは、常識と現実を重んじる学校という立場からは言えなかったのであろう。 「この足があるパイプ椅子に座ってるのが私の担任。こういう写真って三学期の初めくらいに撮るんだよね」
中学三年の三学期、卒業式まであと二ヶ月をきったかという頃、久住さんの担任、橋本先生が急に学校に来なくなった。 橋本先生は当時の教員達の中ではピカイチで若く、他のクラスの学生が羨むほど“話のわかる”先生だった。 「好きなアイドルグループのコンサートのために早退したいです!ってあたしが頼んだときも笑ってOK。今風の先生だったなあ」 教頭が教室に来て説明した理由は「体調不良」による「長期休暇」。 九州にある実家での休養をとることになったためにわざわざ遠方まで出向いての見舞いは無用、とのこと。 教頭が教室を出て行き、残ったのはクラスメートのヒソヒソ声と、なんとも後味の悪い空気だけ。 朝のHRは日替わりで他の教師達が担当するようになった。 「それからのHRがケッサクで。くる先生くる先生、みんな私たちが橋本先生を寂しがってるのを察してかオチャラケし放題。数学の先生なんか、帽子からハト出したんだから」 そういった教師達の心遣いもあってか、クラスのムードは次第に良くなっていき、 「卒業式までにはきっと橋本先生も帰ってくる」 という前向きな会話もよく交わされるようになった。 だが、そんな想いもむなしく、橋本先生がいない日々は続いた。 そして卒業式の日。 最後のHRのチャイム。 この日だけは橋本先生が顔を見せてくれる、という噂があったせいか、誰もが神妙に着席し固唾を呑んだ。 ガラリと教室の戸が開けられた。 入ってきたのは、灰色の大きなロングスカートと、手編みであろうか妙に筋目の不規則な赤いセーターを着た、見るからに野暮ったい若い女性。顔はにきびの跡だらけだ。 見たことのない人。 女はすぅぅっ滑らかな歩みで教壇に立ち、ゆっくりと顔を動かしながらなめる様に生徒達を見てから、口を開いた。 「橋本先生は死にました」 教室にクラス一斉にハッという息を呑む音が大きく響いた。 直後、後ろでパチンッと何かが弾ける音がして久住さんの後頭部にチクリと何かが刺さる痛みが感じた。 振り返ると、後ろの席に座る男子が左手で血まみれの右手を押さえながら、見てられないほどの苦悶の表情を浮かべ無言で震えていた。 後頭部に手をやり、刺さったものを抜き取ると、それは爪だった。 そして「うっ」という声がいくつか連続でしたかと思うと、バタバタと椅子から崩れ落ちる数人のクラスメート達。 黒板を掻く、キィィィィィという音が教室に鳴り響いた。 不思議と誰も叫び声をあげない。 誰もが引きつった表情で固まっているか、何の表情も浮かべず揺れているかだ。 久住さんも頭がぼやけてきていた。 再び、女の声。 「あの野郎はとんでもないグズグズなのでつんめりがえす私が呪い殺してやりました」 そして腹の底から搾り出された笑い声が妙に近いところで聞こえた。 笑っていたのは久住さん自身だった。 「今思うとほじくりかえしてやればよかた目も耳もちぎればよかた」 もはや女の声は最初に発せられたものとまったく違うものになっていた。 「覚めたいのに覚めない悪夢の中にいる感じ。自分の体にも周囲の風景にも現実味が微塵も無いのよ」 自分がこのままどうかしてしまうのではないかという思いが眉間に渦巻きはじめたとき、再び教室の戸が開いた。 入ってきたのは数学の教師だった。 一斉に起きるクラスメートの叫び声。 女はいつのまにか消えていた。 二時間後の卒業式のために数学教師は懸命に生徒達をなだめすかし、具合の悪いものは保健室へ連れて行かれた。 生徒達は強烈な負の感動を経てある種の催眠状態に陥ったのであろうか、従順に教師の言うことを聞き、なんとか無事に卒業式を終えることができた。 卒業式、不自然なくらいに、校長を含む教師達は橋本先生の話題をしなかったそうだ。 「クラスメートだった人達とはもうその話はご法度。臭い物には蓋、よね」 橋本先生が事実どうなったかは久住さんもクラスの誰もがいまだ知らないし「知りたくも無い」のだそうだ。
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» 【+2】「橋本先生奇譚」 [DJ ZIRO『超-1 2007』感想ブログから] × たしかに「奇談」(^^;流血した学生が出たのに保健室や話題を封印するぐらいですん ... 続きを読む
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受信: 00:57, Wednesday, May 23, 2007
■講評
集団での場で大勢が体験したのはすごいと思う。 しかし、人気があった先生だけに、理由は知りたいところでは? 呪詛かなにかの類で橋本先生はいなくなったのだろうか。 橋本先生は最後まで学校にはこなかったんですよね。ってことは最初の心霊写真云々は怪異が起こる前にとった、と説明したほうがよかったのでは。 写真を撮ったのは三学期初めといわれてから、いなくなったのは卒業式の二ヶ月前と説明されても時間の解釈がわかりずらい。 起こったことは怖いより、すごいな印象です。 |
名前: 黒ムク ¦ 13:17, Friday, Apr 06, 2007 ×
まず前半の写真と後半のつながりが説明不足かな。 とはいえ、その他は書き込みすぎかなと思えるほどですね。同級生の状態など未整理のまま終わってしまった印象です。 まぁ、教室の壮絶な状態は伝わってきますので、かなり嫌な感じです。 ただ、怪異だったのかとなると理解不能な点があり・・・とはいえ怪談ですね、これは。十分に怖いです。 あと余計かもしれませんが、「負の感動」とかあると、胡散臭いなと感じる私のような人もいると思いますので、言葉選びは気をつけた方が良いかも。 素材:+1 文章:0 |
名前: 夢屋 陣 ¦ 15:51, Friday, Apr 06, 2007 ×
ああ、なんて激しい怪談だろう!
謎の女が現れるまでは冗長な感じがしたが、女が現れてからはあまりの激しさから信憑性を疑ってしまった。 が、実話怪談ということだからそういうことはあったのだろう。
こういう体験をしても本当に皆に好かれていた先生だったら 「橋本先生が事実どうなったかは久住さんもクラスの誰もがいまだ知らないし「知りたくも無い」のだそうだ。」 ということはなく、やはり先生に何が起こったか知りたいものだと思う。
表現の仕方でずいぶんと印象が変わる、つまり実体験であることを疑う余地のないリアリティのある作品となるのではないかと、強く思った。
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名前: くりちゃん ¦ 21:11, Friday, Apr 06, 2007 ×
なかなか激しい怪談で面白かった。 ただ、前半の書き込みに比べて、後半が駆け足になりすぎたように思う。もう少し怪異自体の描写を増やした方がよかった。具合が悪くなった程度ならなんとでもごまかしようがあるが、爪が刺さって負傷した生徒に対しては、どう現実的に折り合いを付けたのか、も気になるところだ。 それと、すでに多数指摘があるが、やはり最後の一行は違和感を感じる。それほど人気のあった先生なら、やはり、どうなったかは知りたいと思うだろう。 |
名前: ナルミ ¦ 01:14, Saturday, Apr 07, 2007 ×
微妙。 表現の仕方によっては充分凄みのある話になりうる素材ではある。 リアリティーが皆無。頭で考えた感がありあり。と読めてしまう私は、単なる怪談ジャンキーか。
□素材:-1 ■恐怖:1 □リアリティー:-1 □文章表現力:0 = -1点
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名前: ゆんく ¦ 01:55, Saturday, Apr 07, 2007 ×
内容:1 文章:0
迫力というかインパクトでは、かなりのもの。 ただ、描写が細かい所と欠けているところの差が激しいと思います。 橋本先生、なんか可哀そう……。 |
名前: ダウン ¦ 11:08, Saturday, Apr 07, 2007 ×
これは構築段階の問題なのだと思うのですが、矛盾が多い。 具体例を挙げると、生徒から愛されていた先生という書き出しの割には、最後はどうでもいい扱いになっている。 他のクラスの生徒が羨むほどの先生=他のクラスの先生はそんなに生徒から愛されるべき特性を持っていないと読めるのだが、朝のHRを交代で受け持ってくれる先生はどれも生徒を明るい気持ちにさせようとはしゃいで見たり、帽子からハトを出したりする。 十分にすばらしい先生だし、愛すべき一面を持った先生である。 それに長期休暇を先生が伝えに来ただけのことに対して「なんとも後味の悪い空気だけ」残ったという、なんで?と思わせる文章建て。 つまり何がいいたいかというと、書き起こす段階で深く考えずノリで書き上げてしまっている印象がある。 故に矛盾も含めちぐはぐ感が漂っている。 ただ、怪異部分は全開の不快さを持って伝わってくる。 異常な雰囲気が漂う様は読んでいて気持ち悪くなるくらい。 だから余計にそれ以外の部分の構築の甘さが浮いて見える。 みっちりと書き込まれてはいるんですけどね。 叱咤激励をこめて 内容+2 文章ー1 |
名前: cross2M ¦ 11:34, Saturday, Apr 07, 2007 ×
卒業式の日には、まだ橋本先生は亡くなっていなかったんじゃないでしょうか。めでたい日とはいえ、恩師が亡くなったら報告があると思います。 めでたい日にわざわざ現れて、生徒たちを絶望させるのが恐ろしくもあります。
前置き、長いですねー; >構図こそいかにも〜言えなかったのであろう。 ものすごいことのように書かれているのですが、「よく見て」と指を差されなければ確認できない程度の心霊写真なら、普通に配布されるのでは。 橋本先生や数学の先生のエピソードも、ここまで書く必要はないですね。慕われていることだけわかれば十分です。 慕われている割には、生徒は長期休暇と知っても騒然としない。 卒業式の日に押し黙る教師達に言及するでもなく、最後には「臭い物には蓋」ってあんまりです;大して慕われていないように見えて逆効果でした。
大がかりで怖いお話なのに、どこか冷めた気持ちになります。凝りすぎた表現が大がかりな怪異のさらに上を行ってて、引いてしまったかも。 全体的に大げさな印象です。
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名前: 13 ¦ 23:43, Saturday, Apr 07, 2007 ×
うーんなかなかすっ飛ばした怪談ですねえ! 僕はこういうの嫌いではないですよ。これだけ書ける方なんだから相応の文章力もおありになるのでしょう作者の方は。その写真は惜しいですよ!画像投稿もありなんですから、それに沿ってストーリーを展開していくというのも面白かったんじゃあないのでしょうか? 人気者であった先生の不可解な失踪とそれにまつわる奇妙な事件。このお話は体験者ご自身から聞かれた様子ですね。僕の印象ではかなり厭な気分にさせるお話なのですが、なぜかそこから伝わってしまう印象は洗練された「ショートショート小説」のようでした。 これは「創作」だという意味ではなく、直接お話を聞けたのなら、その方の感じてた恐怖感を文字に変換して綴っていれば、この物語はかなり怖い秀作になった気がするのです。僕は重箱をつつくのは趣味でなく「肌で恐怖を感じたい」ためにネタの重さと文体のつりあいでお話を採点していますから、ものすごく期待してます。 この肌で感じられないときは、いい怖さが出ないんですよね(笑) |
名前: 矢内 倫吾 ¦ 20:17, Monday, Apr 09, 2007 ×
文字が多いほどにすべてがちぐはぐに感じる。 あまりに大仰な表現は実録怪談に似つかわしくないでのはないだろうか。簡単な文章でこのネタが読めたらさぞかしイヤな話だったのでは。 爪がパチンと飛ぶのはイヤだ。 |
名前: 高田公太 ¦ 22:36, Sunday, Apr 15, 2007 ×
-4 0 +4 文章;■■■■□□□□□(-1)…a 構成;■■■■□□□□□(-1)…b 怪異;■■■■■■■□□(+2)…c 恐怖;■■■■■■□□□(+1)…d 嗜好;■■■■■■□□□(+1)…e ※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)
まずもってリアリティが薄い。 怪異の内容が恐ろしく強烈なだけに、文章、構成には最新の配慮をしなければそのリアリティは保てない。 淡々と情報を書き連ねてしまったためにそれが崩れてしまった印象である。 意地悪に捉えると多感な思春期に起きた集団催眠との見方をできなくもない。 怪異が怪異だけに非常に勿体無いという気持ちである。 プロローグとして置かれたであろう卒業写真のくだりについては、あまり機能していないように感じるので、盛り込まなくとも良かったように思う。 |
名前: 空 ¦ 21:04, Sunday, Apr 22, 2007 ×
最初は心霊写真の話かなと思っていたのですが、最後は東京伝説風に終わりましたね。最後のクライマックスに出てきたサイコな女のキャラクターは魅力的で好きです。彼女がもっと弾けていれば本当に怖くなったと思う。 ちょっと現実感が乏しいのが残念でした。文章技術評価0 体験談希少度評価2 |
名前: ナメコ ¦ 17:37, Wednesday, May 09, 2007 ×
久住さんに異変が起きてから、ついていけない。生徒たちの潜在意識が引き起こした集団ヒステリーではないかとも思える。でも、好きな話。 |
名前: ペペ ¦ 15:27, Tuesday, May 22, 2007 ×
非常に怖いし珍しい話。 ただ、あまりにも情報不足ですっきりしない。その分減点。 |
名前: 散歩者 ¦ 15:34, Tuesday, May 22, 2007 ×
こんな事が起こったらマスコミ沙汰にならないだろうか? 昔のオカルト漫画の様。
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名前: コウ ¦ 12:11, Friday, May 25, 2007 ×
素直に怖いです。 女が出てきた辺りからテンポが加速して俄然面白くなりますね。 が、詳細に読むと色々不満が出てきます。 投げっぱなし処を誤った感じですね。 せめて橋本先生の生死は確認したいところです。 |
名前: 藪蔵人 ¦ 13:10, Saturday, May 26, 2007 ×
文章が仔細すぎて、「人から聞いた話」という感じがまるでしない。 そもそも、怪異に至るまでの経緯が冗長である。いかに橋本先生が慕われていたかを示したかったのかもしれないが、過剰に書きすぎているように思う。 謎の女のくだりはよかったと思うのだが……。 冒頭のアルバムと本編との関連性が希薄に感じられるのと、肝心の橋本先生の消息が不明なため、どうもすっきりしない。 |
名前: GPZ ¦ 02:24, Monday, May 28, 2007 ×
素材・0 文章・−2 これほど凄まじい、下手したら新聞沙汰にでも成りかねないネタが、 何故こんなに怖くないのか。 作者には今一度考えてもらいたい。 |
名前: つくね乱蔵 ¦ 06:39, Wednesday, May 30, 2007 ×
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