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「悪霊…ですか?」 「そうです」 私の問い掛けに広田さんは頷いた。 「それって、危害を加えてくる霊がいるとしたら、そういうのが悪霊なんでしょ?」 「広い意味だとそうなんですけどね」
広田さんは「見える人」。 「自称」の触れ込みではなく、同居する家族たちもそれを認めている存在。 ここで面白いのは、彼の家系は父方も母方も兄弟に誰も「見える人」が存在しない。 ただ一人、彼だけが「見える」。 だが、利発な彼の母親は、息子が常人と違っているという事態を柔軟に受け止め、父親と話し合い、彼に「人前で悟られる言動をしないように」とみっちり教え込んだ。だから現在でも、親類と一部の親しい友人しか、彼の「見える能力」の事は知らないのだという。 「お陰様で、流行りのイジメには遭わなくて済んだようで」
そんな彼が一番見た時期は、高校二年の後半から大学を卒業するあたりだったという。 身体が最も成熟する時期だからではとの意見だが、この頃の広田さんはまさに絶好調。 単に見えるだけでなく、その霊がどういうものかまでが判ったらしい。 「パソコンがデーターをダウンロードする感覚ですか?あれにそっくりですよ。姿を見ていると、情報がすーっと頭に流れ込んで来るんです。ああここで事故にあった方か、同じ町会の亡くなった方だったのか、どこかで自殺された方なのか、などなど」 ところが、そんな中にひどくたちの悪いものがいる。
「別にこの世に執着があるわけじゃないんです。生前もそんなに荒んだ生き方などしていない。誰に恨みがある訳でもない。にも関わらず成仏しようとしない。肉体の縛りが無くなった事によって、生きている頃に出来なかった好き勝手を満喫しているだけという、とんでもない輩がいるんです。これが『悪霊』です」
彼の弁によれば、祟る霊といってもそれは「霊」自身の内側に秘められた無念ややるせなさから来ている憤激のようなものがほとんどなので、同情する余地があるといえばある。 ただ『悪霊』の場合はそれがない。 自分が影響を与えることによって相手が苦しむ様だけを楽しんでいるのだという。しかもやられている側はこちらに手出しを出来ない状態にある。 「簡単に言えば性格が悪いんです。生きているか死んでいるかの差です」
彼はこれまでに何度かそういった「たちの悪い霊」を見た事があるという。 そのうちに良く覚えているものは、幸せそうに手を繋いでデートをしているカップルの後ろをニヤニヤ笑いながら付いていく中年の女の霊と、家族連れでドライブに出掛ける様子の自動車のフロントガラスにべったり貼り付いていた作業服姿の男だった。 「両方とも幸せそうな人たちを何とか困らせてやろうっていう、意地悪な感情だけが伝わって来るんです」 目撃して心苦しくなる事もあるのだが、何が出来るわけでもないので黙っているのだという。 「大丈夫かな、なんて時々思いますけどね。あまりじろじろ見ていると、向うもこっちに気付くんですよ。同じ理屈で感情が伝わるんでしょう」
それは彼が高校生の頃の話。 その日は天気が良く、彼は自転車で行きつけの床屋に出掛けた。 この床屋は彼の家から国道に合流する、急傾斜の長い下り坂の先に位置していた。 学校から戻った彼は何の気なしに自転車に跨るとペダルを漕ぎ、そのまま惰性に任せてスピードを乗せ、坂を下った。 ふと気付くと、少し先の交差点の歩道に、作業着を着た奇妙な男が立っている。 半透明。国道を猛スピードで通り過ぎる車を不気味な視線で睨んでいた。 それを見た瞬間、いつものデーターが、すっとダウンロードされた。 <こいつ、誰か狙っている!> 思った刹那、男がこちらを見た。表情に邪悪な笑みが浮かんだ。 バチン!と大きな音がして、突然、自転車の前後のブレーキのワイヤーが切れた。 あっと思った瞬間、彼はかなりの勢いで国道へと飛び出していた。 右手側からクランクション。タイヤの軋る音。 焦げるゴムの臭い。 引き攣るライトバンの運転手の顔がはっきり見えた。 ドスン、という鈍い音と共に、広田さんは自転車ともども宙に跳ね上げられた。
「即死コースでしたね」 「え、じゃあ、何で?」 「信じてもらえます?」
ブレーキが壊れ、スピードの乗った彼の自転車より速い速度で、彼の前に何かが飛び出したのだという。 それが何かは分からない。次の瞬間、彼はバンに接触、道路に叩き付けられていた。 自転車はぐしゃぐしゃに粉砕されてしまったにも関わらず、広田さん自身は擦り傷しか負っていなかった。 バンの運転手も、駆け付けた救急隊員や警官達も思わず目を疑ったという。 ただ、搬送先の病院に駆け付けた母親だけは、あまり動じた様子を見せなかった。
「何でかって聞いたら、『あんたは守りが強いから』って。僕が知らない事知ってるみたいな様子で」 それは良かったですねと答えると、広田さんはあまりいい顔をしなかった。
「あの作業服の男、ちっという顔をして消えたんです。失敗した腹いせに、別の場所で次の人がもっと酷い目に会わされたんじゃないかなって、今でも気掛かりです」
『悪霊』ですからねと、広田さんは付け加えた。
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» [超−1]【+2】悪霊 [幽鬼の源から] × 冒頭から滔々と書かれている【悪霊論】は個人的に非常に近しい理論展開であり、こういう考え方をしている“見える人”がいることは、なかなか心強いと感じた。 ただしこの理論と怪談話は別物である。 前半の論説は全面的に賛意を表するが、後半から始まる怪談話に関し .. ... 続きを読む
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» 【+3】「悪霊」 [DJ ZIRO『超-1 2007』感想ブログから] × 「見える人」の話でよく陥ってしまう「見える」から信じろ的な押し付けがましくなく、 ... 続きを読む
受信: 22:04, Monday, May 21, 2007
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■講評
序文は見える人ならではの話で、興味深くはあったが少々饒舌すぎるようで気持ち的に萎えるところがあった。 結局「悪霊」というものは、という講義でも聞かされた感がある。 作業服の男のエピソードを「守り」が云々というところ抜きで語った方がストレートな怖さは出たのではないだろうか。 勿論、これは個人的な好みの問題ですが。 素材:+2 文章:0
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名前: 夢屋 陣 ¦ 14:40, Tuesday, May 15, 2007 ×
怖い体験に入るまでの説明的部分がおおい気がする。 もっとストレートにもっていってもよかったのでは? 『悪霊』という表現が効いている気はしない。体験者がそう言っているから仕方がないと思うが・・・ 文章が真面目すぎた印象。 |
名前: 黒ムク ¦ 16:58, Tuesday, May 15, 2007 ×
悪霊の勉強になりました。ダウンロードするように情報が入ってくるっていうのが面白いですね。 広田さんの今後のご活躍を期待しております。文章技術評価1 体験談希少度評価1 |
名前: ナメコ ¦ 20:09, Tuesday, May 15, 2007 ×
怪異自体はそこそこ怖いが、前半の「悪霊」に関する蘊蓄と、ラストの母の言葉は不要だろう。かえってうさんくさく感じる。
「データをダウンロードする感覚」というのもよくわからない。『魔人探偵脳噛ネウロ』で、怪盗Xが似たようなことをやっていたが、彼ならわかるのだろうか。 |
名前: ナルミ ¦ 01:03, Wednesday, May 16, 2007 ×
新解釈の「悪霊」論ですね。
2段落目、3段落目がちょっと未整理な感じがする。
「パソコンがデーターをダウンロードする感覚ですか?…略…」 の説明は的確で興味深い。
「広田」さんの体験も、ありがちな設定だが、事後のことまで「失敗した腹いせに、別の場所で次の人がもっと酷い目に会わされたんじゃないかなって…略…」と心遣いを見せるところは見えても動じない人の余裕か。
「何でかって聞いたら、『あんたは守りが強いから』って。僕が知らない事知ってるみたいな様子で」 の詳細を是非きいて欲しかった。これまで詳しく「広田」さんの異能を語ったのだから、重要なポイントの一つと思うのだが。
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名前: くりちゃん ¦ 12:16, Wednesday, May 16, 2007 ×
内容:1 文章:1
なるほど、悪霊について勉強になりました。 データーがダウンロードされてくるという表現は、なんか面白いと思いました。 死んでも性格の悪いやつは、そのまんまなんですね。 きちんとした体験談もあって、読み応えがありました。 |
名前: ダウン ¦ 23:32, Wednesday, May 16, 2007 ×
一族で広田さん以外に見える人がいないという事ですが、実はお母さんも凄いのでは? 子供が不思議な体質でも、動じなかったり、広田さんの守りといわれるものも広田さん本人よりも知っている様ですし。 お母さんにも取材出来れば、何かありそうですよね。
お話ですが、データのダウンロードという表記はとても興味深いです。 見える人にも色々な見え方があるのでしょうが、こういう方法もあるのですね。 凡人からは想像出来ないです。 |
名前: フジ ¦ 00:15, Thursday, May 17, 2007 ×
「見える人」の薀蓄→簡潔なエピソード→本題は「守られているので助かった」で終了。 流れが5/12掲載の「取材」と似ていて、新鮮味はありませんでした。作者の方が同一でないのなら、後から読まれた不運ということでご了承ください。
漏らさずしっかりと取材されている証だとは思うのですが、ここまで書いてくれなくてもいいよーというのが正直なところ^^; 生い立ちのお話は特に、「他人に明かさずに過ごしてきたのに、こんなに話してくれたよ!」と言いたいのかな…と邪推してしまいました。
「取材」にも書いたんですが、密な前フリで「これはすごい人だ!」と期待が高まるのです。 読み終えてからの感想は、見て良し悪しを判断できても、やっぱり自分にふりかかったらどうにもならないのね…。強いものに守られているのが不幸中の幸いかな?と(´・ω・`) これは決して広田さんの能力が弱い・胡散臭いといった意味合いではないし、広田さんの責任ではないと思います。 |
名前: 13 ¦ 22:00, Thursday, May 17, 2007 ×
素材・1 文章・−1 饒舌に過ぎる。 そのわりに、知りたい点が抜け落ちて いるような気がする。 母親は絶対、何か知っているはず。 そこのところをもう少し訊き込んで 欲しかった。 |
名前: つくね乱蔵 ¦ 22:52, Friday, May 18, 2007 ×
-4 0 +4 文章;■■■■■□□□□(±0)…a 構成;■■■■■□□□□(±0)…b 怪異;■■■■■□□□□(±0)…c 恐怖;■■■■■□□□□(±0)…d 嗜好;■■■■■□□□□(±0)…e ※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)
5/12公開の「取材」と同様の印象を受ける所謂「見える人」の独演である。ただし、こちらの作品のほうがライト。 ただ、やはりどこか押し付けがましい感じを受けることは否めない。特に「見える人」の薀蓄部分を長々と綴ってしまうと、ことさらそのことを強く感じる。 ひとつの解釈例として提示する分には問題ないが、一見目新しい「データのダウンロード」という表現も、怪異のイメージが自分に入り込んでくることを当事者独特の表現を用いたに過ぎず、本質はよく耳にする体験と同じであるように思う。 この作品も「当事者が凄いんです!」という前置きを書きすぎてしまった為に、後に用意された怪異が萎縮してしまったように思う。 ただし、これも私個人の一意見であることを付け加える。 |
名前: 空 ¦ 12:12, Saturday, May 19, 2007 ×
う〜ん・・・こういうのも、書き手としての満足感をありのままに見せられたようで気分が萎える。 似たようなテイストで書かれたこないだのものにも書きましたが、私はこういう自慢話に似たものは苦手なので、ついつい評価点が低くなってしまいます。 それに目を瞑っても評価点が低い部分としては、語りのバランスというか、この話のキモは見える人の話す薀蓄ではなくて、実際に当事者が遭遇した最後の行の怪異だと思うのです。 薀蓄と、普段は人に語ることのない近しい人しか知らない事、それを採取できる書き手の優越感のようなもののボリュームが大きく、肝心の怪異部分のボリュームが小さく、バランスが非常に悪く感じる。 確かに薀蓄部分では「ほぉ」と興味を惹くこともあります。 ですが、クローズアップするはそこではないかと。 何かを知っているかも知れない母親の意味有りげな台詞、それの取材もして欲しかったです。 前回の話同様、大事な部分を話し合ってる当事者同士の中の、暗黙の了解的な解釈だけで終わらされているのは読み手を置いてけぼりにして、さらに見下されているように感じる私はただの卑屈ものですか?そうですかorz 文章自体は書き慣れていらっしゃるようで、非常にうまいとは思うのですけどね。 内容−1 文章+1 |
名前: cross2M ¦ 03:36, Sunday, May 20, 2007 ×
希少価値1 文章1 加えておもしろさを1 おもしろかった。 見える人にしか分かりえない「パソコンがデータを・・」という表現が、見えない私にとって興味深かった。 恐怖体験としては、不要な説明もあったが、広田さんの人柄が読めて私的にはよかった。 「あまりじろじろ見ていると、向うもこっちに気付く・・・」というのは想像して怖かった。 「生きているか死んでいるかの差です」の一文も面白い。
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名前: Heath ¦ 00:14, Saturday, May 26, 2007 ×
| 悪霊という題で、どうかな?と。「見える人」の気取った話かと思ったが、中身は予想とは違って、胡散臭くも押し付けがましくもなく理解できた。その大枠に比してご自身の体験が命がなくなりそうなこととはいえ、ちょっとな、と思いました。 |
名前: ペペ ¦ 16:49, Saturday, May 26, 2007 ×
この作品はある観点からの要素を取り込もうとした「実験作」であるといえます。 それは、沢山の方から取材をした僕の経験から来ている事ですが体験談を語る人の半数くらいが、単に怪異を語るだけではく、何らかの手触りで霊のよしあし、体験から学んだ人生の意義、この世とあの世というものの繋がりを悟っているような口ぶりを示したからです。 怖がらせるプラスアルファ霊現象の起こる意味。 ちまたで発売されている怪談コミックにはそういう部分について浅くではありますが触れており、胡散臭いのと紙一重の境界線で読者の購読意欲を掻き立てていてくれます。これが、予備知識のない読者を上手く引き込んでいる気もしないでもない。コミック愛読者と「超」怖怪談の接点を設けて「これも意外と面白いよ」と怪談読者層を広げようとする試みの一石ということではないでしょうか? その反応は読んだ方々にお任せと言う事でしかありませんが、入りやすい怪談、読者層を特化しないために随所に盛り込む必然はアリという気がしました。 |
名前: 矢内 倫吾 ¦ 10:57, Sunday, May 27, 2007 ×
悪霊、ですか。 確かにその禍々しさの一端が見受けられますね。 非常に恐ろしいです。 もっと絞って書かれたこの話を読みたかったですね。 広田さんの能力については、ここまで詳細に描く必要はなかったのではないかと。 もっとメインを重点的に描いて欲しかったなあ。 あくまでも、私の嗜好ですけどね。
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名前: 藪蔵人 ¦ 18:28, Sunday, May 27, 2007 ×
悪霊に対する「仮説」や、情報のダウンロード「がなされているように感じる」といった話は、それはそれで興味深く読ませていただいた。やや饒舌すぎる気もするが。 ただ、その箇所の記述に力が入りすぎていて、「見える人」であることを必要以上に強調しているようにも感じられる。率直に言えば、作業服の男が登場した辺りから話を始めても十分ではないか。 矢鱈と前振りが長い話は敬遠されがちである。それが「自称・見える人」が主人公の話ならばなおさら。 |
名前: GPZ ¦ 21:49, Tuesday, May 29, 2007 ×
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