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駅の人混みで
以前、派遣で仕事をしていた現場での話。

その現場には、佐藤さんという四十歳なかばの男性がいた。
佐藤さんは長年腎臓を患っているとかで、翌月からはとうとう入院する事になり、仕事を一時休職するとの事だった。
その頃の佐藤さんの顔色はすでに土気色で、医者でなくとも相当具合の悪いらしい事はわかった。
『仕事も途中で迷惑かけちゃうけど、ごめんね』
と佐藤さんは、同じ作業グループだった私たちに謝っていた。
が、私たちも翌月からは他の現場に移る予定だったので、皆で
『そんな事気にしないで、早く治して元気になって下さいね』
と佐藤さんに言っていた。

それから、他の現場に移ってしばらくの後。
やはり佐藤さんと同じグループだった河田さんが
「あのさ、佐藤さん、亡くなったんだって」
と言ってきた。
「…え?」
としか私が言えないでいると、
「でもな、僕、佐藤さん見てるんだ。それもついこないだ、一週間ちょっとくらい前にさ」
と河田さんは妙な顔をして言った。
「こないだ、駅でさ…」

河田さんが出勤時に駅の人混みを歩いていて、ふと少し離れたところを見ると
そこには佐藤さんが立っていて、にこにこと笑って河田さんを見ていたという。

『あれっ!佐藤さん?!退院したの?もういいの?』
と、河田さんが声をかけて手を振ると、佐藤さんも河田さんに手を振り返し、ぺこりと頭を下げて人混みの中に消えてしまった。
河田さんは佐藤さんの携帯電話の番号を知っていたので、その日さっそく佐藤さんに電話をしたのだという。
が、その日は電話が通じなかったので、数日してからまた電話を入れたら…
「そしたらな、奥さんだって人が出て。電話に。それでな…
佐藤さん、亡くなったって言うんだ。三日前に」
奥さんだという人は河田さんに、すでに佐藤さんの葬儀も済ませた、とも言った。
それに河田さんが
『ついこないだ駅でお見掛けしたので、てっきりお元気になられたとばかり…』
と伝えると、
奥さんは、佐藤さんは入院して以来ずっと調子が良くなくて、河田さんが佐藤さんの姿を見た頃にはすでに危篤状態で、とても外出できる様な状態ではなかった、と話した。
「でもな、僕、見たんだよ、佐藤さん。本当に。手まで振ってさ。いつもの様に背広着て、ネクタイしてさ。…でな」
河田さんは続けた。
「新橋君も見てるんだよ。佐藤さん。やっぱり駅で」
河田さんは、やはり佐藤さんと同じグループだった新橋さんの
名前をあげた。
「新橋君も、昨日佐藤さん見たって。
新橋君も佐藤さんが亡くなったの知らないからさ。駅で佐藤さん見たよ、もう退院したのかなって、さっき僕に言うからさ。だから、いや実は佐藤さんな、って話したんだ。
それで新橋君もええ〜っ?!ってなってさ…」
「……」
私が何も言えないでいると、河田さんは妙な表情をしながらも、悲しそうに言った。
「新橋君もな…佐藤さん、ちゃんとした背広姿で、にこにこ笑いながら手を振ってたって。
佐藤さん、今も駅にいるのかな。会社に行くつもりでさ、背広着て、ネクタイしてさ。
僕…何か気の毒でさ」

私は駅で佐藤さんを見た事は無い。
しかし。
佐藤さんは今も駅の人混みの中にいるのかもしれない?
背広着て、ネクタイして、仕事に行くつもりで。
いや、仕事に行きたくて…








23:10, Friday, Feb 23, 2007 ¦ 固定リンク ¦ 講評(22) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(6) ¦ 携帯

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死んでもなを出社されているのか・・・それでは哀しすぎるのでただ挨拶をしに来ただけ ... 続きを読む

受信: 20:00, Saturday, Feb 24, 2007

» 【0】 駅の人混みで [hydrogen's blogから] ×
内容: 1文章: -1話としてはよくあるタイプのもので、それ単体では評価は出来ません。著者が何を言いたかったのかというと佐藤さんの人柄でしょう。そこに+1。本当にそれだけならよかったのですけど、どうもノイズがあるように読めます。著者はこのネタで怖い話が書ける .. ... 続きを読む

受信: 01:25, Monday, Feb 26, 2007

» [超−1]【+1】駅の人混みで [幽鬼の源から] ×
死後に現れた行動を通して、亡くなった人の人柄を偲ぶというコンセプトで書かれたものだろう。 仕事仲間の目撃証言を克明に表記し、恐怖感よりも感慨の方を優先させる書きぶりである。 さらに最後の数行でそれらの思いを強くさせようという作者の意図が見えてくる。 こ .. ... 続きを読む

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 <文章> −1  <体験> −1   <得点> −2  ようやく初読の領域に入った。これで全く無心に作品と対峙できる。  しんみりとしたした話ながら、現象そのものがもう何の新鮮味もないので 印象は強くならない。  妙に意味ありげな最後の文章も20年位 .. ... 続きを読む

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佐藤さん、非常に気を使う律儀でいい方だったという事が伝わってきますね。>『仕事も途中で迷惑かけちゃうけど、ごめんね』顔色が土気色になるほどの状態なのに、無理して会社に来て休職の挨拶と同時に謝罪をなさるという所で、きちんと筋を通す義理堅い方だったのだと .. ... 続きを読む

受信: 19:45, Sunday, Mar 18, 2007

» 【+2】駅の人混みで [I'd like to tell you something about ...から] ×
 怪異自体は珍しくはないのですが、佐藤さんのお人柄にプラスです。 仕事の途中で迷惑をかけ他のが気がかりだったようなので、お礼に来たのかなと思ったのですが。頭を下げたという件なんか痛々しくて。 ご冥福を祈 ... 続きを読む

受信: 11:27, Friday, Mar 30, 2007

■講評

内容:0 文章:1

話としてはよくあるタイプのものですが、とても読みやすい文章で好感が持てました。
佐藤さんの生真面目な性格がよく書かれていると思います。

名前: ダウン ¦ 09:39, Saturday, Feb 24, 2007 ×


よくある話だが、文章も読みやすく、ただ怖がらせるよりも佐藤さんへの哀悼の意が感じられる。

名前: くりちゃん ¦ 09:41, Saturday, Feb 24, 2007 ×


佐藤さんが非常にいい人(幽霊)だとうことは伝わりました。

文章は、不要な個人名などを省いていくともっとよくなると思います。

名前: 雛人 ¦ 10:41, Saturday, Feb 24, 2007 ×


よくあるような話ですが、
哀しみが伝わってくるのは文章の力だと思います。

名前: 丹羽 ¦ 22:21, Saturday, Feb 24, 2007 ×


怪異としてはそれほど珍しくはないし、それほど怖くもないが、ほのぼのしていい話だと思う。
ただ一つ難を言うなら、河田さんが佐藤さんを見かけたのと、河田さんが死んだのと、どちらが先かがはっきりしないこと。これはけっこう重要なポイントだと思う。

名前: ナルミ ¦ 00:47, Sunday, Feb 25, 2007 ×


定番で始まり、その定番の繰り返しでした。(−1)

死んだことに気付いていて、挨拶回りをしているようにも見えます。
佐藤さんの意図がハッキリしないところは良かったです。(+1)

名前: 13 ¦ 11:47, Sunday, Feb 25, 2007 ×


怪異:なんとも評価のしづらい怪異だなぁ。
現象自体は「病気で亡くなった同僚が人混みで挨拶をして来た」くらいなんだけど、味付けがかなり濃いんだわ。最近はこういうのか超短編かしかないような気がする。ん〜。
0
文章:最近、ドラマっつーかなんつーか、ストーリー重視の作品が多いのが気になります。
いや、本家のトリを飾るような大ネタならそれもアリなんだけど、これはそういうネタではないですよね。
著編者の加藤氏も「「超」怖は引き算の怪談だ」と言ってますし、もうちょっと引き算しても良かった気がします。0

名前: brother ¦ 22:18, Sunday, Feb 25, 2007 ×


佐藤さんは良い方だったんですね。自分が死んだことに気づかずに、今も毎日出勤されているのでしょうか。
ただ佐藤さんが目撃された日と、亡くなられた日の前後関係が分かりにくかったので、少し混乱しました。
内容に+1。
文章に−1。

名前: 飛泉 ¦ 21:32, Monday, Feb 26, 2007 ×


   -4   0  +4
文章;■■■■■■□□□(+1)…a
構成;■■■■■□□□□(±0)…b
怪異;■■■■■□□□□(±0)…c
恐怖;■■■■■□□□□(±0)…d
嗜好;■■■■■□□□□(±0)…e
※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)

 怪異自体は死んだはずの者が姿を現すという特段目新しいものではない(不謹慎だが)。異なる人物によって同様のものが目撃されたとしても、この怪異の場合、価値はそれほど上がらないだろう。
 佐藤氏の会社に対する愛着ゆえの怪異だとすれば、社内にもいつか姿を現すかもしれない。この怪異はもしかしたら、現在進行形のものなのかもしれない。

名前: 空 ¦ 12:37, Thursday, Mar 01, 2007 ×


素材・0 文章・0 他の講評にも有りましたが、やや詰め込みすぎの文が読み辛いかと。

名前: つくね乱蔵 ¦ 09:55, Tuesday, Mar 06, 2007 ×


佐藤さんの人柄に+1
あとは・・・オーソドックスのなはいいのですが、読むのに苦労したので、もう少しあっさり書くことも出来たのではないかと。
あっさり書いてしまうと、こんどは余計に薄くなるか・・・
う〜ん、難しいですね^^;

名前: cross2M ¦ 18:14, Saturday, Mar 10, 2007 ×


文章:+2 怪異:0

よくある怪談だなー、なんて読み進んでいくうちに心打たれました。
文章がとてもいいからだと思います。

佐藤さんが周りの方にとても好かれていたんだな、
というのと佐藤さん自信の周りへの想いが伝わります。

ありがちながらとてもいい話だと思います。

名前: 晴。 ¦ 18:03, Friday, Mar 16, 2007 ×


怖い話と判断しづらかったので、配点は0にさせていただきました。
ですが、亡くなった後もなお、仕事仲間に挨拶をする佐藤さんの姿を想像したら、思わず目が潤んでしまいました。
いい人だったんだろうなぁ・・・。




名前: なおゆき ¦ 22:25, Sunday, Mar 18, 2007 ×


素材+1

怪異はオーソドックスですが、きちんと目撃者が複数いてシチュエーションは良いです。
ですが最後の部分の独自解釈は不要かな、と。

名前: 有線 ¦ 14:20, Thursday, Mar 22, 2007 ×


佐藤さん、気配りの人だったんですね、途中で仕事を離れ職場の人に迷惑をかける事が心残りだったんでしょうね。
御自分のお仕事に誇りを持って来た方なのでしょう。
きっと同じ作業グループの人に挨拶が終わるまでは成仏出来ないのでしょうね。
ホロリとくるお話でした。


でも、皆さんの最寄り駅が一緒でなければ、あちらこちらに移動しないといけないのは大変ですね。

名前: フジ ¦ 00:04, Saturday, Mar 31, 2007 ×


佐藤さんを知っているかどうかで温度差がものすごく違う話だと思う。
直接の知人には非常に重い話だろうけれど、知らない人にとってはありがちな話だし。
そこのところを埋めるために長めの話になってしまったのでしょうか。

名前: 藪蔵人 ¦ 20:23, Tuesday, May 01, 2007 ×


佐藤さんの中年の哀愁が感じ取れる作品でした。もしかすると佐藤さんて本当に孤独で、友達もいなくて奥さんにも愛されていないとかで、どこにも行き場が無く、駅の群集の中を漂っているのかなあと思いました・・・。文章技術評価1 体験談希少度評価1

名前: ナメコ ¦ 22:34, Thursday, May 03, 2007 ×


故人が別れを告げる、しんみりとしたいい話ではある。
しかし、流石に類似した話が多すぎるので、新鮮味には欠ける。
筆者もそれを承知で話を引き伸ばしたのだろうが、残念ながら怪異を盛り上げるには至っていないように感じた。

名前: GPZ ¦ 22:41, Saturday, May 12, 2007 ×


文章がとても読みやすかったです。怪異としては弱いですが、良い話ですね。

名前: ペペ ¦ 16:12, Thursday, May 17, 2007 ×


取り立てて珍しい話ではないのですが、佐藤さんの人柄が感じられる、しんみりと切ない話でした。

文章1 怪異0.5 =(繰り上げて)2

名前: 久遠平太郎 ¦ 19:58, Sunday, May 20, 2007 ×


文章:0 怪異:1 
佐藤さんのご冥福を祈って:もう+1

文章はもう少し整理した方がよかったかと。
河田さんが佐藤さんを見た時、佐藤はまだ亡くなっていなかったとしたら…それは生霊だったのだろうか。

名前: コウ ¦ 11:43, Thursday, May 24, 2007 ×


うう、漏れ発見〜。
でも、こうやって読み直してみますと、これは「語り継がれる怪談」ですよね。
ホラー要素や新奇性はないけど、「昔、この職場にいた〜さんという方がね…」
そんな人の口から口へと伝わっていく怪談の匂いが漂っていました。
びっくり箱のような怪談は面白いけど、「信じられない」という人が出た時点で話は止まってしまう。
でも、こうした怪談はその人の死を悼んで長く語り継がれます。なぜ?
ちょっとした新しいテーマを与えていただいた事に感謝の意を込めまして。

名前: 矢内 倫吾 ¦ 17:18, Thursday, May 31, 2007 ×



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