ニワンゴ「超」怖い話特集ニワンゴから、毎週二回
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解体現場
その現場の前は、柏木さんにとって「鬼門」だった。
「何か怖いっていうか、気持ち悪いっていうか…」

会社の定期異動であったという。
新しい勤務先は東京の下町。まだ昭和の臭いの残る地域だった。
「それまでは池袋近辺だったから、何か随分ムードが違って…」
昼間は大勢の観光客などで賑わう地域なのだが、駅前の区画を除いては、意外なことに大半の会社や店舗が午後六時でシャッターを降ろす。
だから、仕事が忙しくて残業になると、帰り道は真っ暗でしんと静まり返っている。
「まあコンビニとか、チェーン店のドラッグストアとかもあるから、まるっきりってわけじゃないんですが…」
路地を一歩入り込むと、通行する人間の数はとても少ないのだという。
四方を金属パネルで目張りされたその現場は、商店街よりひとつ裏手、営業所のやや手前に位置していた。
「初め見た時、何だろうなって見上げたら、ゾクッって寒気がして、急に気持ちが悪くなって、慌てて目を逸らしました…」
グレーの外装の、古びた四階建てのビル。
どんな用途で使用されていたものかは判らないのだが、彼女はひたすら俯きながらアスファルトの地面だけを見て足早に通り過ぎる。
だが問題のビルはパネルに囲まれたまま、何日経っても解体される気配がない。
「周囲にはユンボやトラックがいるんですが、何か問題が発生してるって感じで…」
柏木さんは暗くなってからは回り道をして、廃ビルの前を通るのを避けるようになった。
その状態が二ヶ月近く続いた頃。
「ある朝見たら、パワーショベルが、がつんがつんとビルの外壁を取り壊していたんです。ああ、やったぁって思いましたよ…」
いったん工事が始まると、こういう作業は進むのが早い。三日後の朝、廃ビルの解体はすでに一階部分を残すのみとなっていた。
「だから、もう帰りにはきれいに無くなっているなって、安心して前を通ったんです」
金属パネルは取り払われ、現場は更地になっていた。
だが。
夜の帳の中で、空気がいつもと違っていた。
ねっとりと重く湿っていて、妙に息苦しい。
生臭い血の臭いがあたりに漂う。子猫のような鳴き声が鼓膜に響いた。
はっと立ち止まる彼女の腕や頬に、ベタベタした小さなものが絡み付く。
柏木さんは悲鳴を張り上げ、その場から走った。

「その廃ビル、産婦人科病院だったんです。堕胎専門って噂があったらしくて…」

居場所が無くなって出て行ったんですねと、彼女は俯いた。








03:39, Tuesday, Feb 27, 2007 ¦ 固定リンク ¦ 講評(20) ¦ 講評を書く ¦ トラックバック(6) ¦ 携帯

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■講評

前半は街の様子や現場の描写が冗長に流れていたが「その廃ビル、産婦人科病院だったんです。〜」から一気に話が終わってしまって、バランスが悪いのではないか。
怪異はありがちな気がするが、こういうささやかな怪異の方が実際には多いのだろう。(体験者はとても怖かったのだろうが)

名前: くりちゃん ¦ 13:51, Tuesday, Feb 27, 2007 ×


なんだか理由はわからないけれど、
気持ちの悪いビルってあるんですよね。
ウチの近くにもあるんだけどそのマンションの前は早足で
通るようにしています。(余談でした)

これは柏木さんが女の人なので出遭った怪異なのだと思います。
水子霊はかわいそうだけど怖いです。
でも堕胎専門って…。そんな病院あるんですかね。
私にはそっちの噂のほうが怖いですよ。




名前: 桜子 ¦ 20:34, Tuesday, Feb 27, 2007 ×


内容:0 文章:0

ビルの正体は気になりました。
しかし、長い前振りの割には怪異がやや物足りないものでした。

名前: ダウン ¦ 21:55, Tuesday, Feb 27, 2007 ×


怪異:水子なのかなぁ。または別の何か?
饐えた血の臭いはリアルで嗅いだことある人間としては厭な感じです。
でも、堕胎専門まで書かなくても大体の人は想像がつくようにも思うんですが……。
書かれてるからそう思うだけかもしれないけど。0
文章:うう、また「…」ですか。
去年も参加されてませんでしたっけ。んでボクに同じこと言われてませんでしたっけ。
一度気になるとすごく気になり出しますよ。
地の文はそれなりなので勿体ない。
でも前半はもっと省略しても良かったです。
ルポとかなら良いのかもしれませんが、実話怪談として語るには余分な贅肉だと思います。-0.5
最後の締めも余分かなぁ。難しいな。

名前: brother ¦ 23:11, Tuesday, Feb 27, 2007 ×


ラストの「居場所が無くなって云々」は不要。体験者の言わずもがなの解釈が怪異の怖さを薄めている。
(という指摘は、去年も何度もしたような気が‥‥)
また、怪異の描写と比較して前半が長すぎる。もっと削れると思う。

名前: ナルミ ¦ 23:45, Tuesday, Feb 27, 2007 ×


全体を通しての雰囲気作りはうまいと思いました。

『ベタベタした小さなものが絡み付』いたというのは、見えたのか感触だけなのかが分かりませんでした。そこを知りたかったです。
文章の勢いを殺さないように詳しい描写を省いたのでしょうか。
そうだとしたら例えば最後に、『「その廃ビル、産婦人科病院だったんです〜。居場所が無くなって出て行ったんですね』という柏木さんの解釈ではなく、ここで『ベタベタした小さなもの』自体について語ったほうが怖くなったのではと感じました。

名前: 雛人 ¦ 23:45, Tuesday, Feb 27, 2007 ×


やはり文章構成のバランスでしょうか、前菜で期待させて、メインディッシュがあっさりといった感じです。
怪異の原因を特定するような書き方は、マイナスかと思えます。怪異自体が、もう少し怖く描写できたんじゃないかと思えるだけに残念。
素材:+2 文章:0

名前: 夢屋 陣 ¦ 14:33, Thursday, Mar 01, 2007 ×


うんうん、あります、イヤな感じがする建物!
私はそこが壊されたあとの更地も気味が悪くて苦手です。
廃病院に面白がって入っていって怖い目に遭ったら自業自得ですが、解体のせいで出てこられちゃったらどうにもなりません。(赤ちゃん達に恨まれそうな言い方ですが)
苦手なところを突かれて怖かったので(+3)で。

>居場所が無くなって出て行ったんですねと、彼女は俯いた。
この台詞と堕胎専門という言葉で、悲しいお話なんだよ、怖がるなよ!と柏木さんに叱られたような気分になりました。
柏木さんの一言がなければ、ゾクゾクしたまま終われました。(−1)

名前: 13 ¦ 20:28, Thursday, Mar 01, 2007 ×


繁華街には意外にあるんです、こういう地下病院。
地下病院とは決して文字通り地下にある病院などではなく(笑)処方箋ナシで劇薬を販売したり、非合法なヤミの治療を施す病院の事で「東京伝説」なんかにもちらちらと姿を現したりします。
この病院跡も、そうした地下病院の残骸だったのかも知れません。
このお話も、本来の日の当たる世界からは覗く事の出来ない「ありえない裏の世界」の一コマと考えると、小粒な怪異は無限に膨張します。よく超怖で突然現れる不可解な赤ん坊の霊。主人公とは何のいわれもないのに通り魔的に現れるそれの出所は、案外こうした場所なのかもと考えると、それはそれでかなり怖いものがあると思うのは僕だけかも知れませんね(笑)
ただし、こうした場所があってもくれぐれもキモ試しなど避けましょうって、そういうバチ当たりがいないとネタが半減しちゃいます(笑)怪談の神様の使徒って、ひょっとして、こういうバチ当たりな方々をいうのかも知れませんね、きっと(笑)

名前: 矢内 倫吾 ¦ 16:12, Saturday, Mar 03, 2007 ×


最後のほうですごく惜しい。
実際に怪異に会う場面が短すぎて、前後のバランスが悪く怖さが半減しているように思います。

名前: コテキツブ ¦ 16:42, Monday, Mar 05, 2007 ×


   -4   0  +4
文章;■■■■■■■□□(+2)…a
構成;■■■■■■□□□(+1)…b
怪異;■■■■■■□□□(+1)…c
恐怖;■■■■■■□□□(+1)…d
嗜好;■■■■■■□□□(+1)…e
※(a+b+c+d+e)/5…総合点(小数点以下第1位四捨五入)

 全体の雰囲気作りは巧いと思う。
 怪異の希少性、インパクトなどを鑑みると高評価とまでは至らないのだが、怪異に対して、それ自体を十分すぎるほどに活かすことのできる文章能力を持った方であるように思う。
 解体日の朝から唐突に夜になるように読めるのだが、ここだけは巧く処理して欲しい。
 このような文章を書ける方に大ネタが降り注ぐことを願いつつ。

名前: 空 ¦ 21:54, Tuesday, Mar 06, 2007 ×


素材・1 文章1 なんだかとても惜しい。 基本的に書ける人だと思う。 どれだけ引くか、ということを意識し始めたら凄い話が書けるのではないだろうか。 怪異その物は面白いのに惜しい。

名前: つくね乱蔵 ¦ 09:47, Friday, Mar 09, 2007 ×


前振りが長すぎたように思いいますが、怪異自体は実に嫌なものですね
産婦人科の時点で全ては読めるので、後の行は蛇足かと
内容+1 文章0

名前: cross2M ¦ 21:28, Saturday, Mar 10, 2007 ×


たんたんとた書き方ですんなり読めた。
最後の原因部分が前半に比べ、あっさりと書かれていたことがやや気になる。
堕胎専門の産婦人科ということがわかったことがこの作品に関しては、悪い効果としてでてしまったと思う。
むしろ、原因がわからないほうが怖さはあったかもしれない。

名前: 黒ムク ¦ 17:38, Monday, Mar 26, 2007 ×


文章:+1 怪異:0

すべてが柏木さんの気のせいでは。
と言いたくなるところですが、その場所に感じる嫌〜な感じというのはわかります。

ラスト、出てきたのかな、ということろはちょっと好きでした。
出てきたのかよ!ってツッコミの意味で。

名前: 晴。 ¦ 15:28, Tuesday, Mar 27, 2007 ×


長めな前半部分で何がやりたかったのか、なんとなく分かる気はします。
でも、超怖の文体でやると上手くいかないだろうな、とも思う。
叙情的な文体を選択すべきだったかもしれない。
その上での「堕胎専門」なら生きてきたのではないでしょうか。

名前: 藪蔵人 ¦ 22:37, Tuesday, May 01, 2007 ×


東京の下町の暗い寂しさが伝わってきて舞台としては最高だったと思います。しかし最後に出てきた怪異が腕や頬にベタベタした小さなものが絡み付くというのではあまりにも直接すぎてせっかくの雰囲気が損なわれてしまったように思います。産婦人科の堕胎専門という説明ものもここでは必ずしも必要なかったかもしれませんね。
文章技術評価1 体験談希少度評価0

名前: ナメコ ¦ 16:35, Wednesday, May 02, 2007 ×


文章力は相当に高いと思う(廃ビル=解体現場である点が、読み進めないとピンと来ないのではあるが)。
しかし、怪異が発生するまでの前置きが長すぎるように思える。
最初の「鬼門」というキーワードからして大変なことが起きる期待があったのだが……。

名前: GPZ ¦ 02:11, Sunday, May 13, 2007 ×


怖いと思っているから、そういう風にとらえてしまったのではないか。雰囲気は良いです。

名前: ペペ ¦ 20:09, Thursday, May 17, 2007 ×


超怖を意識した文体で好感が持てます。
ただ、肝心の怪異部分がやや駆け足気味で終わってしまったため、あっさりした印象になってしまったのが残念です。

文章1 怪異1 =2

名前: 久遠平太郎 ¦ 20:00, Wednesday, May 23, 2007 ×



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